「安くてダサい」ウォルマートが、「クール」なイメージに変わったブランド戦略

岩田 太郎(在米ジャーナリスト)

米小売最大手のウォルマート(Walmart)のブランドイメージは「Everyday Low Price(毎日が低価格)」のスローガンが示すように「財布には優しい」が、その反面「品質はイマイチで、ダサい」という印象が強かった。しかし、2020年代に入りアパレルを中心にリブランディング。目の肥えた中間層やファッションセンスに厳しいZ世代から「悪くない」「どちらかと言えばクール」という評判を獲得し、成功を収めている。では実際、ウォルマートのどのような施策がリブランディングに奏功したののだろうか。米ディスカウントストア業界の大きな潮流の変化から読み解く。

MDV Edwards/iStock

新デザイナー招聘でブランドデザインを一新

 米市場調査企業ニューメレーター(Numerator)によると、米国連邦政府の低所得層向け食糧購入補助金「補足栄養支援プログラム(SNAP)」の支出先において、ウォルマートはおよそ4分の1にあたる24%を占めているという。ウォルマートはまさに「低所得層の味方」だ。

ウォルマートの売上高の推移。従来は低所得層が顧客の中心であったが、パンデミック以降のインフレを受け、中間層や高所得層にも顧客が広がりつつある(DooFinder)

 25年は、家族が集まって屋外で料理をすることが多い独立記念日(7月4日)にハンバーガーやホットドッグ、サイドディッシュ、サラダ、飲み物とデザートが入った8人用のパッケージを38ドル(5510円、1ドル=145円換算:以下同))で販売。1人当たり6ドル未満で食事を楽しめる商品として好評を博した。

 しかしながら、過去には低価格路線の施策が災いしたこともある。同社は2000年代初頭に「低所得者層が集まり、商品のクオリティが低く、あまり行きたくない店」というイメージが横行。業績にも影響が見られ、悪化の一途を辿っていた。そこで同社は08年、ロゴを刷新し、「Save money. Live Better.(ウォルマートで節約して、より快適な暮らしを)」という新たなコンセプトを掲げてブランド改革を断行し、顧客を呼び戻すことに成功している。

 その後、24年頃から米国メディアで「ウォルマートがクールになった」「多くの人が持っていた偏見が覆された」という趣旨の報道が目立つようになっている。悪化したウォルマートのイメージを回復をめざした08年の改革と比較して、24年は「改善していたブランドの印象をさらに引き上げる」という肯定的かつ積極的なウォルマート側の攻勢であるのが特徴だ。

 たとえば、米『ニューヨーク(New York)』誌などに寄稿するファッションライターのブリタニー・ニムズ氏は、「なぜウォルマートの服はこんなに良くなったのか」と題した24年8月の特集記事で、ドレスやシャツ、ジャケットや靴の実例に触れつつ「ウォルマートのファッションプライベートブランド(PB)の質が向上したからだ」と解説した。

 ニムズ氏によれば、同社は21年に高級ファッションを手掛けるデザイナーのブランドン・マックスウェル氏をクリエイティブディレクターとして招聘。ウォルマートのファッションPB「フリーアッセンブリー(Free Assembly)」や「スクープ(Scoop)」のデザインを一新したという。

 マックスウェル氏は、米著名タレントであるケイト・ブランシェットやレディー・ガガの衣装を手掛けていることでも知られている。彼の指揮による高級化路線に気合が入っていたため、ウォルマートの施策が奏功し始めたというのが、ニムズ氏の見立てである。

 実際に、消費者からは「ベーシックだけど、キュート」「昔と比べて服がもっと魅力的になった」「とくにひいきの店はないけど、ウォルマートは私たちのようなZ世代の財布のヒモを緩めてもらえると思う」といったコメントが寄せられている(米AP通信の2024年7月16日公開記事より)

 また、Z世代に人気のソーシャルメディア「TikTok」でも、インフルエンサーたちがウォルマートで購入したファッションを見せながら、「高級品っぽい」「ウォルマートは本当にがんばっている」などのコメントが見られる。

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