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最悪の状況は回避? 「トランプ関税」で米国の小売業界が準備する対応策とは

2025/03/05 05:55
岩田 太郎(在米ジャーナリスト)
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トランプ新政権が中国・メキシコ・カナダを狙い撃ちにした20~25%の追加関税策を矢継ぎ早に打ち出し、さらに全貿易相手国を対象にした相互関税導入の準備を始めた。「トランプ関税」が最終的にどのような品目にどれくらい影響するのか、まだ明確に見通せない中、米小売各社は「現段階では、影響は当初予想よりひどくない」との見方に傾いている。そうした予想に基づき、①関税賦課の前の在庫の積み増し、②調達先の切り替え、③最後の手段としてのコストの消費者への転嫁など、業界が実行している対策を紹介する。

(出典:Yahoo! Finance)

どこまで税率が上がるかが焦点

 2024年の大統領選挙で、当時のトランプ候補は、中国からの輸入品に60%、中国以外の国からの輸入品に20%の関税を課すと公言していた。しかし現在、米国の小売業界では、トランプ大統領による関税増税策が最悪の「高税率と貿易戦争」には至らないとの見方が有力になりつつある。

 選挙戦直後、全米小売業協会(NRF)は、中国に60%、その他の国に一律10%の追加関税が賦課される「シナリオA(黄線)」と中国に100%、その他の国に20%の税率が課せられる「シナリオB(茶線)」を予想していた(図)

 前者では、アパレルは平均12.5%、靴は18.1%、玩具は38.3%の値上げをし後者では、アパレルは平均20.6%、靴は28.8%、玩具は55.8%高くなると試算。いずれにせよ、インフレが急伸し、消費者や小売業界を直撃するとの見通しだった。

 しかし、トランプ氏の就任後、対中追加関税は20%にとどまり、カナダとメキシコに対する25%の追加関税の発動も1カ月の猶予期間が設けられた。就任前は、米国の主要輸入元である欧州連合(EU)や中国、インドなどへの平均実効関税率が現在の3%から20%程度に上昇すると予想されていたが、結果的には、品目ごとの「個別交渉」となっている。このようなトランプ氏による高税率の脅しは、交渉で有利な条件を引き出すための戦術だという見解が広まっている。

 さらに、米国の金融大手、バンクオブアメリカのアナリストたちは、トランプ大統領が収束する気配のない米国内のインフレに配慮して、物価上昇を引き起こす可能性が高い関税の税率を引き下げる可能性があると論じている。

 一方で、中国への20%の追加関税と、主要原材料である鉄鋼やアルミなどへの25%の関税は決定事項だ。これにより、前述のアパレルやおもちゃをはじめ、自動車、トラック、自転車、家電、スマホ、アルミ缶入りのビールや炭酸飲料など多くの品目で値上げが予想される。

 また、靴に関しては米国がそのほとんどを中国に依存しており、中国側のメーカーや輸出業者のマージンが薄いため、関税賦課による値上がり幅が大きくなると予想される。つまり、中国に対する追加関税が20%であれば、現在抱えている在庫がなくなった後は小売価格も20%前後上昇することもありうる。

 米玩具メーカーのマテル(Mattel)は、トランプ大統領の関税措置に伴うコスト増を相殺するため、「バービー」人形やミニカー「ホットウィール」などの値上げをすでに検討している。また、中国産の商品への依存度が高いダラーストア大手のダラーツリー(Dollar Tree)では、関税賦課を受けて1ドル均一商品を1ドル25セントへと値上げする。

 18年〜19年に実施された対中関税の引き上げでは、人民元安によって米国の輸入物価の上昇が抑制されたことで、米国内の物価は目立った上昇に至らなかった。今回も同様の現象が起これば、小売業界への悪影響は緩和されるとの見方がある。加えて、輸出国の業者が関税によるコスト増をすべて米国の輸入業者や小売に転嫁するわけではないという指摘もある。

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