百貨店復活のカギは、「過去を否定し続ける」ことにある理由

坂口 孝則(未来調達研究所)
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ニーズの多様化に対応し遅れた百貨店

 百貨店が振るわなくなって久しい。バブル期に10兆円ほどあった市場規模は2020年には4兆円程度と半分以下に減った。コロナ禍の影響で、とくに頼みの綱だったインバウンド(訪日外国人)が消失し、足元で売上はさらに落ち込んでいる。売上はもちろん、利益も出せず最終赤字を計上している企業も大手を含めて多い。コロナ禍に理由を求めるのは簡単だろう。しかし筆者はそれ以上に、百貨店が慢性的に抱える問題が顕在化したように思える。

 たとえば、だいぶ前からEC化の遅れが指摘されていたが、いまだに売上高のなかでECの占める割合が1%にも満たない百貨店が相当数ある。また、1つの店舗に過剰とも言える数の従業員が働いているという、効率化とは程遠い人員配置の問題も指摘されていた。アパレルがECとファストファッションに奪われるなかで、デパ地下や化粧品売場など特定の売場に店員とお客が集中する状況も散見され、それがコロナ禍で報道されたような集団感染につながったともいえる。

 1904年の三越の「デパートメント宣言」を端緒に、百貨店は国内の小売産業をリードするような先端の取り組みを行ってきた。エレベーターとエスカレーターの導入、「お子様ランチ」の発明、さらには屋上に象を持ってくるといった大胆な集客イベントの展開──百貨店そのものをハレ消費の象徴として、大衆の憧れのものにしたのだ。百貨店で食事をしてブランド衣料を買うのは1つのステータスだった時代だ。それがいまでは一変。「最近いつ百貨店に行った?」と聞かれても、思い出せない人も少なくないのではないだろうか。

 かつての“先進性”が仇になっている部分もあるかもしれない。たとえば百貨店は「消化仕入れ」をビジネスモデルの根幹として成長してきた。在庫リスクを抱えることなく、テナントを介して多様な商品を販売できた。しかしその反面、品揃えや商品企画はテナントにほぼ一任することになり、百貨店が顧客のニーズに合わせて商品ラインアップを変えることは難しい。ライフスタイルの変化とともに消費者ニーズも多様化していくなか、顧客の個性や嗜好をとらえた品揃えを提供できないのでは、支持を集めることはできない。

 私は「伊勢丹 新宿店」にお気に入りのブランドの店があってよく行くのだが、同じようなコンセプトのほかの店舗の商品も同時に提案してくれたらいいのにと思うことがある。また、デパ地下の複数の店舗の商品をまとめてギフト梱包してくれるというサービスも欲しいところだ。

未来調達研究所 坂口孝則 氏
未来調達研究所 坂口孝則 氏

 ところ変わって韓国の百貨店大手・新世界が今年8月、大田(テジョン)市に大型店を開業した。「アート&サイエンス」を標榜し、先端科学教育の場としての機能を全面に打ち出した店舗で、教育熱心な富裕層を取り込み、個々の嗜好を深掘りして訴求力のある商品やサービスを提供するのだという。もはや百貨店として括れるような店舗ではない。百貨店の姿かたちは大きく変わりつつあるのだ。

 昔の自分を否定し続け、新しいことにチャレンジし続ける──。このシンプルな姿勢を日本の百貨店各社が貫くことができれば、百貨店市場にも一筋の光が差し込むかもしれない。

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