数字で紐解く!ニューノーマルにおける東南アジアの小売市場の動向 #1
タイ
2020年上半期の小売市場
タイの小売市場は2019年通年では、GDPの成長率と同じ前年比3.1%の伸長率を見せたが、2020年に入り、1月は前年同月比2.1%減、2月は0.9%減と前年を下回り推移していた。COVID-19の感染防止のための「非常事態令」が発令された3月に、小売市場の売上は前年同月比12.1%減となり、4月にはさらに29.4%減、5月は28.2%減と落ち込んだ。6月にはマイナス幅は改善したものの、依然17.4%減と苦戦している。
「一般小売チャネル」全体は、4月に21.7%減に落ち込んだが、5月は9.3%減、6月には5.3%減となった。一般小売チャネル市場の26.9%を占める「百貨店」は、4月の下げ幅が12.9%減と「一般小売チャネル」全体よりも低い減少率だった。
「医療品/トイレタリー」を除いた他の多くの専門店チャネルは、売上を大きく減少させた。減少率が最も大きかったのは「アパレル/履物/皮革」で、4月には68.9%の減少となった。「文化/レクリエーション(書籍/新聞/文房具)」の減少率も大きく、3月が54.3%減、5月が53.6%減となっている。「医療品/トイレタリー」は、「非常事態令」が発令された3月に前年同月比10.0%増加させ、翌4月には21.6%増となった。COVID-19感染予防のための商品群の購買が大きな要因であるが、5月はその反動を受けて13.7%減となったものの6月は2.5%減と縮小幅を減らしている。
住宅関連の「家電品/家具/家財」の各月の減少率は比較的低いレベルで推移したが、4月には19.8%減となった。「金物類/塗料/ガラス」は2月11.7%減、5月が10.1%減となった。「通販/インターネット」は、20年1月に前年同月比77.3%と大幅に増加し、4月には117.6%増、5月には149.1%増と大きく伸ばしている。
タイの19年通年のGDP成長率は2.4%とASEAN6の中ではシンガポールと並び、低い成長率のレベルにあった。COVID-19の影響を受け始めた20年の第1四半期は前年同期比のGDP成長率は2.0%減となり、第2四半期は12.2%減となっている。20 年6月に発表されたタイの20年の通年GDPの成長率の予測は、IMFが最も成長率が低く7.7%減、アジア開発銀行が6.5%減、世界銀行が5.0%減としている。
タイの小売市場
15年から19年の5年間のタイの小売売上の年平均伸長率をみると、「通販/インターネット」が161.8%という驚異的な伸び率を示している。「通販」と「インターネット」の個別の伸長率は公表されていないが、17年時点では「インターネット」の売上が約90%を占めていることから判断して、この伸びのほとんどが「インターネット」によるものであることが推測される。
過去5年間の小売全体の年平均伸長率は5.2%で、「一般小売チャネル」全体の伸び率に相当する。「百貨店」は小売全体より高い7.7%という年平均伸長率となっている。
「専門店チャネル」の中で大きな市場規模を持つ住宅関連のチャネルは苦戦している。「金物類/塗料/ガラス」の過去5年間の年平均伸長率は0.6%で、「家電品/家具/家財」は年平均1.0%減と市場規模を縮小させた。「専門店チャネル」の中で好調を維持しているのは「アパレル/履物/皮革」(年平均6.7%)と「医療品/トイレタリー」(年平均5.3%)である。
次回のシリーズから3回にわたり、マレーシア、シンガポール、タイの具体的なショッパーと小売市場について要点をご紹介していきたい。
本連載と「ダイヤモンド・リテイルレビュー」について
- ダイヤモンド・リテイルレビューASEANはASEANの中核をなす6カ国(タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナム、フィリピン)のショッパーと小売市場の実態を読み解く有料報告書。ファクトを基盤としたASEAN各国の小売市場の全体像や主要チャネルの現状、ショッパーの支出傾向などを把握することができる。
- 2018年から刊行を開始しており、2020年12月にマレーシア、シンガポール、タイの3カ国の更新版「ショッパー&リテイル2020/21」を刊行。更新版は、2020年上半期の小売市場の状況を特集として扱い、3カ国の小売環境の大きな流れとCOVID禍にある市場の最新情報を提供。
- ダイヤモンド・リテイルレビューASEANの詳細については、下記URLを参照していただきたい。また、インドネシア、ベトナム、フィリピンに関しては、海外往来制限が自由になった後に発刊を行う予定。
- DCSオンラインでは、更新された3カ国の報告書の要点を4回のシリーズにてご紹介する。また、登録をいただいた方には、オンデマンドでプレゼンテーション動画を配信しており、そちらもあわせてご利用いただきたい。
シリーズの内容
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