10月29日、関西スーパーマーケット(関西スーパー、兵庫県)は臨時株主総会を開催。エイチツーオーリテイリング(H2O、大阪府)グループとの経営統合の是非を問う決議は、辛くも賛成が2/3を上回り可決となった。オーケー(東京都)が主導する反対派と会社側を支持する賛成派で大きく意見が分かれ、物々しい雰囲気に包まれた総会の現場の模様を伝えながら、今回の騒動を冷静に総括した上で、「統合案可決後」どのような世界が関西市場で待ち受けているのかをまとめた。
不満や先行き不透明感持つ、個人株主も
「3社集まったから業績が3割上がるとか、そういうシナリオが見えない」
「オーケーの提案は魅力的であるのに、関西スーパーの経営陣がオーケーとの話し合いにまともに応じてないということで、(関西スーパー)に不誠実さを感じる」
これは株主総会前、会場を訪れた個人株主の意見である。前者は、関西在住で決議に賛成か反対かを決めかねている人、後者は株主歴8年、広島県からわざわざ訪れ、反対票を投じることに決めているという。
関西スーパーは8月31日、記者会見を開き、H2Oと経営統合すると発表した。その4日後、関西スーパーの大株主であるオーケーは、経営統合を諮る臨時株主総会で反対票を投じることを発表。統合案が撤回された場合は、敵対的ではないことを条件に1株2250円でTOB(株式公開買付)を行うとした。本件に関する報道がなされる前の関西スーパー株価は9月2日終値時点で1374円。オーケーの発表を受けて買いが殺到し、一時は終値ベースでは2203円(9月8日)まで跳ね上がった。
これまで両者は、票の獲得に向け、取引先の大株主の説得に動いてきた。下馬評でも、可決のために必要な議決権2/3以上の賛成獲得は極めて微妙な情勢とされ、どっちに転んでもおかしくなかった。
薄氷の決着 オーケーの対応は
午前10時から開催された臨時株主総会。質疑応答では、賛成、反対、多くの意見と質問がなされ紛糾、議長である福谷耕治・関西スーパー社長が何度も「不規則発言はおやめください」とたしなめる異例の事態となった。
その後株主のよる投票が行われたが、結果は僅差。集計に時間がかかり、慎重を期すため2度にわたって開票結果発表が延期され関係者をやきもきさせた。そして予定から1時間5分遅れの16時5分、「66.68%の賛成により、可決」。わずか0.01%ポイント上回り、まさに薄氷の決着となった。
経営統合案可決を受けてオーケーの二宮涼太郎社長は今後の展開について「これからのことは今後考えたい」と述べるにとどめた。ただし、オーケーの広報業務を行うボックスグローバルジャパンの田邊亮二氏はまだ何も決まっていないとした上で「関西でもご関心いただいており、単独進出含めて検討していく」との見方を示した。なお、オーケーは同日リリースを発表、関西スーパーに対する提案を取り下げる。
一方、関西スーパーは今回の可決を受け、来年2月1日をめどにイズミヤ(大阪府)、阪急オアシス(同)の3社と経営統合し、H2Oの連結子会社「関西フードマーケット」となる。
関西スーパの福谷社長は「H2Oと一緒に関西エリアのお客さまに貢献して、関西フードマーケットの企業価値、株主価値を高めていく。3社一丸で初年度よりスタートダッシュできるよう全力で取り組む」と述べた。
また、今回の決議が僅差となったことについては「(取引先の株主の中には)当社を支持してくれた取引先、そうではない取引先もいるが、ビジネス上の判断で各社が検討した結果であり、その結果について(当社が)意見することはない」とした。
オーケーと関西スーパー、どちらが正しいのか?
改めて、今回の件について、関西スーパー、オーケーの考え方を筆者が代弁するかたちでまとめたい。
まず前提となるのは、経営者の仕事は、株主価値を最大化することにあるという点だ。この株主価値の最大化とは、将来にわたって株主が稼得されるキャッシュフローを(時間価値を加味した上で)最大化するという意味である。
オーケーは株主として、現在の関西スーパーが採る戦略はベストではないと判断した。関西スーパーに、首都圏で圧倒的な強さを発揮するオーケーの勝ちパターン「高品質EDLP」を実現する店舗オペレーション、マーチャンダイジングを導入することで、飛躍的な売上・利益の成長が実現できると踏んでいるわけである。だからこそ、それを前提に完全子会社化に際して、既存株主に1株あたり2250円という高値で買い取ることを提案した。自分たちは、企業価値をそこまで高められるという絶大な自信があるのである。
一方で関西スーパー側も、4期連続で増収増益を達成してきたという実績に裏打ちされた自負がある。その核は、7つの要素を取り入れた店舗改装により、平均して5年間で売上が3割も上がるという成功パターンの導入だ。これに生産性向上とを組み合わせることで、業績をさらにドライブできること、そして経営統合するH2Oのリソースを活用してさらなる成長と関西エリアドミナンスを実現することが、株主利益に資すると考えているわけだ。
注意したいのは、漸増的改善と急進的改革の差
どちらが正しいということではなく、両者とも「それぞれの正義」のもと、戦略を実行しようとしているのである。
ただし、両者の戦略の効果とスピード感を考えると、漸増的改善(incremental improvement)である関西スーパー案と急進的改革(radical Innovation)であるオーケー案という大きな違いがある。多くの日本企業は漸増的改善が得意で向いているのは事実だが、急進的改革が成功すれば、企業の強さと収益性は階段を数段飛ばしたが如く一気に飛躍する。どちらを選ぶべきかはその時々の企業を取り巻く環境と成長フェーズによるためどちらが正解かは言えない。だが、競合からしてみれば、マーケット環境が激変する「オーケー化」の方がより恐るべき事態であっただろう。
いずれにせよ株主は最終的に「関西フードマーケット」誕生を支持した。関西スーパー並びにH2Oは、統合の目的で説明したようなシナジーを創出し売上・利益を改善させて株主の期待に応えるだけだ。一方オーケーは単独での関西進出含め、新たな戦略を打ち出してくれれば、関西マーケットはさらに活性化する。願わくは数年後、関西スーパーもオーケーも関西のお客も全員ハッピーになったという、意外な「三方よし」を見てみたい。