“売らない店”b8ta 3号店・渋谷で水回り設備を整えた驚きの理由とは
米国・サンフランシスコ発で、Retail as a Service(サービスとしての小売:RaaS)モデルのパイオニアとも言われる「b8ta(ベータ)」。日本進出を果たしてから1年以上が経過した。新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大で消費者の買物行動が大きく変化するなか、直近の利用動向と今後の成長戦略をベータ・ジャパン(東京都)CEOの北川卓司氏に聞いた。
「ECと比べても出品料は高くない」
──2020年8月、東京・有楽町と新宿に2店舗を同時に開業しました(以下、有楽町店、新宿店)。利用動向はいかがですか。
北川 コロナ禍での日本進出となりましたが、売場を区画で分け、定額で商品展示できるスペースと、製品を売り込むのではなく詳しく説明する接客、来店者の店内行動データや商品へのフィードバックを提供する当社の事業モデルは「新しい小売のかたち」として注目され、全体的に業績は順調に推移しています。
もちろん、商業施設「新宿マルイ本館」内に入る新宿店が、施設自体が一時休業になるなどの逆風もありましたが、単独で出店するよりも少ない投資で、またコロナ禍でも比較的、人の往来がある好立地で消費者との接点が持てる場として、多くの企業に出品していただくことができました。
21年8月時点で、2店舗の累計来場者数は45万人、当社で「インプレッション」と呼ぶ消費者と商品との“出会い”を創出した数は1150万回を突破しています。外出自粛生活の影響でやはり客数は伸び悩みましたが、インプレッション数や来店者に商品を体験してもらった数は開業当初の目標を達成しています。
──出品企業の反応はいかがですか。
北川 当社はミッションに「リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす」を掲げ、売上ではなく消費者と商品との“出会い”の創出を追求しています。日本ではいまだなじみの薄いモデルですが、出品企業の皆さまには価値を理解していただけていると感じています。
とくに好評を得ているのは、店内に設置したAIカメラと、トレーニングを積んだ質の高い店舗スタッフ「b8taテスター」が行う接客やアンケートによって、出品商品についての定量・定性の行動データを提供できる点です。実店舗を出店する前の実験や、東京へ進出する際のテストマーケティングのプラットフォームとしてb8taを活用される企業も増えています。
──コロナ禍でb8taを取り巻く環境に変化はありますか。
北川 EC化が進行したことで、出品企業にとってb8taを利用する価値がより高まっていると感じています。理由は、多くの企業がオンラインモールに出品・出店するようになったことで、消費者に自社の商品を見つけてもらい、また競合商品と差別化を図ることが難しくなっているためです。またECは多くのインプレッションを得ることができますが、より興味を促し、購入してもらう、あるいは取り扱いのある店舗にまで誘導するとなると1人当たりのコストは高くなります。
それに対してb8taは「1日当たり約1万円」とリーズナブルな価格で、消費者にダイレクトに商品を訴求できるリアル店舗に出品できる点を強みとしています。インプレッション数はECより少なくとも、一人ひとりに深いアプローチが可能です。こうした投資対効果から、「ECと比べても出品料は決して高くない」と評価をしていただくことが増えています。