あなたの会社のデジタル化が進まない、シンプルだが致命的な要因
複雑すぎるバリューチェーンパターンの副作用
加えて、ここに、さらに、無数の中小の企画、PR、卸、代理店、商社、付属供給や生地、縫製工場から紡績工場、素材メーカーなどが入り交じり、「服」に携わる企業の数は、国内外あわせると天文学的な数字となる。私が過去分析した約80億程度のアパレル企業のバリューチェーンは、仕入先は1000社を超え、ほとんど違いのない重複機能が全体の30%もあり、また、そのパターンは33にまで及んだ。
たった100億弱の企業で、仕入れ先が1000社を超えバリューチェーン・パターンが33もある。これが、1,000億、3000億の中堅アパレルになるとその複雑性はどれほどになるか。想像に難くないだろう。これに対して、商品計画やものづくりの業務フローがしっかり組み立てられているアパレル企業は、仕入れ先を数社に絞り、情報の流れや商品の流れもシンプルにし「見える化」している。
驚くべきは、こうした数千社、数十パターンという非効率と伝言ゲームの塊であるバリューチェーンに、海外製のパッケージを導入しようとする動きである。いうまでも無いが、パッケージというのはベストプラクティスといって、一応、「理想的」といえる業務フローを前提に作られ、わずかなパラメータ設定で動くことが可能だしITベンダーもそう吹聴する。しかし、よく考えてもらいたい。数千もの仕入れ先と数千、下手をしたら数万通りの複雑な企業間連携を前提に標準化されたパッケージがノン・カスタマイズで入るはずがない。まずは、ブラックボックス化されたバリューチェーンの整理整頓が必要なのだ。これはITの話では無く、業務フロー整備の話である。しかし、こうした本質的な部分から手をつけてゆこうと考える企業は意外と少ない。
例えばPLM(生産管理システム)のような海外製のパッケージが、日本ではスポーツ衣料、シューズメーカーなど、自社内で企画、生産、販売が完結するような一気通貫型(自社グループ完結型)企業にばかりに導入させ、日本のアパレル企業には一社も(あるいは部分的にしか)導入されないのは、こうしたことが原因なのである。
私が講演を行うと、「その話は聞いた。もっと新しい話はないか」という質問が必ずでてくるが、改革に魔法の杖は無い。私は、これを改革のABC (A あたりまえのことを B バカにせず C ちゃんとやる)と呼んでおり、「もう、そんなことはやりました」という言葉を聞けば聞くほど、「やりきったのか」と「正しいやりかただったのか」を見に行くことにしている。
まずは、ビジネスフローをとにかくシンプルにし、不要な業務、不要な商品、そして、不要な時間をしっかり仕訳し、外部の取引先と共同でビジネスモデルそのものを普遍的にすべきである。例えば、商社などは、こうした販売先と仕入れ先、部材供給業者や物流の中間に位置し、これらのばらついた業務のバッファー役となっているため、いつまでたっても手書きの縫製仕様書を受け取るところからビジネスが始まり、ハイテク技術もその力を発揮することが難しくなる。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)