連載 伴大二郎のリテールイノベーション最前線 第1回 急進するD2Cブランドに共通する“パーパスドリブン”な経営戦略とは?
ブランドが愛される理由は”ストーリー”にある!
16年創業の「オールバーズ(allbirds)」は、元プロサッカー選手のティム・ブラウン氏が立ち上げたフットウエアブランドです。ブランドロゴを前面に出したプラスチック製の商品ばかりが世の中にあふれていることに選手時代から疑問を抱いていたブラウン氏は、自然由来の素材を使い、ロゴは必要最小限のサイズに抑えた、手入れのしやすいシューズを開発。今では「世界一履き心地のよいスニーカー」と評価されるまでになりました。
ネームバリューを重視する消費者なら、既存の有名スポーツブランドの商品を手に取るでしょうし、価格を重視するなら手頃な値段のスニーカーを選ぶことだってできるはずです。それにも関わらず一定数の消費者がオールバーズを選ぶのは、ブラウン氏の語る“ストーリー”に共感を寄せるからにほかなりません。オールバーズは、D2Cブランドの好例といってよいでしょう。
続いて紹介したいのが「エバーレーン(EVERLANE)」と「リフォーメーション(Reformation)」という2ブランド。双方に共通するのは、徹底的な情報開示によってブランドパーパスを築いている点です。
たとえばエバーレーンは、「原価の透明性」を掲げ、商品ごとに材料費や人件費、関税、そして送料までの一切合切をウェブサイトで公表しています。さらには各国にある縫製工場の労働環境や倫理基準も掲載し、どういう人たちがどういう環境で働いているのかも明らかにしています。これは、ファストブランドが発展途上国の人に劣悪な環境と安い賃金で労働を強いた結果、死亡者の出る事故を起こしたことへの反発も含まれています。
一方、リフォーメーションは、商品の製造工程で排出・消費した二酸化炭素や水の量、ゴミの排出量といった環境負荷に関する項目をウェブサイトで開示しています。これらの高い情報透明性がもたらすのは、消費者からの厚い信頼です。この姿勢を消費者は評価し、ブランドのファンになっていくわけです。
D2Cブランドがこぞってリアルに進出する理由
さて、冒頭でD2Cブランドを「デジタルによって消費者とダイレクトにつながっている」と紹介しましたが、現在、彼らはリアル店舗にも進出しはじめています。これは、自分たちの商品を実際に見て試してもらうことで消費者の興味を喚起し、新たなファンを創造することが目的です。端的に言うと、ECは「売上を立てるところ」、店舗は「ブランドへの入口」として使い分けている。“面”を獲得し体験してもらえるリアル店舗は、デジタルを補完しシナジー効果を生む。そう考えた彼らの次の一手と言えるでしょう。
ここで特筆すべきは、電子レシートをCRM(顧客関係管理)のスタート地点として活用していることです。店舗で商品を購入した顧客に対して「電子レシートを発行するのでメールアドレスを登録してください」と促し、後日、メールを介して自社ブランドの取り組みを発信することでコミュニケーションを図るという仕組みです。顧客にとっては、「たまたま見つけた新しい店」くらいに思っていたブランドが、優れたパーパスを持っていることに共感し、リピーターへと変わる。この流れをつくることで、パーパス重視の考えを消費者に根付かせています。
共感を呼ぶストーリーや徹底的な情報開示。これらへのこだわりがブランドや顧客に新たな価値を生み出しています。そのなかで「シグネチャー・ストーリー(心を動かされるストーリー)」とも言われる企業やプロダクトを表し伝承される真実のストーリーを共に作り伝えるかが重要となることに気づかされます。
●著者プロフィール
伴大二郎(ばん だいじろう)
株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリスト パートナー オムニチャネルイノベーションセンター センター長。小売業でデータマイニングやCRMを10年担当した後にオプトに入社、カスタマージャーニーやカスタマーエクスペリエンスなどユーザー視点を軸にマーケティング全般のコンサルティングに従事。