アパレルECで「Rakuten Fashion(楽天ファッション)」が存在感を増している。2019年に「Rakuten BRAND AVENUE」から名称変更・リブランディングして誕生。ECモールで培ったノウハウと楽天経済圏のパワーを最大限に活かしながら、ファッション業界と密に連携し、その進化と成長を支える立ち位置が奏功している。低迷するアパレル市場活性化の期待も背負う、Rakuten Fashionの戦略と可能性に迫る。
楽天におけるファッション事業の流通総額はZOZOTOWNの2.6倍以上
8月に発表された楽天グループの2022年度第2四半期決算(22年4-6月)のデータによると、楽天市場におけるファッションジャンルの流通総額は2663億3000万円。同時期のZOZOTOWNの1010億4300万円の実に2.6倍以上だ。単純比較はできないものの、前年同期比でも8.6%の成長を実現しており、ファッションECにおける存在感は増すばかりだ。
アパレルEC市場は、ZOZOTOWNによる独占的な状況が長らく続いた。その存在を脅かす存在が、ようやく誕生したといえる。
楽天のアパレルECモールは後発だが、「Rakuten BRAND AVENUE」時代から、力は着々と蓄えていた。勢いが加速したのは、2019年「Rakuten Fashion」へのリブランディングからである。
楽天グループとして業界に貢献できる
Rakuten Fashionを指揮する楽天グループ 上級執行役員 コマースカンパニー ヴァイスプレジデントの松村亮氏は、当時を次のように振り返る。
「国内ファッション業界全体の成長が縮小しつつあった。そうした中、楽天グループとして業界に対して貢献できることがあるのではないかと考え、ちょうどご縁で東京ファッション・ウィークのタイトルスポンサーの話もあり、ファッション領域をもう一度捉え直そうということになった」
楽天市場でもアパレル系の店舗が出店している。だが、各アパレルメーカーの世界観を維持するには「楽天」ブランドは必ずしもプラスには作用しない。そこで、各アパレルメーカーがブランド価値を損なうことなく販売できる売場にすべく、大胆なリブランディングが敢行された。
サイトデザインは、ブランドの存在をじゃましない、シンプルでシックなトーンへ。有識者委員会を設置したり、ファッション & カルチャー誌「GINZA」の元編集長 中島敏子氏をクリエイティブディレクターに迎えてウェブファッションマガジン「RF mag.」を開始するなど、コンテンツをファッション感度の高いユーザーにも共感される内容へとブラッシュアップしていった。また東京ファッション・ウィークの冠スポンサーになることで、企業として業界の底上げに対する本気度も力強く示した。
Rakuten Fashion Week TOKYOの意義
『Rakuten Fashion Week TOKYO』について、Rakuten Fashion立ち上げ時に、楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は次のように語っている。
「『Fashion Week TOKYO』の冠スポンサーとして『Rakuten Fashion Week TOKYO』を開催する以上、その名に恥じないよう、サイトのUX/UIを含め、洗練された、東京ファッションを代表するようなサイトにしていきたい」
楽天は、日本のファッションブランドを支援するプロジェクト「by R」を通して、「UNDERCOVER」「TOMO KOIZUMI」「ANREALAGE」など国内人気デザイナーズブランドのショー開催を支援している。これらのブランドはプロジェクトの一環としてRakuten Fashionにも参加、限定商品の販売などを実施している。
日本屈指のECモールが、アパレル側に歩み寄りながら売場を洗練する。ZOZOTOWNとは異なるアプローチで、アパレルECと向き合ったことが、急速に影響力を持つようになった要因であることは間違いないだろう。
楽天グループのリソースはアパレルECに多大なメリット
ファッション業界にとって、楽天グループの魅力は甚大だ。特に楽天ポイントは使い勝手に優れる。楽天市場本体では「ポイ活」が浸透するほど、楽天経済圏に不可欠な施策。これが、出店するアパレルメーカーにとっては、なんとも都合のよい販促施策となる。
値引きでなく、ポイントの付与。お得感を与え、購買を促しながら、ブランド価値は毀損しないのだから、アパレルメーカーにとってこれほど理にかなった販促施策はない。
楽天市場が保有する膨大なユーザーデータ、そして、そこから弾き出される購買パターンが活用できることも大きな魅力だ。「DXだ」と意気込み、自社データを活用しようとすれば、多大なコストと時間を要する。十分なリターンが得られる保証もない。国内屈指のECモールとして培ったノウハウを活用できるとなれば、そのメリットは計り知れない。
リアルとECの融合 業界のDXを全面支援
2021年9月に提供を開始した「Rakuten Fashion Omni-channel Platform」は、在庫の一元管理システムを軸にした、アパレル事業者向けのデジタルソリューションシステムだ。リアルとECの融合が図れ、在庫最適化が可能になるなど、データを最大限に活かした管理が実現し、DXを一気に推進する。
2022年3月にはブランド化粧品を販売する「Rakuten Fashion COSMETICS」を開設。8月にはバニッシュ・スタンダードと提携し、販売員向けオンライン接客支援アプリ「スタッフスタート(STAFF START)」のコーディネート機能と連携。販売スタッフによる商品訴求にも対応した。
加速するアパレルのEC化を牽引するような矢継ぎ早の施策投入は、ファッション界全体をDXの波で覆わんばかりだ。
違和感のない売場にハイブランドも続々参入
ファッション業界へのリスペクトを欠かない数々の取り組みは効果としても現れており、ECモールには縁遠いと思われていたハイブランドの参入も相次いでいる。「我々はあくまでも売場。その前の部分までが元気にならないと活性化はされない」と松村氏。確かに、いくら売場が洗練されても、業界に勢いがなければ、売り買いは停滞したままだ。だからこそ、業界への側面支援はとことんやり抜く。
DX化の潮流を取り込むことで、ファッション業界の活性化と進化を推進
市場ポテンシャルが10兆円前後ともいわれるアパレル市場。リアルは停滞しているものの、EC化は加速している。この潮流をDXをキーワードにして取り込めれば、Rakuten Fashionは、過渡期にあるファッション業界で確固たる地位を確保することになる。
ファッション業界との距離を紳士的に縮めながら、楽天グループのリソースを惜しみなく投入するスタイルで急速に影響力を持ち始めたRakuten Fashion。ファッション業界への本格参入は、業界低迷脱却の触媒であり、同時にDX化を推進する起爆剤として、大きなうねりとなりつつある。