瀬戸内オリーブ基金への支援 #1 社内に育ったサステナビリティの樹
1990年代当時、日本最大規模といわれた有害産業廃棄物の不法投棄事件「豊島事件」をきっかけに、建築家の安藤忠雄氏と事件の弁護団長だった中坊公平氏の呼びかけによって設立された「瀬戸内オリーブ基金」。2001年に始まったこの瀬戸内オリーブ基金への支援が、ユニクロのサステナビリティ活動の起点となった。そのはじまりと、社内への啓蒙と社員の巻き込み、そして参加した社員のサステナビリティ意識の広がりを、ファーストリテイリング広報部部長のシェルバ英子氏に取材した。
瀬戸内海に浮かぶ、美しい島「豊島」
香川県の高松港から小型船に乗って20分。瀬戸内海に浮かぶ、豊かな自然に恵まれた小さな島「豊島(てしま)」が見えてくる。棚田やレモン畑、オリーブ畑が広がる、美しい島だ。
現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」の舞台でもあり、今でこそアートの島としても知られつつあるこの島は、40年近くもの間、国内最大級の産業廃棄物の不法投棄の現場となっていた。その後の日本の環境政策に多大な影響を与えるターニングポイントとなる「豊島事件」だ。
豊島事件
1980年代、瀬戸内海に浮かぶ豊島(香川県土庄町)に産廃処理業者が大量の自動車の破砕くずや廃油などの産廃を、野焼きしたり、埋め立てたりした国内最大規模の不法投棄事件。不法投棄は1990年まで続き、その間、島の美しい自然は破壊され続け、住民たちは騒音や悪臭に悩まされ続けた。業者は兵庫県警に摘発され、不法投棄は終了したが、島には大量の産廃と汚染土壌が残された。
1993年、住民は中坊公平弁護士を団長とする弁護団とともに、香川県に対して産廃撤去などを求める公害調停を申立て、2000年にようやく調停が成立。県は2003年から不法投棄された産廃を無害化して処理する事業を開始し、2019年7月までに約91万トンの産廃と汚染土壌を島から撤去した。小さな島の住民たちが求めたのは、美しいふるさとを取り戻すこと。つまり原状回復だ。産廃が撤去されてもなお地下水の浄化などの課題が残されている。
「瀬戸内オリーブ基金」は、2000年に建築家の安藤忠雄氏と中坊公平氏の呼びかけで設立されたNPO法人で、住民たちと共に瀬戸内海の美しい自然を守り、再生することを目指して活動している。
建築家・安藤忠雄氏と柳井社長の出会い
2000年、柳井正会長兼社長が、どこか一緒に社会貢献のできる団体がないかと探していた頃、たまたま共通の友人を介して紹介されたのが建築家の安藤忠雄氏だった。安藤氏は当時、オリーブ基金というNPOを立ち上げたところで、支援してくれる企業を探していた。
山口県出身で瀬戸内海にも馴染みのあった柳井社長は、実際にその現場を訪れ、産廃の不法投棄により傷つけられた現場の惨状と住民たちの苦しむ姿を見て、これは何とかしていかなければいけない、こういう事実を広く伝えていかなければいけないという強い思いを持ったという。
「当時は事業との関連性もありませんし、何かヴィジョンがあったというよりは、とにかくできることをやっていきたいという強い気持ちだったようです。そこで、柳井社長はまず個人で寄付をしました。その後、企業として瀬戸内オリーブ基金への支援を開始し、それと同時に社会貢献室を作ったのです」(広報部部長サステナビリティ担当 シェルバ英子、以下シェルバ氏)
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