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スキマバイトサービス「メルカリ ハロ」 後発なのに会員数がタイミーに肉薄の理由

メルカリ(東京都/山田進太郎代表)がスポットワークサービス「メルカリ ハロ」の提供を開始した。「スキマバイト」とも呼ばれるスポットワークサービスはとくにコロナ禍以後から注目されるようになっており、業界全体の登録会員数は10月1日時点で、約2500万人に達しているという。大手企業の参入も続く中、メルカリはどのようなサービスを展開しているのか。

10月23日、東京都六本木のメルカリ本社で行われた発表会に登壇したメルカリ執行役員CEOWorkの太田麻美氏

スポットワークは注目市場

 「メルカリ ハロ」は、2024年3月6日よりメルカリが提供を開始したスポットワークサービスだ。1都3県から始め、4月から全国にサービスを拡大。サービス開始から約7カ月半となる10月15日時点で登録者は800万人を突破した。

 「スキマバイト」とも呼ばれるこの市場は、タイミー(東京都/小川嶺代表)が2018年8月にサービスを開始したスポットワークアプリ「タイミー」を皮切りに拡大が続いている。タイミーの登録者数は現在900万人を突破 (9月9日時点)しており、市場の成長を牽引している。
 メルカリに続くかたちで、今秋にはリクルート(東京都/北村吉弘社長)もスポットワークサービスの開始を予定するなど、大手企業が続々と参入し、競争激化しつつあるスポットワーク市場。その背景にあるのが、雇用環境の著しい変化だ。
 昨今、各企業で賃上げの動きはあるものの、物価上昇の波はいまだ強く、副業による副収入を必要とする人が増えている。また、そういった副収入を求める人の多くは「数時間だけ働きたい」「今日だけ働きたい」など、本職や生活に弊害のない「柔軟な働き方」を求めている。
 一方、企業側は人手不足が深刻化しており、仕事内容によっては「今日だけ人手が欲しい」「この業務だけ任せたい」というケースが増えている。つまり双方において、スポットワークの需要が高まってきており、この両者をマッチングさせるプラットフォームの利用者は増加傾向にあるというわけだ。
 にわかに注目を集める同市場において、3月にサービスを開始した「メルカリ ハロ」が短期間でここまで登録者数を増やせたのはなぜなのか。メルカリで執行役員CEO Workを務める太田麻未氏は「メルカリだからこそ」と説明する。
どういうことか?

事業の垣根を超えた「価値循環」の考え方

 スポットワーク事業については、メルカリ内で以前から構想があったという。コロナ禍以降、週休3日制の普及や副業解禁など、多様な働き方のイメージが社会に浸透。「人の持つ時間やスキルを循環させることで、人の可能性を広げられるのではないかと考える中で、スポットワーク事業とメルカリの領域がうまく合致した」と太田氏は説明する。『あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる』をグループミッションに掲げる同社。「メルカリ ハロ」の課題意識は、同社の価値循環の考え方が軸になっている。
 23年4月にチームを立ち上げ、1年足らずでサービスをローンチ、リリースから3カ月で500万人の登録者を得た「メルカリ ハロ」。ここまで短期間で事業を推し進めた要因は、同社が運営するフリマアプリ「メルカリ」が持つ事業基盤の存在だ。
 同社はまず、「メルカリ」アプリ内に「はたらく」タブを設置し、アプリ内で求人を閲覧できるようにした。単独の「メルカリ ハロ」アプリもリリースしているが、もともと利用している「メルカリ」アプリ内からダイレクトに「メルカリ ハロ」のサービスを利用できる。いずれの場合も「メルカリ」内で利用しているIDとの紐づけが可能なため、「メルカリ」のアカウントがあれば、会員登録や本人確認を省略できる。月間アクティブユーザー数約2300万人を誇る国内最大のフリマアプリから、シームレスに「メルカリ ハロ」にユーザーを誘導することが可能となる。同社のサービスを利用する、圧倒的なユーザー数にリーチできることこそ、同サービスの強みとなっている。

