アングル:コロナ禍で人気の「後払い」サービス、過重債務の落とし穴
[8日 ロイター] – 昨年初め、米国ノースカロライナ州に住むレオンドラ・ガレットさん(42)は、靴を3足まとめ買いしたいと考えた。オンラインでの購入代金は161ドル(約1万6900円)。彼女は「今買って、支払いは後で(buy now, pay later、BNPL)」サービスを使って、4回の分割払いにした。都合のいい条件に思えたからだ。
だが、今になって、支払いを延滞した場合の但し書きをちゃんと読んでおくべきだったと思い知った。
数カ月後、BNPL決済事業者がガレットさんの銀行口座から代金を引き落とそうとしたとき、十分な残高がなかった。間もなくガレットさんは40ドルのペナルティを請求され、信用スコアは10ポイント下がって一般に「まあまあ(fair)」に分類される650になってしまった。
シャーロット市で地域役員を務めるガレットさんは「消費者としては、細かな字の注意書きを常に読んでおくことが大切だ。誰もやらないけれど」と話す。
後払いサービスで延滞急増
アファーム・ホールディングス、クラーナ、アフターペイ、ペイパル・ホールディングスによる「ペイ・イン・4」といった事業者が提供するBNPLサービスは、新型コロナウイルスによるパンデミックの下でオンラインショッピング志向が強まる中、小売ウェブサイト全体で利用が拡大している。
だが、世界各国の規制当局の中には、多くの買い物客にとって購入が楽になることを危ぶむ声がある。消費者が自分の支払い能力以上に購入してしまうのではないかという懸念が存在するからだ。
顧客の信用スコアチェックを無料で提供しているクレジット・カーマが調査したところ、BNPLサービスを利用した米国の消費者のうち、40%近くが少なくとも1回は支払いを延滞しており、そのうち72%は信用スコアの低下を経験しているという。
ロイターの依頼で行われたこのアンケート調査では、米国内の成人消費者1038人が対象となり、BNPLサービスへの関心について質問。回答者の42%が、すでにこのサービスの利用経験者であることが分かった。
クレジット・カーマでクレジットカード担当本部長を務めるガネシュ・ブハラドワジ氏は「延滞経験のある消費者の比率には驚かされる。予想していたほど少なくはない」と指摘した。
「ここまで便利になると、人は『予算は足りるだろうか、支払う余裕はあるだろうか』としっかり考えなくなる。衝動買いが増え、自分には支払い能力がないのでは、と悟る結果になる」と話す。
信用スコアの低下は、金融機関にとっては消費者への融資リスクが増大したというサインになる。したがってその消費者は、住宅ローンであれクレジットカード加入であれ、借入が難しくなる。公共料金の引き落とし口座を作る、あるいは部屋を借りることさえ難しくなる場合がある。貸主は通常、部屋を貸す前に信用スコアのチェックを行うからだ。
業者は楽観も、当局は規制厳格化へ
経営コンサルタントのオリバー・ワイマン氏は、米国における昨年のBNPL事業者による決済額は200─250億ドルになったと試算している。このサービスは比較的新しく、事業者の一部が株式を上場していないこともあり、BNPL産業全体の規模に関するアナリストの試算はさまざまだが、個々の事業者を見ると、昨年、サービスの普及に応じて爆発的な成長を記録している。
オーストラリアを本拠とするアフターペイによれば、2020年6月30日までの会計年度には、米国内のアクティブな(利用実態のある)顧客が650万人と2倍以上に増加したという。7─9月期の売上高は前年同期比で3倍以上となった。
米国内のアフターペイ顧客のうち、半分以上は25─40歳のいわゆる「ミレニアル世代」だという。
BNPLのビジネスモデルは様々であり、販売時点でショップから得る手数料が最大の収益源となっている事業者もあれば、消費者からの金利や延滞金で稼いでいる事業者もある。
ショップにとっては売上増大につながり、消費者にとっては必要な商品を購入しやすくなり、利用条件が制限されているため、クレジットカードより財務的な破綻につながりにくい、というのがBNPL事業者のうたい文句だ。
それでも、英国・オーストラリアの規制当局は、BNPL産業を巡るルールの検証・厳格化を進めている。規制当局者の中には、BNPLサービス事業者はフィンテック企業に分類されるが、銀行に近いもっと厳しいルールを適用すべきだという声もある。
