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サブカルの聖地・まんだらけ コロナ禍でEC売上激増、取引価格高騰の意外な理由

アニメ、漫画など、日本が誇る文化の一つでもある“サブカルチャー”人気が国内外で加熱する中、サブカル領域の中古品買い取り・販売店として今やマニアの間では知らない者はいないといわれるまでになったまんだらけ(東京都)。独特な社風や店づくりでも知られる同社の圧倒的な強さの秘訣について、20年12月新たに社長に就任した辻中雄二郎氏は何を語ったか。サブカル・リユース市場の最近の動向と合わせてレポートする。

「サブカルの聖地」強みは“買い取り力”

 まんだらけは、1980年に創業したサブカル領域のリユース事業を行う会社。漫画専門の古本屋として創業したが事業規模の拡大とともに対象ジャンルを拡大、今では漫画を含む書籍のほか、アニメの原画・セル画や同人誌、おもちゃ、フィギュア、トレーディングカードなど、多岐にわたるジャンルの商品を取り扱う。現在、東京のほか大阪、札幌、名古屋など全国に13店舗を展開している。本社および「まんだらけ中野店」が入居する複合ビル「中野ブロードウェイ」(東京都中野区)には、1~4階にわたってジャンルごとに細分化された小規模店舗を飛び地出店。その数は33(すべて中野店に含む)にもおよび、マニアの間では中野ブロードウェイは「サブカルの聖地」と呼ばれているほどだ。

本拠を構える中野ブロードウェイ内には、1~4階にわたって33店舗を飛び地出店している。写真は3階にある「まんだらけ本店2」

 まんだらけがここまでの成長を果たした影には、その圧倒的な“買い取り力”がある。リユース事業全般にいえることだが、中古品販売は買い取りなくしては成立しない。いかに多くの売り手に選んでもらい、多くの商品を買い取ることができるかが売上に直結するわけだが、売り手としては「高く買い取ってもらえるところに売りたい」「適正な評価をしてもらえるところに売りたい」という心理が働くのは当然のことだ。

まんだらけ 辻中雄二郎社長。学生時代のアルバイトからそのまま入社、中野店店長を経て20年12月に社長に就任した

 そこで強みとなるのが、まんだらけのPOSによる価格管理だ。1300万点におよぶ商品の買い取り価格がPOSデータとして蓄積されており、不当に低い価格での買い取りや、鑑定者によるブレなどを極力排除できるようになっている。「リユース業界でありがちなのが、現行で人気のあるものだけ高く値をつけ、知られていないものは安く買い取ろうとすること。こういうことをやっていては市場が作れない」(辻中社長)。適正な買い取りがお客からの信頼、ひいては業界での影響力につながり、今やサブカルのリユース業界ではまんだらけの買い取り価格がひとつの基準として扱われるようにもなってきているという。

まんだらけを支える精神“古川イズム”とは

ビンテージやアンティークのおもちゃを取り扱う飛び地店舗の一つ、「まんだらけ 変や」。特定のジャンルの小規模店舗出店に際しては、数年かけて商品を買い集めるという

 とはいえ、POSデータが存在しないものや、同じ商品でも状態が異なるものなど、個別に鑑定が必要になってくる商品もまんだらけには日々持ち込まれる。そんな時活躍するのが、まんだらけの資産ともいうべき鑑定人たちだ。彼らのほとんどはもともと特定のジャンルにのめり込むほど強い興味を持っており、趣味が高じて鑑定人になった人々だ。さらにまんだらけでは、鑑定人以外のスタッフにも特定のジャンルのマニアが多いという。彼らはなぜ、ほかのサブカルショップではなくまんだらけを選んだのだろうか。そこには、20年12月に会長に退いた古川益三前社長の、“ 古川イズム”とでもいうべき独特の思想がある。

 古川氏の考えは次のようなものだ。「ただ売れ筋を並べただけの店なら誰でも作れる。スタッフ自身が良いと思うもの、やりたいと思うこと、普通とは違うこと、そういうものを徹底的に追求する」(辻中社長)。具体例を挙げると、「2年後に売れると思うものを前面にアピールする」「スタッフ自身が売りたい、えこ贔屓したいものを押し出す」といったことだ。こういった店づくりのためには、マニア自身の“好き”や強い熱意が必要不可欠で、それこそがまんだらけが求めているものなのだ。

各専門店の店内には、海外の作家による一点ものや、プレミアがついている商品など、ほかでは手に入らないものも多く並ぶ(写真は「まんだらけ SP7(ソフビ専門店)」)

 スタッフであると同時に、1人のマニアとしてのこだわりが尊重される社風に惹かれて集まったスタッフは今や870名(役員・社員・パート・アルバイト含む)にもおよぶ。業界としては珍しく社歴の長いスタッフが多く、今会社の中心となっているのは15~20年目の社員だ。社長交代からもうすぐ1年。会長に退いてから古川氏が表立って指揮を執ることは少なくなったが、古川イズムはまんだらけそのものといっても過言ではないほど現場に浸透しているという。

