9月も半ばだが、東京はまだ暑い日も多い。関東地方は7月末の梅雨明けから一転、8月からは猛暑模様の高気温となった。暑さのピークアウトを待ち望みつつ、道産子の筆者は気温の上下に翻弄され、日々、夏バテ気味で過ごしながら、今日も小売業界に少々思いを馳せるのであった。
7payでやらかした3つの失態
8月14日付の某経済新聞の朝刊一面に「セブン、全店売上高減」との見出しがあった。記事の主な内容は「セブン–イレブン・ジャパンの7月のチェーン全店の売上高が前年同月比1.2%減となり、(全店ベースでの)前年割れは9年4ヵ月ぶり」との主旨であった。サブ見出しは“7月、9年ぶり セブンペイ問題逆風”とあり、スマートフォン決済サービス「セブンペイ」の不正利用の発覚およびサービス終了発表が売上減少に影響しているとの見方を示唆しているように見受けられた。たしかに、「セブンペイ」問題は、同社ならびにフランチャイズチェーン(FC)加盟店にとって痛手であったであろう。
ここで「セブンペイ」騒動を振り返ってみよう。セブンペイ(以下7pay)とは、セブン&アイ・ホールディングスの傘下であるセブン・ペイが提供するスマホ決済サービスで、2019年7月1日から全国のセブン–イレブンの店舗にて利用開始となった。しかし、7月3日に大規模な不正利用が判明したことで、7月4日に現金チャージ利用および新規会員登録を停止した。そして、7月30日に共通IDである7iDの全会員(約1,650万人)のパスワードを一斉リセットし、8月1日に7payのサービスを2019年9月30日に廃止することを発表した。この間、金融庁は、セブン・ペイに対して(当該不正使用案件に関して)資金決済法に基づく報告徴求命令を出す事態となっている(7月8日)。
大騒動であったが、セブン・ペイおよびセブン&アイ・ホールディングス(以下7&I・HD)側の失態・失策も否めない状況が続いた。
第1弾は、7月4日の謝罪会見である。セキュリティ上の基本機能である2段階認証を導入していなかった理由を質問された小林強セブン・ペイ社長が「2段階うんぬんと同じ土俵で比べられるのか、私自身は認識していない」と発言し、素人ぶり(あるいは謝罪会見前の準備不足)を露呈してしまった。
第2弾は、8月1日の記者会見である。7payのサービスを9月末で廃止するという重大発表にもかかわらず、運営会社セブン・ペイの社長である小林強氏が同席しなかったことで、“敵前逃亡”との印象が否めないものとなった。そうした流れの中で、後藤克弘7&I・HD副社長の「辞任については今は考えていない」との発言が“誰も責任をとらない”との受け取られ方をした可能性も否めない雰囲気となった。
ただし、当該記者会見での会社側の出席者の顔ぶれを見ると、小林強氏こそ出席していなかったものの、7&I・HDの後藤克弘副社長とグループ内の実務担当者(と推察される布陣)となっている。7月4日会見の反省があったことと、グループ全体の重要問題として再定義し直したと考えられる。また、当該問題に関して、グループの各子会社間・組織間を横断的に調査・調整するには、客観的に見て、ホールディングスの代表取締役・副社長の立場にある後藤氏が陣頭指揮を執る必要があると見られ、経営責任についてコメントできる状況ではなかったはずである。8月1日の記者会見(後藤氏の発言を含む)は、再評価されていいのではないかと思われる。
しかしながら、第3弾が炸裂する。7月30日におけるグループ共通ID「7iD」のパスワード一斉リセットである。これにより、既存のセブンアプリをはじめとした7&I・HDに関連するスマホアプリの利用者は全員、パスワードを再設定する必要に迫られた。しかし、再設定画面は、生年月日や電話番号といった個人情報の再入力を要求するものであった。「セキュリティの甘さを露呈した会社に再び個人情報を提供するとは“よほどのお人好しか、情弱(情報弱者)か”」と反発した消費者が少なくなかったであろうことは容易に想像できる。また、パスワードの再設定に応じようとした利用者も、会社側の不手際で手間取ったようである。
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コンビニ売上苦戦の本当の理由
コンビニ売上苦戦の本当の理由
では7月のセブン-イレブン不振の要因は、7payだったのだろうか? 結論から言えば、気温の前年同月差が大幅にマイナスとなり、かつ記録的な低日照時間だったためだ。<図表1>は、コンビニの客数(既存店・前年同月比)と平均気温の前年同月差(東京都)の推移である。グラフを見る限り、気温の前年同月差とコンビニの客数・前年同月比は概ね同方向となっている。春夏秋冬のいずれであっても、気温上昇によって屋外に出る心理的・肉体的なハードルが下がり、外出する消費者が増加すると推察され、結果的にコンビニの来店客数の増加につながっていると筆者は解釈している。
2019年7月において、大消費地である東京都・東京の平均気温は24.1℃(前年同月差は4.2℃も低く、平年同月差も1.7℃低い)で、2003年7月(22.8℃)以来の冷夏となった。さらに、日照時間(81.1時間)は2007年7月(80.6時間)以来の少なさであり、前年7月(227.2時間)の1/3程度しかなかった。こうしたデータ(平均気温・日照時間)を見ると、(東京都において)梅雨明けが昨年よりも約1ヵ月遅かった影響は大きかったと言えよう。そして、それをビジュアルに表現したものが図表1となる。言うなれば「2019年7月はセブン–イレブンが全店ベースで減収に追い込まれるくらいの冷夏・天候不順だった」と表現できるかもしれない。
最後に、気温の前年同月差のシミュレーション値を用いると、季節要因の先行指標となることを紹介したい。<図表2>は、気温の前年同月差の推移で、より細かく旬ベース(上旬・中旬・下旬)としている。グラフ上のシミュレーション部分は、今後の平均気温が過去5年間の同月同期の平均値並みで推移するとの前提で、前年同月同期差を試算したものである。
図表2を見る限り、9月は(昨年との比較において)高気温で推移する見込みだが、10月以降は(昨年の暖冬の裏返しの形で)寒冬(あるいは厳冬)となる可能性が示唆されている。冬物の季節商品を販売する小売企業にとっては望ましい環境と期待されるものの、図表1を考慮すると、コンビニの販売動向に対しては苦戦要因となるかもしれない。セブン–イレブンを含むコンビニ各社は気を引き締めて今冬を迎える必要があろう。
ところで、2019年8月における東京都・東京の平均気温は28.4℃(前年同月差は0.3℃高く、平年同月差は1.0℃高い)となった。客観的に見て、コンビニを含む小売企業の販売に対してポジティブな環境だったのではないかと推察される。
余談であるが、9月12日付の某経済新聞の朝刊・財務面に「セブン 8月既存店売上高」との見出しがあった。記事の主な内容は「セブン–イレブン・ジャパンの8月の販売実績で、既存店増収率が前年同月比0.1%増だった」との主旨であった。そして、サブ見出しは“強さにじむ0.1%増”“働く女性・高齢者つかむ”である。本稿ではいかなる他紙・他社を批判する意図は全くないので当該記事へのコメントは控えるが、「良い子は真似をしないようにね」と思う今日この頃である。