「クレジットカードより安全」
BNPLサービスが、米国の規制の中でどう位置付けられるかは不明確だ。こうしたサービスを提供している企業は、銀行事業の認可を得ておらず、金利を課していない事業者もあり、管轄する法律も州によって異なっているからだ。とはいえ一部の専門家は、バイデン政権の任期中に、このセクターへの規制がもっと厳しくなると予想している。
BTIGリサーチの金融アナリスト、マーク・パーマー氏は「新政権に問われることの1つは、消費者金融保護局が今後、どのようなスタンスを取るかという点だ。我々は、もっとアグレッシブになると予想している」と話している。
サンフランシスコを本拠とするBNPL事業者のアファームでは、6月決算の会計年度の収益が93%増の5億0950万ドルになった。同社では、利用客が購入額を6週間─4年間の範囲で分割することを認めており、0─30%の金利を取っている。
アファームでは、利用者に対し金利分を実際の金額で提示しており、延滞金や複利は設定していない。アファームによれば、延滞すれば信用スコアに影響が出る場合はあるが、パンデミック下で生計が厳しくなった借り手には協力的に接しているという。
アファームの最高営業責任者、シルビジャ・マーティンスビック氏は「借り手には、無理なく返済できる分だけでいいと話している」と語る。「我が社のテクノロジーが重要なのは、融資の判断に機械学習を利用している点だ」と説明した。
オーストラリアのアフターペイの場合、1回でも支払いが滞ると、その後は利用できなくなる。
同社によれば、グローバルな取扱金額の95%は期日通りに支払われており、延滞金が同社の収入全体に占める比率は14%以下だという。
ペイパルが昨年11月から米国の広い範囲で開始した「ペイ・イン・4」サービスを使えば、30─600ドルの購入金額を金利ゼロで4回に分割して支払うことができる。同サービスのウェブサイトによれば、延滞した場合は居住する州に応じて遅延手数料が発生する。
ペイパルで「グローバル・ペイ・レイター」事業担当グローバル副社長を務めるグレッグ・リジーウスキー氏によれば、米国におけるペイパルの「ペイ・イン・4」サービスでは、消費者信用当局に取引や遅延手数料に関する報告を行っていないという。
「適切な枠組みの開発に向けて、業界や消費者信用当局と協力している」と同氏は語る。
スウェーデンに本社を置くクラーナの米国事業部を率いるデービッド・サイクス氏は、この1年、特に購入金額100─200ドルの領域で急速な成長が見られたと話している。
同氏によれば、クラーナによる融資の大半は小額・短期、無金利であり、顧客にとってはクレジットカードより安全だという。延滞1回まではペナルティが発生しない。遅延手数料は最高21ドルだが、州ごとに規制に応じて変わってくる。同社では25%の上限を設けている。
「クラーナの利用者で、債務に苦しんでいる人はいない」とサイクス氏は言う。「自動車や住宅に関して、複数年度のローンを組んでいるわけではないから」と述べた。
小額で短期のローンにはメリットがあるが、リスクがゼロというわけではない、と専門家は語る。小額ずつであっても、対処しきれない債務になる可能性はある。
マサチューセッツ州スプリングフィールドの保険外交員、タミカ・リベラさん(35)は複数のBNPLサービスを利用しており、一度ならず延滞している。あるケースでは、セーターの購入代金43ドルの残高がなく、結果として銀行の貸り越し手数料が35ドルも発生してしまった。
「こういうサービスは便利だが、困ったことが起きる可能性もある」とリベラさんは語る。
アクセンチュアでグローバルバンキング部門を率いるアラン・マッキンタイア氏は、BNPLというトレンドが信用分野に与える影響は未知数だと言う。
「楽観的な見方をすれば、ミレニアル世代は借金を好まず、もっとしっかり予算を組みたいと考えるだろう。BNPLは先送りしたデビットサービスであり、借り換えしようという誘惑はない」と同氏は言う。
「だが、悲観的な見方をすれば、BNPLサービス利用者の約40%は、クレジットカードの限度額を超えてしまっている、これまでの信用実績が劣悪、あるいは実績がないといった理由で、通常の信用手段を利用できないためにBNPLに頼っている。そういう融資の中には、芳しくない結果に至るものも出てくるだろう」と指摘した。