独自のオムニチャネル型D2Cビジネスで急成長
株式会社FABRIC TOKYO
取締役COO
三嶋 憲一郎 氏
インターネット利用でオーダースーツの敷居を下げる
FABRIC TOKYOが掲げるビジョンは、「CUSTOM WEAR for ALL」つまり「カスタムウエアの民主化を通じて、服を、人生を、この世界をもっと楽しく」だ。もともと創業者である森雄一郎CEOが、自身の身長が高くフィットする服を見つけられないという悩みがすべての始まり。オーダースーツは高価だろうし、若者には敷居が高い。
それをテクノロジーにより解決する。インターネットを使えば敷居が低く、誰でも気軽に注文でき、さらに自社で製品をデザイン・企画して、卸・中間流通を省いて直接、顧客に届けることで、高品質でデザイン性の高いオーダースーツを低価格で提供することを可能にした。ブランドコンセプトは、「Fit Your Life」で、体形やサイズだけでなく生き方や価値観にもフィットすることを目指している。
現在、会員数は12万人、顧客の平均年齢は32歳とかなり若くデジタル世代が多くを占める。東京、大阪、福岡などに14店舗を展開しており、コロナの影響はあるもののスーツ販売数は、22年1月実績で前年比180%と増加。顧客満足度も90%超と高水準を維持している。
さらに21年9月に働く女性を応援するワークウエアを提供する、レディースアパレルブランドの「INCEIN」をスタートした。渋谷にあるショールームで3Dスキャンによる自動採寸を行い、一流デザイナーのデザインをもとに自分仕様にワンピースをカスタイマイズできる。ECサイトでの購買層を前提としたUXを提供し、サイズデータを保存しておき、その他、店舗での接客から取得する趣味趣向などのパーソナルデータも活用している。
D2Cモデルへの転換には「WHY(ビジョン)」が必要になる
FABRIC TOKYOのビジネスモデルは「D2C(Direct to Consumer)」。FABRIC TOKYOは自らメーカーであり、オリジナルブランドを持っている。そして自社の製品を直接顧客に販売する。そのためにテック企業の手法を採用している。さらにSNSなどを通じて顧客との高純度な直接コミュニケーションを武器としている、顧客との距離が最も近いブランドだと考えている。つまりD2Cのスタートアップは「もの売りの皮を被ったテックカンパニー」というわけだ。
自社がD2Cモデルに転換するために何が必要になるのか。結論を言えば「変化はビジョンから始まる」である。今は「EC化率を上げよう」「店舗コストがなくなるので、収益性が改善する」「社内業務にITツールを導入し、デジタル化を推進しよう」「社内のビッグデータを活用しよう」「AIを導入しよう」「店舗にデジタル体験を導入しよう」という「HOW」の話題が目白押し。しかし、重要なことは「WHO(顧客ニーズ)」と「WHAT(自社の提供価値)」からの見直しと考えている。そして、商品が世に出るまでに時間のかかる小売業・メーカーの事業を続けていくためには、強烈な想いと社会価値つまり「WHY(ビジョン)」が必要になる。
単にモノ売りではなくサービス化する「RaaS」にシフト
コロナ禍の中で、人々の嗜好、価値観、ライフスタイルが多様化し、顧客ニーズが複雑化・多様化しているという発見があった。そうした変化を常にキャッチアップし続け、既成概念や組織の力学を捨てて、全て顧客視点で考える時代になったという認識が大事である。D2Cモデルへ転換するために重要なのは「WHO」「WHAT」からの見直しを前提として、自社とお客様にとって必要な施策を洗い出すことである。
D2Cの先にあるのは、小売りのサービス化。リテールがサービス化することで、リテール・アズ・ア・サービスつまりRaaSということになる。RaaSは、サブスクリプションとD2Cブランドを込み合わせたかたちになる。例えばAppleやフィットネスバイクのPelotonのようなビジネスモデルであり、そしてFABRIC TOKYOも今後、RaaSにシフトしていく考えだ。
購入から利用へ、小売からサービス業へと変わっていく。FABRIC TOKYOならば「購入」がゴールではなくスタートとして、購入後の「利用」に寄り添っていきたいと考えている。それに向け22年1月にロイヤルティプログラムをプレローンチした。これは購入金額に応じたランクではなく、着用チェックやアンケート回答など、アクションベースでランクアップしていく仕組みである。これからも顧客起点で「小売のサービス化」に向けた取り組みを強化していきたい。
株式会社FABRIC TOKYO
https://fabric-tokyo.com/
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