【特別提言】
流通・小売業界の“勝ち組”のイノベーションとは
アクセンチュアが提案
―― 進化する自動( 補充)発注 ―――
根源的な課題とソリューションの方向性
小売業界で自動(補充)発注がいわれるようになって久しく、特別に目新しい取り組みではないという見方もされているかもしれない。実際に多くの企業がすでに自動(補充)発注に取り組んでいる。しかし、それらは必ずしも成功しているわけではない。それらの自動(補充)発注のメリットもある一方で、デメリットも生じているのが実情である。そして自動(補充)発注への取り組みを今でも躊躇している企業も多いのも事実である。しかしクラウド時代にあってテクノロジーの進化がそれを解決しつつあることにも注目すべきだ。クラウド活用としては陰に隠れがちであり地味かもしれないが、その効果においては否定できない面も認識すべきであろう。
従来の自動(補充)発注の問題点は、根源が米国の成功事例ベースのシステム・ロジックを、あたかも教科書または完成形としてうのみにして、日本のビジネス・マーケット環境ベースで自ら考えるところまで踏み込まないまま、採用してきた点にある。
需要予測といったロジックは複雑かつ専門的であり敷居が高く、コンサルタントの言いなりやパッケージをそのまま導入することに陥りやすい。そのために需要予測型ではなく、セルワン・バイワンや基準在庫、MinMaxなどシンプルな方式に流れやすかった。しかもそれすら難しいと判断し、導入自体を諦めるというケースも少なくなかった。また、需要予測に取り組む場合、課題が生じても、ロジックまで踏み込むことはなく、パラメータでの対応にとどまりがちだったのである。
自戒の念を込めて言えば、コンサルタントやシステム業界がロジック自体をゼロベースで考える力が十分でなかったことや、パラメータ次第でどのようにもなるといった、安易なビジネス展開をしていたという側面があったことも否めないだろう。
自動(補充)発注の背景にあるべきビジネス・マーケット環境
そもそも問題となる日本のビジネス・マーケットの環境や特性とはどこにあるのか。ひとつには人口密度・地価も高く、商品回転率が高いこと。そして店舗スペースは制約があり、高い地価よりも物流を高頻度化するほうが物流コストキャッシュフローの合理性が高いこと。よって発注・配送がほぼ日次で行われているということにある。ちなみに米国では日次発注・配送ではなく、週次発注で1、2回配送が常識となっている。
2つめには、生活スタイルが米国に比べたら月次や日次に根差している要素が強いこと。たとえば、日本ではゴールデンウイークやお盆、年末年始といった長期連休は、過去数年が日並びによって異なり、年によって動き方が変わる。つまり、3連休と5連休では人の動きが変わり、さらに飛び石連休だったらどのように変化するのかなど、その組み合わせによるとともにカレンダーどおりに一斉に休むという国民性も、それを増幅することになる。
労働時間の時短政策から祝日の日数も、米国の倍と多く、3連休の位置や休日日数増減といった、年による細かい違いも多くある。また、給料日が公共セクターも民間企業でも毎月25日に集中しており、それとボーナスを組み合わせて国中の家計が一斉に回っているとも言える。さらに小売業においては、休日やイベントに合わせて日次で多様なプロモーションが展開されることでインパクトが増幅されている。
そのため米国流に全て週次で捉えて分析することは、意味がないというより間違いのもととなる。また、GW、お盆、年末年始などは例外として扱えるボリュームやインパクトでもあり得ない。
米国は夏休みやクリスマスのバケーション・シーズンも期間も年や日並びによって変わったりしないし、週給が一般的だったり、小売業の決算も4― 5― 4週の月次であったりする。一週間という考え方の起源はキリスト教にあるため、生活や社会に強く根付いているわけだ。ちなみに日本に一週間が導入されたのは明治時代の初頭であり、土用の丑や節分など日本の暦にある多くの風習は週という考えでは捉えることができない。
自動(補充)発注が陥りがちな罠とは
その日本のビジネス・マーケット環境の特性や違いがどのように自動(補充)発注に影響するのだろうか。まず、日本においては配送が日次であり、週次の需要予測が大体合っている程度では使えず、日次ベースの凸凹こそが重要である。また、従来の需要予測方式で一般的なSKU(数)×週次需要予測は、前年のシーズンカーブと今年のトレンドなどを織り込んだ膨大なデータを処理するため重く、バッチ処理の計算時間が長い。さらに祝日などへの対応を週次需要予測ベースでどうにかして週次需要予測の日次の精度を上げようとパラメータや上乗せロジックをいじるとさらに重くなってしまう。
