昨年12月5日、神奈川県大和市に「パレッテ高座渋谷店」(以下、高座渋谷店)という名のディスカウントストア(DS)がオープンした。見慣れない屋号の同店を運営するのはイオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループ。「未来型DS」を標榜する新業態だが、メディア向けの取材は一切行わず、店舗概要もほとんど非公表という異例のスタートを切った店舗だ。イオンはパレッテを通じてどのような“未来”を描こうとしているのか—―。
コロナ対策と買物利便性を両立した新業態
高座渋谷店は、小田急電鉄江ノ島線「高座渋谷」駅から西へ徒歩約4分の場所にある。イオンの「未来型DS」としてオープンした同店だが、運営にあたるのは、2020年6月に設立されたパレッテという企業。同社のホームページによると資本金は1億円、「高品質・低価格の食品を中心とした日用品を販売するディスカウントストア」を事業内容としている。本部所在地や代表者などは不明だが、本誌の調べによると、3人が同社の取締役として就任しており、うち1人はイオン傘下のDS企業ビッグ・エー(東京都)の三浦弘社長だという。
運営会社もベールに包まれていれば、店舗に関する情報もほとんど公表されていない。昨年12月5日のオープン以来メディア対応は行われておらず、イオン広報によると「実験店として粛々と営業している段階」だという。売場面積は1000㎡程度とみられ、イオンのDSとしては「ビッグ・エー」以上「ザ・ビッグ」未満、といったところだ。
店内に入ってみるとまず驚かされるのが、売場の開放感だ。とくに青果売場の通路幅は広く、天井高もあり、さながらスーパーセンターのような雰囲気となっている。買物しやすいだけでなく、新型コロナウイルス(コロナ)禍での非接触ニーズに対応した売場設計だ。
コロナ禍に合わせた売場づくりはこのほかにもある。売場上部にはカルテック社製のウイルス除去装置付き照明器具を数多く設置。さらに、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:U.S.M.H)の一部店舗で導入されている決済機能付きアプリ「スキャン&ゴー」を、U.S.M.H以外の店舗で初めて採用し、非対面・キャッシュレスでの決済を可能とした。
脱トップバリュ!? 特徴的な商品構成の中身
商品面でも特徴的な点が多い。最たるものが、イオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」をほとんど扱っていないことだ。実際に店舗を訪れた際、酒類売場で「バーリアル」を販売しているほかは、トップバリュ商品は見当たらなかった。
そのため商品構成はナショナルブランドが中心だが、一部カテゴリーではパレッテ開業に合わせて協力企業と開発したオリジナル商品も差し込まれており、「ポテトチップス」「冷凍パスタ」「焼き鳥」などが売場に並んでいた(写真)。「高品質・低価格の食品を中心とした日用品を販売する」というストアコンセプトの中でトップバリュをあえて排したことは、「未来型DS」を確立するために商品構成・商品開発を根本から練り直すという並々ならぬ意志を読み取みとることもできる。
また、メーン入口から青果へと進む途中に、安価な雑貨や小型家電を扱うコーナーを設置。これはビッグ・エーの最新店舗でも導入されているものだ。
もう1つ特徴的なのが、徹底したローコスト運営の追求である。その一環として、生鮮と総菜はすべて外部メーカーからの仕入れで、店内に加工場はない。売場担当者は品出しや在庫・鮮度管理などを行うのみだ。鮮魚はシーフードミックスや干物などの冷凍商品がほとんどで、丸物や刺身などは展開していない。唯一、ベーカリーは焼成機を置き店内製造している。
このほか、菓子や加工食品は、簡単な開封作業でそのまま売場に並べられるシェルフ・レディ・パッケージの施策を採用。一部のパッケージは共通したデザインになっていることから、メーカーとの連携も取られているようだ。
イオンは「未来型DS」を確立できるか?
ここまでを総合して見ると、高座渋谷店は買物利便性とコロナ対策の両立を図りつつ、オペレーションを極限まで効率化するための実験の場になっているとみられる。いまだコロナ収束の見通しは立たず、また、新しい生活様式が収束後もある程度定着する可能性が高い。そうしたなかでイオンはパレッテという新業態を通じて、ウィズコロナ時代の新しい店の形を模索しているのだろう。高座渋谷店はそのプロトタイプに過ぎず、売場・商品・運営手法でさまざまな実験を重ねていくものと思われる。
パレッテについては今後、郊外を中心に100店舗規模での出店を視野に入れているとの一部報道もあるが、いずれにしても、イオンの「未来型DSづくり」がどのような方向に進んでいくのか注目したい。
店名 パレッテ高座渋谷店
住所 神奈川県大和市渋谷5-39-5
営業時間 9:00~21:00
アクセス 小田急電鉄江ノ島線「高座渋谷」駅から徒歩4分