新型コロナウイルスのまん延をはじめ、地震や大雨など自然災害の頻発などから、国内でも備蓄食品や防災食などの、長期保存できるストック食材への需要が高まっている。また忙しい世代の買い置き需要も増加している。そうした環境下で敷島製パン(愛知県/盛田淳夫社長)が展開する「ロングライフブレッド」は、国内のみならずアジア、米国、豪州など海外にも販路を拡大している。同社の担当者に聞いた。
品質と賞味期限を両立させるための工夫
敷島製パンがグループとして「賞味期限の長いパン」の開発に取り組み始めたのは今から20年以上も前のこと。子会社の四国シキシマパン(愛媛県/窪田英治社長)が02年から全国ブランドとして「ロングライフブレッド」の販売を始めた。
ロングライフブレッドは現在、20~40代の女性を主なターゲットとし、21品目を展開している。最も売れている商品は十勝バターのコクと柔らかい食感が特徴の「十勝バタースイート」という商品だという。
ロングライフブレッドのラインアップは菓子パンが中心だが、カレーやピザなどの総菜パンも発売しており、定番となっている。今年1月には初めての洋菓子カテゴリーとなる「チョコスコーン」を発売し、商品バラエティの拡大にも取り組んでいる。
一般的に「ロングライフ」というと賞味期限30日程度であることが多いが、同社では「35~68日の賞味期限で、現状、四国シキシマパンで製造しているパン製品」をロングライフ商品として定義し、「メーカー品質として賞味期限直前に食してもおいしさが保持できる期限」を商品ごとに設定している。
この「ロングライフ」を実現しているのが、原材料に使用されている酵母のパネトーネ種である。パネトーネ種とは北イタリアの特定の地方で古くから使われている発酵種で、乳酸菌を多く含んでいるため酸性が強く、パンの保水性・静菌性を高める効果がある。このパネトーネ種を使用することで、一般的なパンと同様の原材料でロングライフを実現している。
そのほかの製品に長期保管でも風味や味、品質の保持しやすいフィリング(具材)を採用するなど、各原料メーカーと共同で知見を蓄積しながら、製品開発を進めている。たとえば、「くるみデニッシュ」ではおいしさを担保するために特殊な包材を使用している。このように、時間の経過に対抗する品質保持の工夫を随所に凝らしている。技術的には賞味期限をさらに延ばすことは可能だが、品質とおいしさとのバランスを突き詰め、製品化しているという。
ロングライフの強みを生かし販路を広げる
敷島製パンのロングライフブレッドシリーズは現在、食品スーパーをはじめとした量販店、小売各社の店頭でも取り扱われている。
販売を担う小売業としては、賞味期限の短い日配品に比べ、ロングライフブレッドは管理がしやすいというメリットがある。コロナ禍以降は、家庭内における食料品のストックニーズが拡大したことも追い風となって需要が大きく伸び、現在も継続的に取り扱う小売業が多いという。
また、パン市場の喫食傾向として、従来の「毎日食べる」という消費スタイルに加えて、最近はZ世代を中心に「ストックしておいて、食べたいときに食べる」というスタイルも定着しつつある。多様な世代、ライフスタイル、趣向に対応する商品として、ロングライフブレッドが注目されている。
さらにその賞味期限の長さから、自販機での販売、また、「楽天市場」や「Amazon」、敷島製パン運営のオンラインショップ「パスコのオンラインショップ」など、ECの展開が可能になっている。直営オンラインショップではさまざまなアイテムを詰め合わせた「お試しセット」の人気が高く、リピート購入も伸びているという。
社会課題にも対応 市場はさらに拡大へ
食品ロス対策の推進や健康訴求商品の伸長に伴い、今後、ロングライフ食品の市場は拡大していくことが予測される。
消費期限の短い日配品などは毎日製造して、配送・販売するため、製販プロセスに大きな負荷がかかっている。購入した消費者にとっても、日配はフレッシュなものを食べることができるというメリットがある一方で、「早く食べなければいけない」という“負荷”があることも否めない。ロングライフブレッドをはじめとしすたロングライフ商品は、コロナのような予測不能な事態においても、まとめて製造・配送し、販売・管理ができるという利点があるため、トラック運転手が不足する「物流2024年問題」などの解決の一助にもなり得る商材と言える。
同社内でも注目が高まっているロングライフシリーズは、今後も新製品の投入を続けながら、SDGsや防災にも役立つ商材として、おいしさと安心を両立した商品を展開していくとしている。