快進撃を支える「掛け算」と「引き算」
ロピア(神奈川県/髙木勇輔代表)がかつてない勢いで出店ラッシュをかけている。これまで年間10店舗前後のペースで出店を重ねてきた同社だが、2024年に入ってからは10月までに国内15店舗を出店。11月にも北海道、青森県、神奈川県、静岡県への出店が公表されており、年明け以降も新規出店が目白押しだ。
急成長チェーン、ロピア。その注目度の高さから、本誌ではこれまでも同社をテーマとした特集企画を実施してきた。今回は21年9月以来、約3年ぶり、3回目のロピア特集となる。
3年前といえば、関西進出から約1年が経過し、店舗網を大阪・兵庫・奈良に広げ、京都進出が噂されていた時期。それから3年、ロピアの商勢圏は17都府県に拡大し、売上高は4126億円(24年2月期、OICグループ実績)と、単独実績との比較となるものの3期前から倍増させている。
類を見ないペースで成長を続ける同社だが、その強さの本質は3年前からあまり変わっていない。ロピアの強さは、生鮮食品を軸とした「価値ある安さ」の訴求、来店客を飽きさせない商品・売場における「楽しさ」の演出、SPA(製造小売)による「独自性」の追求、これらの掛け合わせにある。
そして、現金決済のみ、ポイントカードなし、ネットスーパーもなし、品揃えは売れ筋に極端に絞り込むなど、“余計なこと”を一切やらない「引き算」がそれらの強さを支える原動力となっている。
この「掛け算」と「引き算」の経営が、ダイヤモンド・チェーンストア誌が考えるロピアの強さの正体である。多くのスーパーマーケット(SM)が集客やお客の囲い込みなどを目的に、次々とやることを増やしていく、「足し算」経営であるのとは対照的だ。
このためロピアというフォーマットは、ほかのSMとは異質な、「別の業態」とも言える存在となっている。
一般的なSMが志向するのは、日常の食生活に必要なものをワンストップで提供する、あらゆる客層にとって便利な店。これに対し、ロピアでは、「2人の子供を育てる、30~40代の共働きファミリー」というところまで明確にターゲットを絞り、「価値ある安さ」「楽しさ」などを武器にそれらのお客を広域から呼び込み、1店舗当たり売上高を極大化することをめざしている。
こうしたいわゆる繁盛店戦略は各店の「現場力」が肝となるわけだが、ロピアでは、「100%売場主導」という考えのもと、現場に権限を大きく委譲し、部門採算性をとっている。
その「現場力」を支えるのが、従業員のモチベーションを引き出す評価制度だ。実際にロピアでは「入社2~3カ月でチーフ昇格」「4年で部長就任」「チーフ最高実績年収1000万円以上」と、一般的なチェーンでは考えられないようなスピード出世や破格の待遇も可能だという。
このように、ターゲットとマーケティング戦略、マーチャンダイジング戦略、そして人事戦略がすべて一直線に結びついているのがロピアの強さである。
「成長し続けること」が前提のモデル
ただ、このビジネスモデルは「成長し続けること」を前提としたものだ。店数が増えないと好待遇を得られる「ポスト(役職)」が増えず、今のようなスピーディな出世ができなくなる。すると、従業員のモチベーションにも影響し、高い現場力を維持できなくなる恐れがあるからだ。
だから、急成長を持続するために、最近のロピアは都市部への積極出店を継続しながら、「ルーラル」という新しい市場に打って出ている。奈良県桜井市や青森県五所川原市など人口5万人程度の市への出店である。当然、ルーラルは都市部よりも若年層の絶対数が少ないため、より広域から集客できるかが課題となる。
それに対して、冒頭で説明した「安さ・楽しさ・独自性」の観点で対抗できる小売業態がルーラルではあまり見当たらないこと、そして都市部とは道路事情が異なるため、より広い範囲からの来店を見込める点がロピアにとっての勝算だ。まだそれほど店数が多くないため結論を出すのは尚早だが、今のところ、大都市圏外に出店した店舗はおおむね好調であるようだ。
注目したいのは、ルーラルの売場づくりでは、都市部とは異なる「兆候」がみられたという点。本特集で実施した調査では、ルーラルエリアの店舗において、「価格」から「質」訴求へのシフト、従来のロピアではあまりなかったきめ細かなMD(商品政策)が観測された。
