焦点:10─12月の生産、前回増税時上回る落ち込み 五輪前も低成長か
[東京 31日 ロイター] – 昨年10─12月の生産は前回14年の消費増税時を上回る落ち込みとなった。GDPはマイナス成長が確実視されており、年明けの日本経済も、当初見込みより設備投資回復の遅れが色濃くなってきた。5G向け半導体需要の回復は期待されているが、他の投資の様子見で吹き飛びかねず、資本財の弱さを中心に生産は回復の遅れを余儀なくされるとの見方が強まっている。
生産の基調、前回増税時より弱いとの見方
12月の鉱工業生産は前月比プラス1.3%と市場の予想を上回ったが、経済産業省では「10、11月の大幅低下の戻りとしては大きなものではなかった」とみている。
伊藤忠総研・武田淳チーフエコノミストも「10─12月期の成長率はマイナス成長が確実」としたうえで、新型肺炎によるリスクも踏まえて「今後の生産の回復は当初見込みより遅れるだろう」と、従来より弱気の見方に傾いている。
10─12月を通してみると、生産水準は前期比4.0%の落ち込みとなり、前回消費増税時の14年4─6月の2.9%の減産幅を超す減少幅となった。12月の出荷は現基準で最低となった前月から横ばいとなり、在庫が積み上がっている。
10月の消費増税後、12月になっても消費財(耐久財)はマイナスとなり、個人消費の弱さをうかがわせる。四半期ベースでは、設備投資向けの資本財も6%の減少、建設財も2.3%減少と、いずれの分野も弱い。
背景の一つは外需の弱さだ。10─12月の実質輸出は前期比2%以上の落ち込みとなっている。これまで外需の弱さを補ってきた内需も、駆け込み増産がさほど目立たなかったにも関わらず、その後の減産幅が大きくなっており、反動減として説明しにくい状況だ。
このため「生産の基調自体が前回(消費増税)時より弱い」(ニッセイ基礎研究所・経済調査部長、斎藤太郎氏)との見方も根強い。
1、2月増産計画、新型肺炎織り込まず
先行きの企業の生産計画を反映する予測指数は、1、2月ともに3-4%の高い伸びとなっている。しかし、今回の鉱工業生産の予測指数調査は1月10日締め切りと、新型肺炎の影響が織り込まれていない。
中でも、電子部品デバイス工業の生産は12月に大きく伸び、1、2月はそれぞれ5%台、13%台と大幅な増産計画となっているが、実現に不透明感も出てきた。
半月ほど前までは、IT需要のグロ ーバル・サイクルの持ち直し傾向の明確化が期待されていたのも事実だが、中国での春節休暇の延長や、工場操業の停止などで、アップルも「iPhone」の販売に懸念を示している。
伊藤忠の武田氏は、5G投資の活発化は引き続き期待されるとしながらも、「その規模は国内投資で数千億円と言われている。ほかの投資案件が様子見ないし延期となれば、吹き飛ぶ規模だ」と指摘。5G関連投資がどの程度、けん引役ないし下支え役となれるのか、不安視している
このほかの製造業もサプライチェーンへの影響が広がりそうだ。ホンダ系自動車部品メーカーのエフテックは、武漢市で生産しているブレーキペダルを、フィリピンの工場で代替生産することを決めた。こうした対応が迅速にできればいいが、代替が難しいものもあるとみられ、混乱が生じる可能性がある。
五輪前の景気拡大ムードに不安
懸念されるのは、設備投資の底入れから回復というシナリオの遅れだ。
「製造業の設備投資の回復は、年後半にずれ込む可能性が高まっている」。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏はそうした見方をリポートで示している。
同証券はリポートで中国の第1四半期の成長率が5%を下回ると予想、日本のGDPも、例えば訪日中国人の減少で0.1%ポイント程度押し下げとなるほか、サプライチェーンを通じて生産にも影響が出てくると指摘する。
本来であれば、日本経済は13.2兆円にのぼる大型経済対策のうち今年度補正予算分が早々にも具体化され、五輪に向けたマインド効果やインバウンド需要なども期待されていた。12月ロイター企業調査では、今年前半は景気拡大を見込む企業が4割近くにのぼり、年後半になって景気縮小との見通しが大半となっていた。
しかし新型肺炎の影響が長期化すれば、五輪前でも景気拡大はおぼつかなくなる。ニッセイ基礎研究所の斎藤氏は「中国向けの輸出が再び大きく落ち込むことにより、1─3月期も減産となる可能性が否定できない」とみており、五輪前の景気拡大ムードにも不安が漂う。