プラットフォーム事業拡大に一手! アダストリアの新旗艦店「and ST TOKYO」の全貌

西岡 克(フリーランスライター)

今後の出店戦略とは…?

 「and ST TOKYO」は、「and ST」のリアル店舗として国内28店目となる。海外では24年12月に中国・上海の「and STORE上海」をリニューアルオープンしている。

 国内では郊外ショッピングセンター(SC)やアウトレットモールを中心に、21年より自社ブランド特化型の「and ST STORE(アンドエスティストア)」を展開。今年4月には「ららぽーと安城」(愛知県安城市)に大型店舗を出店した。今後は、「and ST TOKYO」のような他社ブランドも展開する「TOKYO型」と、郊外立地で自社ブランドだけをそろえる「集約型」という2タイプを使い分け、都心・地方両面で多店化を進める計画だ。

 「TOKYO型」は、「and ST TOKYO」の成果を踏まえつつ全国主要都市へ積極的に展開し、さらにはアジア地域の主要都市での多店化も見据える。

 アンドエスティの取締役CBO(最高ブランディング責任者)の小林千晃氏は「他社と協業しながら、情報発信メディアとしての機能を融合させた“モール&メディア”を体現する店舗」と強調。同取締役CSO(最高戦略責任者)田淵淳也氏も「STAFF BOARDやSNSを通じて築いてきた顧客とのつながりを、リアル接点でさらに深化させ、オンラインとの相乗効果を最大化したい」と力を込めた。

SPA型事業から“総合プラットフォーム”型事業へ

 アダストリアグループは、これまで自社ブランドの商品を自社店舗やECで販売するSPA(製造小売)型のビジネスを中心としてきた。しかし今後は、自社のみならず他社ブランドやサービスも取り込み、多くの企業や消費者が利用できるファッションの総合プラットフォームへと事業モデルを転換する方針である。その中核を担うのが、新たに設立した子会社のアンドエスティである。

 アダストリアは24年9月にアンドエスティを全額出資で設立。アダストリアから同年12月にEC事業を、25年3月にはプロデュース事業とデータ・システムソリューション事業などをアンドエスティが吸収分割で承継した。さらに25年9月にはアダストリア本体を「アンドエスティHD」へ社名変更し、持株会社体制へ移行する。今後は「プラットフォーム事業」を強化し、自社ECモールの「and ST」と店舗を共通ポイントでつなぐ会員基盤を拡大、積極的に他社ブランドも導入し、オープンプラットフォーム化を推進していく考えだ。

 現在ECモールの「and ST」の会員数は2000万人を突破し、他社ブランドの参画も33に拡大。衣料品以外にもコスメ、下着、眼鏡、食品などへ商品カテゴリーを広げ、他社との協業も進展している。

 事業領域も拡張する。イトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)の衣料品PB「FOUND GOOD(ファウンドグッド)」の商品開発への参画など、他社ブランドの商品開発や店舗づくり、販促などを支援するビジネスプロデュース事業を強化。購買データやデジタルツールの外販にも注力し、新たな収益基盤を構築する考えだ。OMOツール「STAFF BOARD」を軸とした顧客コミュニケーション、人気スタッフによる商品開発や協業も引き続き推進する。

 海外市場の開拓にも取り組む。アダストリアグループはすでに台湾・中国本土・香港・フィリピンなどアジア各国を中心に合計139店舗(うちWEBストア28店)を展開している。とくに台湾では、公式ECモールの会員数が90万人を超えるなど大きな成果を上げており、STAFF BOARDの外販も始めている。今後は、台湾での成功事例を活かし、アジア地域におけるソフト面の展開を強化する。

GMV1000億円をめざし「第5のチェンジ」へ

 

アダストリアの木村治社長
アダストリアの木村治社長

 アダストリアグループの25年2月期の国内EC売上高は728億円、自社ECモールの「and ST」の流通総額(GMV)は403億円(うちオープン化分11億円)に達した。30年には連結売上高4000億円、同GMV1000億円(他社ブランド分400億円)という成長目標を掲げている。

 同グループは1973年には紳士服業態からメンズカジュアル業態へ転換、82年にチェーンストア制導入、97年はOEM/ODM生産移行、2010年にはSPA化と、時代ごとに事業構造を大胆に転換してきた。今回のプラットフォーマー転換は「第5のチェンジ」(木村社長)と位置づけられる。「『and ST TOKYO』は戦略転換の象徴となる店舗である」と木村社長は力を込めた。

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