スーパーマーケット業界のゲームチェンジャー、オーケー創業者・飯田勧氏の経営哲学とは
比叡山に預けられる

終戦後は食料品の統制が厳しく、酒類は配給制となった。そのため酒問屋の営業を再開することはできなかった。そこで父親が始めたのが、当時需要が高まっていた漆器を扱う問屋だった。この漆器問屋の営業を続けているうちに、49年には酒類販売が自由化された。飯田社長の父親はすぐに岡永商店の営業を再開し、飯田社長も経営に参画する。
「自分で言うのも恥ずかしいけれど、優秀なセールスマンでした。仕事も遊びも一生懸命で、楽しい時代でしたよ」と飯田社長は当時を振り返る。
「でもその遊びが度を過ぎ、父親の怒りを買ってしまった。それで比叡山の寺に預けられることになりました」と苦笑する。
比叡山には約半年間滞在した。「僧侶の方々からおまえはいい坊主になると言われてね。とてもよくしていただいた。居心地がよかったものだから、このまま居続けたら山から下りることができなくなるのではないかと不安でした」と打ち明ける。
比叡山を離れるきっかけとなったのは、米国視察だ。このころ通商産業省(現:経済産業省)は、米国への日本酒の輸出の可能性を探るために調査員を募集する広告を新聞に掲載した。それに応募した飯田社長は見事に審査を通過。同省から支給された500米ドルを手に、米国に渡ったのが55年である。
「とくに米国に憧れを持っていたわけではなかったけれども、外国を見てみたいという気持ちはありました」と初めての海外行きについて述懐する。海軍兵学校時代に英語を身につけており、飯田社長は一人で渡米している。
米国で学び、自ら試行錯誤を続ける
米国で見聞を広め、行く先々ではいろいろなことを学んだ。
飯田社長は、この視察で米国の SMから大きな影響を受けたのだろうか?
さにあらず。「ほかのことばかりに気を取られてしまい、SMを見る機会はほとんどありませんでした」と述懐していた。
SMに関心を持ったのは、帰国してから購読を始めた『リーダーズダイジェスト』誌(1922年創刊された総合雑誌)で、米国の食品小売市場でSMが勢力を拡大しているという記事を読んでからだ。
この記事をきっかけに、飯田社長はSMの事業展開について可能性を探り始めた。「問屋は売掛が多くて現金を回収するのに苦労していました。SMは現金商売だから資金繰りの心配は少ない。そのうえ今後発展する可能性が大きいと思ったのです」。
そして58年6月25日、岡永商店の小売 部門としてSM1号店を東京都板橋区内に開業した。出店費用の元手となったのは、父親から借りた500万円。SM経営のノウハウもなく、最初は苦労した。商品の仕入れ先も一から探さなければならないため、社員が某百貨店の納品口で待ち構えて、どの会社から仕入れているのか調査することから始めた。
「マークした会社に電話をしてみても、すぐに取引してくれる会社は少なかった。商品を卸してくれるとしても、卸値は他社よりも高いものでした」と当時を振り返る。
1号店は開業当初こそ集客したものの、次第に客足が遠のいていった。この状況を打開するため、新たな仕入れ先を開拓して品揃えの拡大を図るなど、試行錯誤を続けた。
当時は今と異なり、チェーンストア経営に関する書籍はまだ少なかった。参考にしたのが米国の流通専門誌だ。中でも『プログレッシブ・グローサー』誌(22年創刊)を購読し、必死に勉強した。店舗数は年々増加し、1号店開業から15年ほどで20店舗体制を築いた。
飯田社長は店舗の立地やレイアウト、店舗オペレーションなど、店舗開発から運営まで、米国の雑誌を参考にしつつ、すべて手探りでノウハウの構築を進めてきた。「チェーンストア経営について、人から教わったことはありません。誰よりも勉強してきましたから、自ら試行錯誤していくことが成功する近道だと信じていました」と飯田社長は言う。
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