焦点:習氏の「小革命」、強大な権力で社会主義の原点目指す

ロイター(ロイター・ジャパン)
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北京で行われた中国共産党創立100周年の記念式典で、スクリーンに映し出された習氏の姿
9月9日、中国の習近平国家主席は2012年11月に開かれた共産党中央委員会で総書記・軍事委員会主席に選出された際に「社会主義のみが中国を救うことができる」と宣言した。写真は6月、北京で行われた中国共産党創立100周年の記念式典で、スクリーンに映し出された習氏の姿(2021年 ロイター/Thomas Peter)

[北京 9日 ロイター] – 中国の習近平国家主席は2012年11月に開かれた共産党中央委員会で総書記・軍事委員会主席に選出された際に「社会主義のみが中国を救うことができる」と宣言した。しかし、市場経済化した今日の中国で文字通りには受け取られず、手あかの付いたスローガンを形ばかり口にしただけだと、ほとんど気にとめられることはなかった。

ところが、習氏はインターネット企業や営利目的の教育産業、オンラインゲーム、不動産市場のバブルなど広範な分野で締め付けを行ったり、格差解消戦略「共同富裕」を提唱したりするなど、新しい政策を次々と打ち出し、本気で中国を社会主義の原点に回帰させるつもりだということが明らかになってきた。

毛沢東以来、最も強力な指導者となり、18年に2期10年までと定められていた任期制限を撤廃した習氏は、資本主義の行き過ぎを抑え、欧米による負の文化的影響を排除するために、小型の「革命」とも呼ばれる政策を推進している。

こうした取り組みは習氏が17年に打ち出した政治思想「中国の特色ある社会主義に関する習近平思想」の学習を新たに義務付けるといった学校のカリキュラム改変から、不動産部門の規制強化、政府が不健全と見なす娯楽の制限まで、あらゆる分野に及んでおり、投資家の間で不安が広がり、政府や国営メディアがその鎮静化を図っている。

例えば8日付の共産党機関紙、人民日報は最近の規制強化について「市場秩序の是正」や「公正な競争の促進」、「消費者の権利保護」、「社会主義市場経済システムの完成」などが狙いであり、民間部門への支持は「変わっていない」と論じた。

だが、一連の政策の意図するところは明白だと専門家は指摘する。

オックスフォード大学のラナ・ミッター教授(中国史・政治学)は「習氏は新自由主義改革による平等性の毀損(きそん)という、極めて現代的な問題に取り組み、毛沢東主義だった初期の中国を成していた使命感を取り戻したいのだ」と述べた。

こうした不平等や一部産業における膨大な富と権力の集中は、放置すれば社会の安定を損ない、いずれ党の正統性を揺るがしかねない、との指摘もある。

このタイミングでの改革は、欧米モデルを踏襲しなくても自前のハイブリッド型制度で自分たちの問題に対処できる、という中国の自信を反映している。

欧米諸国は新型コロナウイルス対応から米大統領選、アフガニスタン撤退を巡る混乱まで欠陥が次々と露呈し、中国はこれらが欧米の制度崩壊を示していると繰り返している。

チリ在住の政治評論家で、元上海政法大学准教授の陳道英氏は「国家統制モデルは、コロナ禍との戦いで中国にとって有利に働いたようだ」と分析。習氏が政府と市場、権力と資本の間のバランスを取ることに自信を持っているとの考えを示すとともに「危険なのは、国家がはっきりした形で介入せずにいられなくなったときで、こうした動きは資本にとって予測不可能性と政治リスクを生み出す」と警鐘を鳴らした。

規制強化の対象となった中国のハイテク企業の多くが上場する香港株式市場は7月以降、時価総額が6000億ドル余り吹き飛んだ。

習氏がポピュリズムを積極的に推し進めるのは、3期目の任期(5年間)を確実にするため、政策面で自分と立場が異なる幹部を駆逐することができるという自信の表れでもある。もっとも今のところ、習氏に目立った対抗馬は見当たらない。

しかし、習氏の目論見はもっと大きいと専門家は見ている。

北京大学講師のYang Chaohui氏(政治学)は「習氏は壮大なビジョンを持つ野心的な指導者で、党を救い、中国を強くした人物として歴史に名を残すことを正真正銘望んでいる」と述べた。

庶民に寄り添う姿勢

中国共産党は教義の初期段階では毛沢東の下、人々を資本家の搾取から解き放ち、私的所有権を廃止し、アメリカ帝国主義を打ち負かすことを目指していた。

毛氏の後継者であるトウ小平氏は現実路線にかじを切り、市場原理が生産を高めるインセンティブになると認め、40年に及ぶ高成長を成し遂げて巨額の富の蓄積を進めた。だが、深刻な不平等も引き起こした。

今夏の改革は習氏が就任以来、支配力を強化してきたことで可能になった。習氏は大規模な反腐敗運動を展開し、国民の間で反政府勢力が広がる余地をつぶしつつ、社会のあらゆる側面で自らを「中核」とする共産党政権を確立した。

習氏はこの権力を駆使して少子化や学歴主義など、さまざまな社会問題に取り組んでいる。

陳氏は「習氏が役人の汚職や貧富の格差など、一般庶民を苦しめる問題に対処しようとしている」と言う。

国民は、こうした取り組みが成功するかどうかについて懐疑的だ。しかし、多くの親は教育負担の軽減や、未成年を対象にしたオンラインゲーム規制を歓迎しており、支持を得ている政策もある。

陳氏は「習氏は庶民寄りの政策によって道徳面で優位に立ち、党内での権威を確固たるものにしており、政敵が攻撃するのは難しい。結局のところ、社会的平等に反対する人はいない」と話した。

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