西友買収でトライアルは首都圏をこう攻める?アナリストが評価する意外な点とは


トライアル、西友を傘下に納め売上高1兆円クラブ入り

 トライアルホールディングスと西友の組み合わせは楽しみと言えそうです。単純合算で売上高が1.2兆円になり規模の利益が期待できることに加え、Skip Cartに代表されるトライラルのIT力を一気に西友に展開できるようになりますし、西友店舗圏にトライアルGO(省人小型店舗)を展開する布石にもなりそうです。両者の店舗の地域補完性も高く、申し分ないのではないでしょうか。

  今回トライアルの支払う3800億円が経済合理的か、については議論の余地があるかもしれません。西友の有利子負債の金額がわからないためどの程度の返済負担を負うのか計りかねますが、トライアルはネットキャッシュ900億円程度であり2社単純合算のEBITDAは658億円程度であることから債務が過剰になるイメージはいまのところありません。また西友の2024年12月期のデータを参考にするとPSR(株式評価額÷売上高)0.8倍、PER(株式評価額÷推計当期純利益)25倍と見られますので、株価の評価としてはトライアル株主にとって許容範囲ギリギリと筆者は考えます。

トライラルの株価は反転に向かうか

  今回の発表を受けてトライアルHDの株価は上昇しています(本件発表2025年3月5日、3月6日終値2040円)。しかし、実はこの発表前まで株価は不調でした。

  トライアルHDは2024年3月にIPOしました。IPOの公募価格は1株1700円、上場初値は2215円、2024年9月には最高値3685円をつけています。その後株価は調整した後横ばいで推移していましたが、2025年2月13日に発表された20256月期中間期の決算を契機に急落し、2025年2月28日には最安値1794円を付けました。上場初値を下回り、あとわずかで公募価格になる厳しい株価推移でした。

  この原因は先ほどの決算内容です。既存店売上高が前年同期比+3.9%増、さらに新規出店効果で売上高が同+11.1%増となったにもかかわらず、出店費用と人件費・光熱費などが嵩み営業利益が同▲16.2%減、売上高営業利益率2.4%(同▲0.8ポイント低下)となりました。「トライアルですら昨今の店舗運営コスト増に抗することが難しい」という印象を投資家に与えてしまいました。

  今回の西友買収は、実に絶妙なタイミングで、トライアルの成長ポテンシャルについて投資家にポジティブな再考を促すきっかけになったと思います。今後のPMIM&A後の統合プロセス)が思惑通りに進むのかが問われるのは言うまでもありませんが、投資家に対するIRの内容も改善してはいかがでしょうか。

  成長企業はどうしても先行投資が大きく損益の見栄えが芳しくなくなり、投資家の正当な評価を得るにはひと工夫が必要です。そこで、収益動向を、既存店・新店・西友・統合効果など可能は範囲で分解して投資家に示していくことをお願いしたいと思います。こうすれば投資家の不要な心配を払拭できることでしょう。

  トライアルの推移を眺めると、筆者はどうしても同じ九州地盤でディスカウントを強みとするコスモス薬品に重ね合わせたくなります。コスモス薬品も目先の業績にこだわりすぎず、やるべき成長戦略を着々と推進して現在の位置にあります。トライアルがコスモス薬品の歩んだ業績と株価の推移を追うことになるのか、注目度が高まっています。

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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