薬王堂、関東進出&5年で450店舗の衝撃! 関東1号店の全貌に迫る
※この記事は、約3か月前にDCSオンライン+会員向けに公開した記事を、フリー記事として再公開しています。
東北地方でドラッグストア(DgS)や調剤専門薬局を約400店舗展開する薬王堂(岩手県/西郷孝一社長)が関東進出を果たし、すでに積極的な店舗網拡大に乗り出している。2025年4月11日に栃木県那須塩原市に「黒磯鍋掛店」、6月13日に茨城県日立市に「日立大沼店」をオープンし、まずは北関東2県に進出した。
薬王堂は新たな商圏でどのような成長戦略を描いているのか。関東1店舗目となった黒磯鍋掛店の売場から考察する。

●開店日: 2025年4月11日
●住所: 栃木県那須塩原市鍋掛字鍋掛原1087-1445
●営業時間: 9:00~22:00
●売場面積: 約1190㎡
●アクセス: JR宇都宮線「黒磯」駅からクルマで約8分
小商圏型フォーマットで関東に出店攻勢
1978年に岩手県で創業した薬王堂は、東北6県で事業を拡大してきたDgSチェーンである。当初は食品スーパー(SM)の一角で薬局を運営していたが、82年11月に岩手県矢巾町で初の単独店となる「矢巾店」を出店、その後92年に150坪型DgS「津志田店」、95年に300坪型DgS「花巻南店」、96年には450坪型DgS「矢巾店」と、さまざまな売場サイズにチャレンジしながら、岩手県内外で店舗網を広げていった。
そして現在、同社の成長を支えているのが、売場面積300坪規模を標準とした「小商圏バラエティ型コンビニエンスドラッグストア」である。主に商圏人口7000人前後の郊外立地で、医薬品や化粧品といったDgSの定番商品に加えて、生鮮を含む食品、酒類、冷凍食品、日用雑貨、ペット用品、衣料品、文房具にまで及ぶ幅広い商品ラインアップでワンストップショッピングの利便性を追求。

その一方でフロアレイアウト、売場配置の標準化により店舗運営の効率化を図っており、従業員の店舗業務の負担を軽減。実際に店舗に配置する正社員の数は2人以下になっている店舗も多いという。薬王堂はこのような独自性の高い店舗モデルによって、東北エリアの郊外を中心にドミナントを形成してきた。
「少ない人数でも回せる運営体制」と「高回転・高粗利益を両立させた商品政策」により、収益性の安定したビジネスモデルを実現している。
そして、同社の親会社である薬王堂ホールディングス(岩手県/西郷辰弘社長)は25年4月、26年2月期から30年2月期までの5年間で、関東圏を中心に450店の新規出店を計画していると中期経営計画で明らかにした。
同業他社が積極的なM&A(合併・買収)で急成長する中、関東への出店攻勢をかけることで事業規模の拡大をめざす方針だ。
関東の突破口栃木県に初出店
関東進出の号砲となったのが、栃木県那須塩原市に開業した黒磯鍋掛店である。「これまで東北で培ってきた店舗モデルがどこまで関東で通用するか。まずは北関東での成否を見極める意味で、黒磯鍋掛店は実験的要素も含まれている」と薬王堂で店舗運営部ゾーンマネジャーを務める千葉謙太郎氏は明かす。
黒磯鍋掛店はJR「黒磯」駅から約2.5km東に位置し、周囲はほとんどが農地である。
その光景だけを見れば典型的なルーラル立地だが、競合環境は熾烈を極めている。約1km西には「マツモトキヨシエイトタウン那須塩原店」、さらに3km西に広がる住宅密集地域には、「クスリのアオキ豊住町店」「ツルハドラッグ黒磯豊浦北町店」「ドラッグストアコスモス黒磯店」など大手DgS店舗が集積している。
「すでに多くの競合店がある中で、どうすれば薬王堂を選んでもらえるか。安さだけではなく、“ここに来れば必要なものが揃っている”という信頼・認知を築く必要がある」と千葉氏は強調する。
価格面では、既存店と同様にESLP(エブリデー・セイム・ロープライス)の価格政策を採用し、対象商品はプライスレールに「激得」と表記。対象商品の価格は半年から1年間固定し、定番棚だけでなくゴンドラエンドやその側面にも目立つように陳列する。お客からの支持は厚く、「激得」対象商品の売上は好調だという。
さらに、関東で初めて直接対峙する価格訴求力の強い競合店に対応するため、黒磯鍋掛店では既存店で積極的に行っていたチラシによる価格訴求をあえてせず、削減したコストを価格に反映した「超激得」も打ち出している。「超激得」の商品は競合に負けない低価格を打ち出しており、約3カ月の間、価格を固定することでお客の来店動機につなげたい考えだ。
また、店内入口や奥側壁面には、東北エリアの店舗では導入していないデジタルサイネージを設置した。「超激得」の安さを伝える映像のほか、自社アプリ「薬王堂アプリ」のPR動画を流し、リピーターの獲得を図っている。
前述のチラシを使わない店舗運営という試みは、販促コスト削減につながっており、そのぶんサイネージを利用した店内販促に注力するなど、新たなチャレンジにつなげている。
「チラシを入れなくても集客を実現できており、手応えを感じつつある。販促施策や品揃えは、3カ月・6カ月・1年と定着度を見ながら改善していく」(千葉氏)という。


