加速するデジタル化の流れ、小売業はどう対処するか?
アドビシステムズ 小売・旅行・CPG業界戦略&マーケティングディレクター
マイケル・クライン

2016/11/08 17:10

 同レポートでわかったのは、モバイル端末経由の売上の伸びがとくに顕著なのは日本だということです。日本のホリデーシーズンの売上に占めるオンラインの売上比率は39%で、そのうちモバイル端末経由の売上は33%、パソコンやタブレットによる売上は6%でした。数年前とは逆転しています。

 

 アジア太平洋地域全体で見ても、スマートフォンのコンバージョン率(ECサイトの訪問者数に占める購入者数の割合)は平均1.4%で、数年前のコンバージョン率は1%未満でしたから、増加傾向にあります。さらに上位企業20社に絞るとコンバージョン率は同2.6%とさらに高くなります。

 

 また、同じくアドビ アナリティクスの調査結果によると、小売企業のサイトに検索アプリを経由してアクセスする傾向が高まっています。小売企業のサイトに直接アクセスする比率は減少する一方で、検索アプリ経由の訪問は13年の24.1%から、15年は39.9%、16年は42.9%と上昇しています。ですから、検索アプリ上でできるだけ上位に掲載されるように、今まで以上にモバイル検索ツールへの対処を重視することをおすすめします。

 

「対話型コマース」が流れを変える

──小売企業では、店舗でのデジタル技術の活用も進んでいます。

 

クライン たしかに、非接触型精算、デジタルディスプレイ、リアルタイムの価格比較、衣料売場の拡張現実ミラー、クリック&コレクトなど、インストア・テクノロジーに関するさまざまな実験が行われています。

 

 しかし、率直に言うと、どれも「デジタルストア」を確立するための“暗号”を解読したとは言えない状況です。つまり、収益を上げるようなビジネスではなく、まだエンターテインメントの域にあると思うのです。

 

 顧客が特定の小売企業のオンラインストアを選択する第1の理由は、オンラインで購入できることはもちろん、店舗での受け取り・返品ができることにあると複数の調査からわかっています。

 

 ところが、当社のビジネスパートナーであるL2の調査によると、アジア太平洋地域ではECを実施する小売企業のうち、店舗での受け取りができる企業は33%、店舗に返品できる企業は42%です。顧客が便利と感じるデジタル機能を使ったサービスは何なのかを顧客の立場に立って考えると、デジタル技術の可能性はさらに広がるのではないでしょうか。

 

 当社は16年6月に、インストア・テクノロジーの予算についてのアンケートを実施しました。北米の小売業100社を対象にした調査ですが、全体の43%が前年よりも予算を増やし、28%が前年とほぼ同額と回答しました。つまり、7割以上の小売企業がインストア・テクノロジーに対して前年と同等、もしくはそれ以上の投資をする計画であるということです。ただし、重要なポイントは、インストア・テクノロジーを使って、現在起きていることの実態や背景をいかに分析できるか、ということにあります。

 

──最近、小売業界でも、複合現実(MR)や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)の導入実験が始まっていますが、これらの可能性をどのように見ていますか。

 

クライン VRを活用することで、たとえば店舗から遠く離れた場所に住む顧客が、あたかも空間移動したかのように実店舗の売場を見て回ることができます。その点でVRは確かにおもしろいのですが、おそらく今後も大半の利用は家庭内に限られ、小売業全体に変革を起こすような存在にはならないでしょう。

 

 一方、家庭内だけでなく、実店舗内での適用性があるのがARです。たとえば家具の購入を検討する場合、アプリを使って実店舗にある家具を自宅のリビングループのイメージに当てはめてみることができます。逆に、自宅に居ながらにして、商品カタログにある商品をリビングルームに置いてみるということもできます。

 

 そのほか、革新的という意味では、「対話型コマース」の技術にも注目すべきでしょう。「対話型コマース」は、話しかけるだけでニュースや天気を教えてくれたり、タイマーや目覚まし時計の役目を果たしてくれたりするデバイスです。

 

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