EC強化が成功、海外需要も取り込む

 まんだらけの精神が不変である一方、コロナ禍で変化があったこともある。その一つがECだ。それまでは順調に右肩上がりでの売上成長を見せていたまんだらけだが、コロナ禍でインバウンドが消失、国内の人の動きも鈍くなった結果、20年9月期決算では売上高が90億1700万円と対前年比で10.3%減少、営業利益は2億5700万円で同71.1%の減少となった(図表)。厳しい状況下で経営陣が下した判断は、「売上が上がらなくても買い取りを続ける、やるからには徹底的にやる」というものだった。これは、コロナ禍にあっても事業を拡張する、というメッセージで、「普通とは違うこと」を追求する古川イズムの体現でもあった。これを受けてEC部門を拡張し、販売と同時に宅配買い取りも強化。結果としてこの方向性は成功を収めた。徐々に国内の客足が回復してきたこともあり、最新の21年9月期第3四半期決算では、売上高前年同期比8.8%増、営業利益は248.5%増と大きな回復を見せている。

 ECの好調には海外需要の増加も関与している。サブカル領域の中古品は、昨年頃から取引価格が急上昇。以前は50万円程度が相場だったセル画が、今では300~500万円で取引されるほどの急騰ぶりで、これはサブカル商品が海外勢を中心に半ば金融商品化しており、投資目的での購入が増加していることが要因だという。ほかのジャンルでは現代アートなども投資の対象となることがあるが、「自身から見て価値のわかりにくいものに投資するよりも、本物の宮崎駿の原画に800万円出した方がよい、そう考える層が増えている」(辻中社長)。最近の傾向として、とくに20代などの若い世代でこういった考えを持つ人々が増えているのが特徴のひとつだ。

 このような動きは世界中にあり、売上に占めるECの割合は30%から50%まで上昇。千葉県香取市にある流通センター「まんだらけSAHRA」の取り扱い額も、以前の6000~7000万円から倍増した。コロナ禍で国内のEC需要も高まっているものの、その売上を海外が凌ぐ月もあるという。

めざすはプラットフォーマー、保証書の持つ可能性

まんだらけが発行する保証書。この保証書が付属している商品は、万が一贋作だった場合にも全額保証が受けられる(偽造防止のため一部画像に加工を施しています)

 投資目的での購入を後押しするのが、まんだらけの持つ信頼性だ。高額になるにつれ、より信頼のおける鑑定を受けた商品を購入したいと思う人が増えるのは当然だ。まんだらけはオークションの運営も行っており、出品者の依頼があった場合と、まんだらけが出品する1万円以上の原画・セル画、おもちゃ類に対して保証書を発行している。この保証書が付属している商品は、もし落札後に贋作と判明した場合、落札価格の全額をまんだらけが保証するというものだ。鑑定に強い自信があるからこそ可能なサービスともいえ、利用者の目線で見れば「ほかのプラットフォームよりもまんだらけを使いたい」という動機になる。後で鑑定に誤りが発覚することもあるが、「間違ったら素直に謝って買い戻し、公にするのが古川イズム。買い取り業者が鑑定ミスを公にするなんて馬鹿じゃないかと言われることもあるが、これが安心感につながっていく」(辻中社長)。

 「保証書というビジネスには可能性がある」とも語る辻中社長。今後は発行対象ジャンルを拡大し、まんだらけをサブカル領域における中古品取引のプラットフォーマーとして成長させていきたい考えだ。

 今後まんだらけは、都市部の中でも現在店舗のない京都や横浜などへの出店も検討しているという。通販を含めて販売はどこでも行える力があるものの、買い取り効率をより高めるためには人口が多く、趣味を楽しむゆとりのある層が多く暮らしている場所に拠点を持つことが求められるからだ。売上面の目標では、依然インバウンドが戻らないことや、金融商品としての値上がり幅が読めないことから不透明としつつも、「インバウンドが戻る頃にはECもさらに成長しているはず。その時に相乗効果を発揮したい」と辻中社長。人気加熱に加え金融商品としての価値を得た今、サブカル市場はよい意味で先が見通せない、“夢のある”市場になっている。

 サブカル・リユース業界に君臨し続けるまんだらけ。その強さの秘訣は、創業以来築き上げられてきた企業精神と、それを確実に受け継ぎ大胆な挑戦を恐れないことにあるといえるだろう。

会社概要

本社所在地 東京都中野区中野5-52-15
代表者 辻中雄二郎
創業 1980年
従業員数 役員・社員370名、パート・アルバイト500名
年商 約90億円(20年9月期)
店舗数 全国13店舗