世界では、爆発的な人口増加が続いていて、この人口増加が世界的な食料不足と飢餓問題を引き起こすといわれている。世界規模で、1人あたりの肉や魚などのタンパク質源の消費量が増加し続ける一方、家畜の飼料となる穀物などの供給が追いつかなくなり、世界でタンパク質危機が起きる可能性もあるという。早ければ、2030年頃には需要と供給のバランスが崩れ始めると予測されている。そうした中、世界で急成長しているのが、食品に関わる課題を先端技術で解決する、フードとテクノロジーを融合した「フードテック」と呼ばれる産業分野だ。普及が進む人工肉の次に来ると言われる、人工魚の最新動向を追った。
人工肉の次に来ると目される、人工魚・Fishless Fishとは!?
フードテックの中でも、テクノロジーを用いた代替食品の開発に注目が集まっている。世界最大のマーケティング調査会社であるニールセンのリポートによれば、2018年は前年よりも、動物性食品の代替となる植物性由来の食品の売上が20%増加した。アメリカでは、植物由来の原料を使って、肉の味と食感を再現する「人工肉」はすでに市場に定着しつつあり、人工肉の世界市場は、2025年までに279億ドルに達すると予測されている。
人工肉最大手のImpossible Foodsは、肉独特の風味に近づけるために、大豆の根から抽出されるDNAからできたヘムや大豆などを使った植物由来のバーガーやソーセージを開発、製造し、現在アメリカやヨーロッパなど7000以上のレストランやファーストフード店に供給している。また、大豆やエンドウ豆などを使ったソーセージ、バーガー、ひき肉などを製造し、アメリカの2万店舗以上の小売店販売されているBeyond Meatもそのフロンティアを開拓している。
人工肉市場が急成長している中、次のブームとして予想されているのが、すべて植物由来でできた人工魚「Fishless fish」だ。Impossible Foodsによれば、植物由来の魚の代替品は優先度が高く、色々な企業が数多くの魚製品を開発していて、その味も本物に近づいている。Impossible Foodsは、2035年までに市場に出回る全ての動物性食品の代替品を開発するという遠大な目標を掲げており、人工魚もその1つだ。すでに、100%植物由来のアンチョビ風味のスープを完成させたという。
ひよこ豆のタンパク質など6種の植物由来成分で作られたマグロ
Good Catch Foodsは植物由来のマグロを開発し、今年自然食スーパーのWhole Foods Marketで販売し始めた。Good Catch Foodsの親会社、Gathered Foodsの最高経営責任者Chris Kerr氏は、「我が社のマグロは、ひよこ豆の粉とレンズ豆のタンパク質を含む、6種類の植物由来の成分で作られていて、ベジタリアンやビーガンの人だけではなく、あらゆるタイプの消費者向けに販売されている」とNew York Timesの取材に答えている。
海や海洋生物に害を与えることなく、本物のマグロと同じ食感、風味、栄養価を持つ製品を作ることを目標に掲げており、本物のツナ缶に近づけるために、Algae oilと呼ばれる藻類オイルを使い、ツナの風味と植物由来のオメガ3脂肪酸を加えた。
他にも、植物性由来のクラブケーキやフィッシュバーガーパティを今年末までに販売予定だ。著者が実際に同社のツナを買って食べてみたところ、見た目は本物のツナ、味は豆の風味が若干残るものの、マヨネーズや塩などとあえると、一味違うツナとして意外と食べられる。
他にもOcean Hugger Foodsは植物ベースの生マグロを開発し、New Wave Foodsは植物由来のエビを開発した。同じく食品企業であるWild Typeは、細胞を培養して、2018年から実験室で人工魚のサーモンを作っている。オレンジ色の切り身状になったこの人工サーモンは、まだ市場には出回っていないが、近い将来、販売されるかもしれない。
Wild TypeのAryé Elfenbeinさんは、「我々のビジョンは、地球上で最も美味しくて、持続可能な、かつ健康的な魚と肉を作ることです。当社の製品は、従来の魚よりも優れた、安価でよりクリーンな代替品を、消費者に提供できるはず」と語ってくれた。
国連食糧農業機関によれば、世界の魚の消費量は、1961年以降、人口の2倍の勢いで増加している。しかし、需要が増加する一方で、供給量は急速に減少している。また、全世界の漁場の約90パーセントで、持続可能な限度を超えた捕獲が行われているのだ。科学者らは、このままだと世界の漁業は、2048年までに完全に崩壊する可能性もあると指摘している。Good Catch Foodsは、持続可能なツナ代替食品によって、魚を絶滅から救うことを目指している。
これらの植物由来の人工魚には、通常の魚にみられる水銀や、マイクロプラスチックは含まれていない。甲殻類アレルギーの人も安心して食べることができる。タンパク質源の持続可能性に対する懸念が高まって、海洋危機に直面している中、植物由来の食品が地球と、不安定な海の生態系への影響を抑えるのに、一役かうことはできるのか。また魚消費大国でもある日本で、人工魚がお目見えする日も近いかもしれない。