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欠陥品に返品、大量廃棄…マーケットプレイスの商品問題噴出で、アマゾンの方針転換とは?

月刊アマゾン

米アマゾン(Amazon.com)の電子商取引(EC)における流通総額(GMV)のうち、出品者の流通額は約6割を占めている。同社は現在、世界十数カ国でマーケットプレイスを運営しており、21年3月時点の参加企業は600万社以上。だが、そこには、製品安全不適合品や期限切れ商品、返品、売れ残り商品が大量にあると指摘され、同社は問題解決に取り組んでいる。

欠陥品によって生じた損害を一部補償へ

 アマゾンは2021年8月、出品者が販売した欠陥商品によって消費者が負傷したり、物的損害を被ったりした場合、損害の一部を補償すると明らかにした。これまでは出品者の商品に問題があった場合には、消費者が直接出品者に連絡するよう求めていた。今後は、まず消費者がアマゾンに苦情を伝え、その後、同社が消費者と出品者をつなぐ。そのうえで最大1000ドル(約11万円)を消費者に支払う。これは全額アマゾンが負担するもので、立て替え払いではない。また、出品者に費用の返済を求めることはしないという。

 消費者の要求が1000ドルを超えるときは出品者負担とするが、出品者が対応しなかったり拒否したりした場合はアマゾンが支払う可能性があるともしている。一方で、出品者に損害賠償保険に加入してもらう取り組みも進める。

 これは欠陥品の返品・返金ではなく、それによって生じた損害の補償(メーカーからではなく販売業者から)であり、出品者の商品を対象とする点が方針転換といえる。アマゾンはこれまで一貫して、「当社のマーケットプレイスは消費者と販売業者をつなぐプラットフォームであり、責任は出品者にある」と主張してきた。方針転換の背景には同社を相手取って起こされた複数の訴訟があるようだ。

 英「フィナンシャル・タイムズ」紙によると、米カリフォルニア州で消費者が訴えた2つの裁判では、いずれもアマゾンに責任を問うことができるとする判決が下された。1件は、中国製パソコンバッテリーの欠陥で大やけどを負ったというもの、もう1件は自動巻き式犬用リードが切れて、買い主が片目を失明したというもの。21年7月には、深刻なリスクのある製品をリコールする法的責任はアマゾンにあるとして、米消費者製品安全委員会(CPSC)が同社を提訴した。

返品を中古品として販売する新たな取り組みも

 ますます増大する出品者の商品を巡る問題にアマゾンは頭を悩ませている。返品や売れ残り商品の廃棄についても批判の声が上がっており、21年8月には2つの取り組みを発表した。同社は、出品者の商品の保管と配送などを代行するサービス「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」を提供している。同サービスの一環として新たに「FBAグレード&リセル(評価・再版)」「FBAリクイデーション(現金化)」を開始した。

アマゾンは、返品を中古品としてアマゾンのサイトで再び販売する「FBAグレード&リセル」などを発表した(画像:アマゾンのウェブサイトより)

 「FBAグレード&リセル」は返品を中古品としてアマゾンのサイトで再び販売できる仕組み。返品された商品は自動的にアマゾンの倉庫に送られ、アマゾンが状態を「新品同様」「優良」「良」「販売可能」に分類。出品者が評価に基づき中古価格を設定し、アマゾンのサイトで販売する。すでに英国で始めている取り組みで、21年内に米国でも開始する見通しだ。さらに22年初頭には、ドイツやフランス、イタリア、スペインなどへの拡大をめざす。

 一方「FBAリクイデーション」では、返品や過剰在庫を一括して在庫買取業者に販売する。これにより出品者は在庫コストの一部を回収することができる。まずは、米国や英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインで開始する。

大量廃棄への批判かわす狙い

 21年6月、「アマゾンが英国の物流施設で毎年、数百万点の売れ残り商品を廃棄処分している」と英メディアのITVニュースが報じており、これらの新たな取り組みの影には批判をかわす狙いもある。ただしアマゾンは、「顧客からの返品はすべての小売業者にとって避けて通れない現実で、これにどう対処するかは業界全体の課題」と述べており、消費者の意識改革も必要といえそうだ。