DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性により、流通業はじめ製造業など様々な業種でデジタルシフトが加速している。とはいえ、「DXをどのように取り入れればいいのか」という人のために、元アマゾンジャパン幹部メンバーであり、株式会社鶴の林部健二氏に、DX導入のいろはを解説してもらう。
林部健二(はやしべ・けんじ)
アマゾンジャパン創業メンバー。サプライチェーンチームを統括し物流の基礎フレームワークを構築する。約10年間アマゾンのビジネス成長に貢献した後、DNPグループ大手ECを統括指揮。その後国内大手ワイン会社にて通販事業責任者を経て2014年に株式会社鶴を設立。国内外の大手企業を中心にDXと物流に関するコンサルティングを提供している。
DXとは?欠かせないシステム開発会社とのつき合い
DXとは、広義には『テクノロジーの力で世の中を変えていく』ことであり、メディアでも大きく取り上げられている。経済産業省をはじめ、国としてもDXを推進する流れもあり、DXにより生産性を上げることで、世の中の課題を解決していこうという風潮がある。
ICT(インフォメーションアンドコミュニケーションテクノロジー)、IT(インフォメーションテクノロジー)など、コンピューターやインターネットの導入からはじまり、昨今ではAI(人工知能)など、企業のデジタル化が様々な形で進んできた。
「DX=システムを導入する」という図式から、規模は様々だが『システム開発会社』とのつき合いが必要になる。そこで、今回は『システム開発会社』とどうつき合うことが、正しいDXの導入につながるかをお話ししたいと思う。
システム開発会社とつき合う前に、まず必要なのは将来のビジョン
当社では、コンサルティングを通じて企業のデジタル化のお手伝いをするにあたり、『DXの導入は家づくりと同じ』ということを伝えている。
大きな商業ビルを建てたいのか、一軒家を建てたいのか、都心に住みたいのか、田舎に住みたいのか、別荘が欲しいのかなど、家に求める希望が様々であるように、企業がシステムに求めるものも様々である。
ただ、用途に関していうと、ある程度の分類はできる。オンラインの場合には、物販、ECをやりたいのか、メディアと呼ばれるコーポレートサイトのような情報発信を行うウェブサイトを作りたいのか、サービスと呼ばれる何らかの役務を提供するようなものをやりたいのか、だいたいこの3パターンくらいに分かれる。
一概にこれがいいですよと言うものはないが、何をやりたいのかによって、つきあうシステム開発会社が当然変わってくる。
まずは、何をやりたいのか、どういうシステムを作りたいのかを考えてほしい。家づくりで言えば、こんな生活がしたい、だからこういう家が欲しいというのと同じだ。事業においても、こういう事業がやりたい、こういうことをやってお客を喜ばせたい、だからこういうシステムが欲しいという、システムの上位にあることをちゃんと考えることが大切だ。
現在どのような事業を行っていて、今後どのような事業を行いたいのか、どういうビジョンを持っているのかがまず先にあり、次に、だからこういうシステムが必要という順番で考えてほしい。
ビジョンがボヤっとしている状態で、DXを推進しようとしてはいけない。システム開発会社の売り込みに勘違いを起こし、いわれるがままに契約をし、いざ利用しようとすると「何かが違うな」というミスマッチが多々起こるからだ。
つまり、システムの開発には大きな投資が必要になるがゆえ、しっかり考えないと、あとからの後悔が大きくなるのである。
自社に合ったシステム開発会社を選ぶ方法は
システム開発会社を探すには、自分たちが何をやりたいのかを明確にする、RFI(リクエストフォーインフォメーション)を行う、RFP(リクエストフォープロポーズ)を行うという3つの手順が一般的だ。
RFIとは、自分たちのやりたいこととマッチするかもしれないから、まずは開発会社の情報を教えてほしいと情報提供を呼びかけるということ。RFPとは、RFIに基づき、今度はもっと具体的に提案をしてほしいと提案依頼をかけることである。
このような作業を何社かにやって、価格感、提案感、をつかんだうえで、システム開発会社を選んでおつき合いを始めるというのが、大変な作業ではあるが、一番正式な手順である。
ただ、一部の大企業を除き、一般的な企業ではこのような正式な手順を行うことができないことが多い。その場合は、ここまで正式でなくてもかまわないから、いわれるがままではなく、自発的に自分たちが何をやりたいのかをまず考えてほしい。
システム開発会社とうまくいかない理由
このような正式な手順、あるいは正式な手順に近い形でシステム開発会社とのつき合いが始まっても、失敗する例もある。
開発が遅々として進まない、見積もりが変わってくる、そんなの聞いていない、そこまでうちがやらないといけないのかなど、システム開発会社と事業会社の間でいざこざが起こることがある。
なぜこのような問題が起こるのかというと、システムを作るという一連の流れを理解していないからだ。家づくりで言えば、工務店と施主の間でいざこざがあるのと同じだ。
実際にシステムを作るという作業は、ボワッとしたイメージから具体的なこれというものに決めていく作業の連続になる。
決めるという作業をしないと、次に進まないため、工期も費用も伸び、痛い目をみることになるのだ。
例えば、予算を決める場合でも、保守のためのお金も当然かかるが、そういうことも含めて予算化しないと、あとから予算にするのを忘れていたというような問題に発展することを理解しておきたい。
システム開発会社が決まった後に、このようないざこざが起こらないようにするためには、全体を理解して、ベンダーがやること、自分たちがやることを把握して、スケジュールを切って進めていくことが大切だ。
DXをしっかり進めるために、誰が頑張ればいいのか
DXを進めるために「頑張る人」としては、一般論では経営者、担当者、情報システム部門などが挙げられる。情報システム部門がない場合もあるが、この中で誰が頑張ればいいのかといえば、そのシステムを導入することで直接的なリターンが発生する人が頑張るべきだと私は思う。
会社の基幹システムの保守に時間がかかり、システムの導入により情報システム部門が楽になるというのなら情報システム部門が頑張るべき。ECのシステム導入ということなら、ECの利益の受益者が頑張ればいいと思う。
1000億円規模くらいの会社でもDXをうまくやるにはどうしたらいいか
売上1000億円規模くらいの会社では、例えば「何かの品質や成分に関する研究が進んでいる」「工場の運営には自信がある」など、一定の分野などには大変な強みがある会社が多い。一方で、広く一般に消費者がどう行動していて、それにテクノロジーを利用してどう解決したらいいかが分かる人は、このくらいの規模の会社にはいないことが多い。
そうした企業は、DXをうまく進めるにはどうしたら良いか?正論を言えばリーダーシップが大切だ。「こうしたいんだ」、と突き進むリーダーシップ不可欠なのだ。
リーダーシップで進まない場合は「外圧」と「危機感」をもつと進むことがある。競合がやっていることを意識し、自分たちの企業がどれだけのリスクを持っているかを意識することもDXが進むきっかけになりうる。