「メルカリ ハロ」アプリ上での操作画面


 利用者が抱く不安や手間をできるだけ解消し、「手軽さ」「簡単さ」を追求することで、利用の際のハードルを大きく下げることは、「メルカリ ハロ」事業においても共通しているという。太田氏は「スポットワーク自体の知名度は高くなっているものの、実際に利用したことがある人はまだ多くない。利用の一連の流れもわからない人が多い中で、既存の『メルカリ』を入口に広い接点を持てることは、大きな強みだと感じている」と同事業の手ごたえを語る。
 また、「メルカリ」の利用者層は幅広く多様だ。利用者の属性が幅広い点は、人手を欲する企業側にとってもメリットになる。若年層の利用者が多いイメージのあるスポットワーク事業だが、「メルカリ ハロ」の登録者の年齢別構成比は40代以上の割合が約4割を占めている。
 さらに、同社の調査によると、実際に「メルカリ ハロ」を通じて勤務した利用者の54%が、はじめてスポットワークを利用した「スポットワーク初心者」だったという。「ハードルを下げたことで、スポットワークの領域全体にとって新しい属性の人に利用してもらえており、リピーターも増えてきている。社会に根付いていく感覚がある」と話し、競合に対する同社の利点と、同事業の社会的意義を感じているという。
 このことが、企業が求人を掲載するメリットにもなっている。

 大手企業では物流業界最大手のヤマト運輸が「メルカリ ハロ」の本格導入を開始したほか、寿司チェーンのすしざんまいが11月以降に導入を全国で進めることを決定しており、導入店舗数は10月15日時点で12万店舗を超えた。業種は物流、小売、飲食など多岐にわたっている。
 また、10月23日からは中小企業や個人事業主のような小規模事業者に向けてのサービス提供を開始。求人掲載を希望する企業が申し込みフォームから申請し、審査を通過することで「メルカリ ハロ」上に求人を掲載できる。
 導入企業に向けたサポート体制も万全だ。複数のスポットワークサービスを併用する企業も少なくないが、そのぶん企業側での管理が増え、業務の負担につながる。同社はこの対策として、併用を希望する企業に労務管理を支援する簡易的なツールを提供するなど、テック企業らしいサポート体制を敷いている。また、リリース当初から当面の間、求人のマッチングに応じて発生する手数料が無料になるキャンペーンを実施している。勤務者の引き抜きも歓迎しており、サービス開始以降、実際に引き抜きが行われた例もあるという。
 また、求人掲載にあたってのサポート体制も敷く。実際に同社の営業メンバーが店舗に赴き、想定される環境で働いてみるというケースもある。業務内容や課題を把握することによって、求人掲載のヒントにするなど、企業とのコミュケーションにも力を入れている。太田氏は「現場の声を聞くことは重視している」と話す。


新たな基盤事業への成長めざす

 太田氏は事業の課題として、スポットワーク市場が「変わっていく分野」である点を挙げる。「市場を取り巻く、法律面や社会の仕組みなどが、変化していくことを前提として事業を動かしていかなければならない」と考えているという。
 また太田氏は、そもそも今考えられている「スポットワーク」の定義すら、これからどんどん形が変わっていくのではないかと話す。「いまのスポットワークは、その相性のよさから飲食やサービス業での広がりが中心だが、オンラインのスポットワーク、資格が必要なスポットワークなど活用できる領域もある。黎明期から成熟期に差し掛かっている中で、スポットワークはこうあるべき・こういうものだと自分たちが思い込まないようにしていく必要がある」と、いま感じている事業の課題を語った。
 今後は、同事業を単体でも伸ばせるものに成長させつつも、「メルカリ」事業との連携や決済アプリ「メルペイ」事業との紐づけも進めたい考えだ。社会の価値の循環をさらに加速させることを軸に据え、事業をさらに発展させていく。「このマーケットでもNo.1をめざす」と話す太田氏。「メルカリ ハロ」は同社の新たな基盤事業になるか。