その結果、最新の実績を翌日に反映することができなくなることで実績データの鮮度が落ち、このために予測精度も悪化する。また、システムのハードスペックを積み増して無理やり処理させようとして、ROIに見合わない膨大なシステム投資が必要になるということも起きている。加えて言えばシーズンカーブ自体も、日本人は体感温度・季節感に敏感なため、前年や過去を分析しても日次レベルでは、全く使いものにならないことも少なくない。とくに、ここ数年みられる節電の夏や観測史上最高の猛暑の夏、観測史上最低の冷夏など異常気象の影響についても考慮する必要がある。 また、もう1つの問題は欠品の発生や時間の実績による売り逃し推定を捉えて、反映させて対応することができないことにもあるだろう。さらに低回転率商品のイレギュラー需要、たとえば通常ならば1日1、2個の売れる商品が、ある日10個売れた、といったことに対して計算対象から外すといったような柔軟な対応ができないこともある。
一方、基準在庫方式においては、高い回転率に対して見合う店舗在庫であるフェースを、店舗のスペースの制約から十分に取ることができないことが起こりがちだ。そのため行きつくところは論理的に計算された根拠とは到底言えない、属人的なカンと経験を駆使した煩雑な設定やメンテナンスが必要であり、その結果として結局メンテナンスされなかったり、しようとしてもしきれなかったりする。そして対応に遅延が起こりがちで、欠品発生や逆に過剰在庫を起こすことになりがちだ。そのような自動(補充)発注の業務効率化の効果を消してしまうようなことが、日常的に起きていたということだ。
従来の問題点を解決する自動(補充)発注ソリューション
それでは、自動(補充)発注ソリューションは、どうすれば日本のビジネス・マーケットの特性による数々の問題を解決できるだろうか。アクセンチュアでは、以下のようなクラウド活用も含めた、システム+補充発注プロフェッショナル業務運用を一体化した、補充発注ソリューションを提案している。
(1)直近の日別、商品別の売れのばらつき分析ベースのシンプルなロジックを用いて、処理スピード・実績情報鮮度を追求する。
(2)売れ筋の増加傾向、欠品の発生や時間、実績、売り逃し推定を捉え、上記算出結果にプラスαとして積み増していく。それにより見えている需要増要因は確定で積み、トレンドや欠品など見え切れない要因については、予測してもそれを全て積むのではなく、プラスα積み増しにとどめる。
(3)GWやお盆、年末年始などの間の日次特性・反映は人が見る。
(4)イレギュラー需要外しは商品・時期・店舗特性など細かい一つひとつのロジックを積み上げるPDCAサイクルを回す。
ここで注意すべきは(2)(3)(4)は経験とノウハウの蓄積を備えた補充発注のプロフェッショナルが一元的に扱うことだ。
(5)IT部門、SIベンダー、特定個人にブラックボックス化しない。どの商品(ライン)、店舗(エリア)に問題があるか、わかりやすいレポーティング機能とパラメータ・発注量などについて、確実に人間が直接触れる環境が重要。
(6)システムを開発しないと実際の効果はわからないではなく、実データによる実パイロット検証での導入判断を実行する。
以上がアクセンチュアの考える自動(補充)発注の基本的な考え方とソリューションである。
すでに多くの国内企業、複数業態に、このソリューションを提供し、実際に導入されており効果を実証している。消費財メーカーが小売チェーンに対してリコメンドを出すというようなことにも活用されている。その効果・実証のレベルは、平均的な人のカンと経験を上回るというデータも得ている。日本はパートやアルバイトでも、米国などに比べて優秀であり、人による発注精度は高いが、そうした日本固有の特性に本当の意味であった自動(補充)発注のソリューションが、それでも使える時代になっている。
【アクセンチュアについて】
アクセンチュアは、経営コンサルティング、テクノロジー・サービス、アウトソーシング・サービスを提供するグローバル企業です。24万4000人以上の社員を擁し、世界120カ国以上のお客様にサービスを提供しています。
豊富な経験、あらゆる業界や業務に対応できる能力、世界で最も成功を収めている企業に関する広範囲に及ぶリサーチなどの強みを生かし、民間企業や官公庁のお客様が、より高いビジネス・パフォーマンスを達成できるよう、その実現に向けて、お客様とともに取り組んでいます。
2011年8月31日を期末とする2011年会計年度の売上高は、約255億USドルでした(2001年7月19日NYSE上場、略号:ACN)。