個店ごとに濃淡はありそうだが、これらの動きは従来とは違った新たなターゲットの来店を促すためのものと見ることもできる。いずれにせよ、都市部と同様に、ルーラルでも売上を極大化する道を選んだということだろう。
台湾事業でみられた新フォーマットの予兆
そうした取り組みの副作用として考えられるのが、オペレーションの複雑化に伴うコスト増、効率低下だ。きめ細かなMDは現場に負荷がかかる。負荷を相殺するためには、いっそう高い粗利益率を求める必要がある。
つまりSPA化は必然とも言えるわけだ。従来よりも豪快な低価格が失われ、「質」の訴求にシフトしていくというのも納得できるが、長期的にロピアの強さ、「ロピアらしさ」に影を落とすのも懸念される。
だが一方で、そうした動きを通じて、ロピアが自社の成長ステージに合わせてビジネスモデルの進化・刷新を図っていると見ることもできる。海外事業を例に取ると、ロピアでは台湾に5店舗を展開している。日本と異なり、台湾は家庭では料理をせず外食が中心の食文化。こうした地域特性に対応し、台湾の店舗では、飲食業態を併設するなど、日本にはない新たな売場づくりを実践し、多くのお客から支持を集めている。
このような対応ができるのも、同社が近年M&A(合併・買収)などを通じて、食の先端のフィールドへのリーチを続けてきたからこそだ。
外食の先端フィールドをロピアに移植し、新たなフォーマットをつくり上げたと言えるだろう。そういった意味では、ロピアは高いビジネスモデル調整力、フォーマット開発力を持つ。そして、日本のルーラルエリアでみられた“変化”も、さらなる成長のための打ち手の一つであり、副作用は承知のうえで、より大きな果実を得ようとしている、ということではないだろうか。
2兆円達成のピースとなるのは
もう一つ、別の角度から懸念を提示したい。それは、22年に連結子会社化したスーパーバリュー(埼玉県/内田貴之社長)の業績がなかなか改善しないという点だ。ここ数年、同社は営業赤字が続いており、25年2月期中間決算でも営業損失を計上、中期経営計画の数値目標も下方修正している。
スーパーバリューの低迷は、“ロピア流”のオペレーションや人事制度を他企業に移植することの難しさを示している。この現状を考えると、ロピアの成長エンジンとなるのはやはり自前での出店になりそうだ。
これらを踏まえると、今後焦点となるのは、人手不足の中で人材を確保し、その人材が納得する成果を上げられる「舞台」を用意し続けられるかという点だ。個店主義であるため、店が増えれば増えるほど、個店ごとのバラツキも大きくなる。店舗間格差をどう是正するかも課題となるだろう。
また、直近の新店ではきめ細かなMDがみられているが、利便性が高まることによって仮にお客の来店頻度が高まると、商品面を中心としたロピアの“粗さ”が容認されなくなることも考えられる。商品開発の精度向上にも継続的に取り組む必要がありそうだ。
31年度までにグループ売上高2兆円をめざす同社。ロピアの成長性について、専門家、業界関係者の多くは「今の路線で1兆円は到達可能」としつつも、「2兆円となると、現在の延長線上では難しいのでは」と口を揃える。
ロピアは31年度までに300店舗体制をめざすとしているが、現在の平均年商(37~38億円:ダイヤモンド・チェーンストア誌推計、ロピアの24年2月期単独売上高を期末店舗数で按分し、新規出店店舗の実績などを考慮した数値)を考えても300店では2兆円には遠くおよばない。
そこで、現在進める海外展開、同業のM&A、外食をはじめ新規事業、新業態、メーカー買収による川上の取り込みなどが成長戦略のピースとなるわけだが、2兆円までの売上成長を牽引するような事業はまだ存在しない。現場サイドにも2兆円に向けた具体的な道筋は明らかにされていないようだ。
ロピアの経営の舵を握るのは創業家出身の髙木勇輔氏。同氏は強烈なリーダーシップで知られ、「創業者は先代だが、現在のロピアのかたちをつくったのは髙木(勇輔)氏」(業界関係者)との声もある。2兆円達成に向け、髙木氏の頭の中にはどのような構想があるのか。M&Aした企業群のマネジメントも含め、1兆円から先は経営の難易度が跳ね上がるのは間違いない。
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