第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)

フロア収支のリスク

 一見すると、フロア収支は、カテゴリーやフロアごとの損益が明確になるので経営上、有益な情報になるように思う。また、フロア責任者のミッションも担当フロアの売上と利益向上と役割責任も明確となり、モチベーションにも一役買う。しかし、ここに大きなリスクをはらむ。それは全館にかかる経費をどのようにフロアごとに配分するのか、1階と8階のコストをどのように見るのかが非常に難しいという点だ。また、それぞれ売上がKPIとなればフロアの隅々まで売場となり、商業施設としての快適性は失われる。アトリウムや吹き抜けはもってのほかである。

フロア収支を採用しないSC

 SCではこのフロア収支を採用しないと前述したが理由は以下のとおりである。

① 顧客ニーズへの対応
 SCの収入が賃料であり、その視点でテナントの視認性や顧客動線や滞在時間を考慮した上で吹き抜けやアトリウムや子供の遊び場や広いモールを作る。また、顧客ニーズに対応するためクリニックや郵便局などを誘致するが、それらには売上はないため、売上高がKPIである限り、こういった空間環境やテナントの誘致は難しい。しかし、最近の少子高齢化社会の顧客ニーズはむしろこういったサービスにある。

② 集客への貢献
 SCにあるシネコンやフードコートやゲームセンターなどの大きな面積を使うテナントは単位面積当たりの賃料はどうしても低くなる。しかし、シネコンは集客力に貢献し、フードコートは滞在時間を伸ばし、ゲームセンターは子供たちが遊ぶ。仮にフロア収支を考えたら、これらの誘致はできない。

 このようにSCはフロアごとの収支管理より、施設全体の魅力の向上を優先する。もちろんフロア収支により損益管理の精度が上がることは否定しない。しかし、その結果、部分最適となり、全体最適を見失うリスクもはらむ。商業施設は顧客の支持があってこそのビジネスである。 

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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