大パラダイム変化のアパレル、今までとは次元の違う発想が必用な理由

河合 拓 (FPT Consulting Japan Managing Director)

MDの需要予測が外れる理由

 一つ一つ解説してゆこう。

 まず、MDの「需要予測」の問題だが、需要がそもそも激安品に変わっているわけだから、合う、合わないの問題ではない。縮小し合うパイを奪い合って値引き合戦になっている。また、最近では、テクノロジーの進化でダイナミックプライシング(値段を商品や随時で変えてゆく技術)を導入しても、売れる商品はそもそも値引率を変えなかったり、ストックに引っ込めたりしている。だからセールでも売れないものは売れないというわけだ。加えて、日本人の可処分所得が低くなったことで、今は「ユニクロでも高い」といわれ、「GUをユニクロの低価格版にする」というファーストリテイリングの決定は理にかなったものだろうと思われる。

 さらに、スマホの問題だ。スマホというとOMOやオムニチャネルを思い出す人が多いが、その最大のインパクトは、「国民一律同じ服」という価値観を壊したことだ。たとえば、私がプライベートで「河合塾」をオンラインで使っていたときのことだ。1年経って2期目に入ったときに、オフ会をやろうと思い、出席者を集めてみたところ、九州や広島から出席していた人がいたのだ。なんと、1年ものあいだ、私はそれに気付かずにZOOMで授業をしていたことになる。

 こうしたスマホの普及が、年末には家族揃ってテレビの前で八代亜紀の「雨の慕情」を聞いて、学校にゆけば、みんなが「あめあめふれふれ」と合唱することがなくなり、さらに英語ができる人であれば、海外の人ともつながり、押さえ込んでいた(昔は日本の強さであったが)均一な価値観が変化し、むしろ、「自分は特別ではないんだ」という気持ちに変わってきた。たとえば、法的にはまだ認められてはいないが、他県に先駆けて渋谷区はパートナーシップ制度(同性であっても、実質的に一緒に暮らせる制度)を導入し、今では日本の主要都市に広がってきている。このように、マーケティングという概念がワイドマーケティングからナローマーケティング(狭い範囲のマーケティング)へ、そして、パーソナライズ(個人、個人とSKUレベルの商品単位)に変わってきているのだ。

anouchka/iStock

 つまり、需要予測というのは、ネギやニンジンのように、多くの誰もが同じものを買い続けるときに必要であったが、現在はマーケットセグメント自体が想像以上に細かくなってきていることが要因なのである。だから、スーツ市場は下がっていても、パーソナルクイックスーツは成長している(というより、パイを奪っている)のである。

 しかし、これとて「点」の話であり、大局的にみれば日本であと10年生きてゆこうとおもったら、今が最後のチャンスのように思われる。たとえば、国際企業と認知されているファーストリテイリングでさえ、最初に海外にでたのは今から24年前の2001年だ。さて、いまから人口平均年齢(中央値)60歳の日本でさらに貧しく縮小する日本で踏ん張るか、外にでなければ生きてゆけないという危機感から、アジアに一気に進出する決断を速やかにやるかは、企業次第ということになる。

 最後に、これから必用な戦略立案のスキルを3つ上げて、今回の記事を締めくくりたい。それは、①デジタル、②オフショア(東南アジアへの生産でなく販売)、③M&A (日本でのオーガニックグロース:自力で成長することは大変な困難をともなうため、先進的アパレルはM&Aを強化している)の3つである。こうした環境分析をじっくり考え、産業変化の潮目に何をすべきかをじっくり考えるヒントにしていただければ幸いである。

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記事執筆者

河合 拓 / FPT Consulting Japan Managing Director

Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はDX戦略などアパレル産業以外に業務を拡大


著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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