第283回 チェーンストアこそ生活者に利するもの

樽谷 哲也 (ノンフィクションライター)
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評伝 渥美 俊一(ペガサスクラブ主宰日本リテイリングセンター チーフ・コンサルタント)

「とにかくべらぼうに安くつくってほしい」

 前回、資生堂が工場を新設してまで生産に乗り出して新たなるマーケット開拓をめざした固形石鹸(せっけん)事業が出鼻をくじかれる格好となったとき、ダイエーのストアブランド(SB)商品をつくることで急場を凌(しの)ぎ、赤字を解消してどうにか立て直していったとの渥美俊一の回想を引いた。

 資生堂がペガサスクラブ会員であったころのエピソードであり、渥美の話しぶりは軽やかであった。

 「資生堂でさえ、花王にしてやられたわけですよ。それくらい、当時、石鹸は花王が圧倒的に強かった。だから、ダイエーは赤字つづきだった資生堂の石鹸工場を救ったことにもなる。それまでは、新工場はほんとうに青息吐息だったそうですよ」

 渥美によれば、中内㓛は、資生堂の福原義春(1931‐)に対し、ダイエーのSBの石鹸について「とにかくべらぼうに安くつくってほしい」と注文したらしい。そのかわり、ファンデーションなどの資生堂の主力商品については「なるべく定価に近い価格で売りますから」と大きく譲ってみせた。巷間(こうかん)にいくらでも類例が転がっているような交換条件のケースではなかったろう。渥美が福原について「なかなか策士だと思いましたね」と評するのに対し、中内も人後に落ちぬと付言したゆえんである。

 別の見方をすれば、

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記事執筆者

樽谷 哲也 / ノンフィクションライター

1967年、東京都生まれ。千葉商科大学卒業。雑誌編集者を経て、98年からフリーランスに。渥美俊一とJRC、流通企業と経営者、周辺の人物への取材は10年以上に及ぶ。「人間 渥美俊一」を渾身の筆で描く。

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