食品売場を拡大 冷食、飲料を充実
売場を見ていく。薬王堂の標準店では、入口から主通路壁沿いにシーズン品、ヘアケア、オーラルケア、紙製品などが並び、食品売場に続いていく。食品売場では、アイスクリーム、冷凍食品、青果、酒類、飲料、精肉、日配、おにぎりなどのチルド総菜と売場が並び、医薬品や介護用品を経てレジへと続くレイアウトだ。黒磯鍋掛店でもこのレイアウトを踏襲している。
同店の売場面積は360坪と、標準店よりも60坪ほど広い。直近はこの360坪モデルの出店が東北でも増えており、食品を中心に売場を広げている。
とくに目立つのは冷凍食品、飲料の大幅な売場拡張だ。標準店ではリーチインケース3台で冷凍食品を展開していることが多いが、黒磯鍋掛店では7台設置。また酒類のケース売りは、棚を標準店より5本増の8本で並べていた。ただし取り扱いSKU数はほぼ変わらないため、売れ行きのよい商品のフェース数を拡大することで商品の訴求力を高めている。
千葉氏は「冷凍食品や飲料・酒類は需要が高く、既存店でも売場を広げつつある」と話す。
ペット用品では、既存店でも品揃えの強化を進めており、黒磯鍋掛店も同様だ。ペットフードやおやつ、ペットシーツやペット用おもちゃなどのラインアップが充実しているほか、昨今ニーズの高まる冷凍のペットフードも扱っていた。


また、集客装置となる生鮮の売場も設置する。薬王堂は近年、青果と精肉の導入店舗を拡大しており、このうち青果についてはSMに隣接する店舗などを除き、ほぼ全店で取り扱っている。
商品は外部業者から仕入れたうえで、売場管理は自前で行うかたちだ。取材時は「レタス」(198円:以下税別)、「小松菜」(148円)を「激得」商品として、値ごろ感を演出していた。

精肉についてはコンセッショナリーの導入を各エリアで順次進めており、黒磯鍋掛店でもすでに売場を展開。取材時は「国産豚ロース焼肉用」(100g178円)や「国産鶏肉ササミ」(同98円)などを並べていたほか、「牛ばらカルビ味付け焼肉用」(同228円)のような簡便ニーズにも対応した品揃えが見られた。
そのほか、非食品カテゴリーも日用品・衣料品・化粧品の各ゾーンには主力アイテムを並べる。競合対策の核となる「超激得」の商品は、売場全体でPOPを用い、お客に視覚的に安さを訴える工夫がなされていた。
黒磯では早くもドミナント化、茨城県にも新規出店
薬王堂は今後、栃木・茨城・群馬など、東北隣接県への出店拡大を計画しており、黒磯鍋掛店での運営ノウハウの積み重ねは、関東近郊での店舗展開に直結する。すでに黒磯エリアでは黒磯鍋掛店に加え、「黒磯埼玉稲村店」「黒磯埼玉店」「黒磯豊浦南店」の計4店舗を約3カ月の短期間で出店し、ドミナント化を進めている。さらに、6月13日には茨城県日立市に「日立大沼店」をオープン。関東2県目へと歩を進め始めた。
「関東1号店として、黒磯鍋掛店が成功事例として社内に共有されるようにしたい。それが次の出店戦略への土台になる」と千葉氏は意気込む。黒磯鍋掛店を皮切りに、東北で磨いた独自モデルを広域化する本格的なフェーズへと突入しているようだ。
薬王堂代表取締役社長
西郷孝一インタビュー
5年間で450店舗出店という大胆な中期経営計画を掲げ、関東エリアへの店舗展開に踏み込んだ薬王堂。新たな競争環境下で規模拡大をめざす理由や、その戦略について、薬王堂の西郷孝一社長に話を聞いた。

5年で450店舗出店規模拡大へ前進
──関東進出を決めた理由は何でしょうか。
西郷 東北だけで展開していては成長に限界があると感じていた。現在、DgS業界では2兆円規模の企業も出てきており、一定の規模を持たなければ競争に勝てない。店舗拡大に向けた社内の体制が整った今こそ最適なタイミングだと判断した。
──中期経営計画では、30年2月期までの5年間で450店舗の新規出店を予定しています。
西郷 今期は70店、来期は80店と段階的に出店を拡大し、5年後(30年2月期)には110店の新規出店を計画している。メンバーを増員し、スピード感をもって出店準備を進められていることから、この規模の目標を掲げた。出店先は関東が中心となるが、東北にも引き続き出店していく。関東では、まずは栃木・茨城など、東北と隣接するエリアから順に進出していく。飛び地出店は考えていない。
独自のやり方で新たな競争環境へ
──関東進出に伴い、店舗フォーマットは変化していくのでしょうか。
西郷 従来は300坪を基本フォーマットとしているが、関東1号店の黒磯鍋掛店は360坪だ。そのぶん、カテゴリーごとの品揃えをより充実させ、とくに冷凍食品や飲料・ビールのケース販売など食品売場を強化している。これらの重点カテゴリーを軸に、新たな環境下で競争力を高めていきたい。
──関東進出に伴い、新たなDgSチェーンとも競合することになります。どのように戦っていきますか。
西郷 とくに意識している競合については、売価設定が巧みで価格面で非常に手ごわいと感じている。とはいえ、われわれは他社を徹底的に研究するよりも、売場の標準化や、店舗業務の軽減、「激得」による価格訴求など、これまで進めてきたやり方で勝負していく方針だ。
──他方で出店コストが高騰しています。今後の出店政策に影響はありませんか。
西郷 たしかにコロナ前と比べ、出店コストはかなり増加している。しかし、建築費を上回る売上で投資回収できるモデルをめざし出店を進めている。信頼おける不動産業者と組んで店舗網拡大を進めていく。
組織革新に向け攻めの5年へ
──店舗開発の体制はどのようになっていますか。
西郷 人数も増員したが、それ以上に仕事の進め方を抜本的に見直した。小売業というよりスタートアップに近いスピード感と、判断基準を明確化した意思決定体制を取り入れた。この部分は、ほかの小売業とは一線を画していると考えている。
──出店ペースとともに、人材育成も重要になります。
西郷 従来の型にはまらない、独自の教育制度を設計中だ。チャレンジ精神旺盛な社員や若手の登用も積極的に行い、柔軟で即応性ある組織づくりをめざしていく。
──今後の展望について聞かせてください。
西郷 中期経営計画のテーマは「前進」。5年後、10年後を考えた時、われわれは今、動かなければいけないと考えている。規模拡大と差別化、人材投資を通じて、新たな成長ステージへと前進していくつもりだ。
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