SMにとり深刻な人手不足
プロセスセンターを導入する食品スーパー(SM)企業が増えている。
全国スーパーマーケット協会(東京都/横山清会長)、日本スーパーマーケット協会(東京都/川野幸夫会長)、オール日本スーパーマーケット協会(大阪府/田尻一会長)はこのほど、「2020年 スーパーマーケット年次調査報告書」を公表した。国内にSMを保有する企業980社(協会未所属企業を含む)を対象に調査し、まとめた。
調査項目のひとつ「プロセスセンターの活用状況」では、45.1%と半数近くが活用していると回答。前回調査(19年)の40.7%と比較すると、実に4.4ポイントも上昇した。18年(41.5%)と19年は、ほぼ同水準だったことからすれば一気に利用が進んだことがわかる。
活用する「商品カテゴリー」では、「畜産」が32.9%で最も高く、次いで「惣菜」25.0%、「水産」21.3%の順となっている。
背景にあるのは人口減少に伴う、人手不足問題である。
総務省が2020年8月に発表した同年1月1日時点の住民基本台帳人口は、1億2713万8033人。内訳は、日本人住民は対前年比50万5046人減となる1億2427万1318人(0.40%減)、外国人は同19万9516人増(7.48%増)の286万6715人だった。日本人住民の人口は、09年をピークに翌10年から11年連続で減少しており、現行調査が始まった1968年以降では最大の減少数となっている。
少子高齢化は進行しており、今後、日本の人口が増える可能性は限りなく低い。労働集約型産業のSM業界にとっては深刻な事態と言える。
スーパーマーケット年次調査報告書では「人材不足対策」についても触れている。具体策として「セルフレジ、セルフ精算レジの導入」(64.1%)、「自動発注システムの導入」(33.0%)に続き、「プロセスセンター導入」(25.8%)が挙がっていた。
PCを活用する企業が半数を超えるのは時間の問題である。
代表的な3つの導入効果
長らく、生鮮食品の加工はSMの店内で行われるのが主流だった。青果物や水産物、精肉はカット、袋詰め、パックされた後、すぐ店頭に並べられる。加工という工程を経ると、食品は急速に劣化が進む。そのため鮮度、味を優先する場合、最終消費地である家庭との距離、時間が短い店内での加工が、最も優れたスタイルだと考えられてきた。
それでも80年代以降、大手を中心にPCを取り入れる企業が相次いだ時期がある。だが多数派にならなかったのは、いくつかの理由がある。
第一は、店内加工の優れる点と表裏の関係にあるが、加工から売場に陳列されるまでの時間が長いため、一般に品質、おいしさの面で劣るとされるためだ。部門にもよるが、前日、PCで加工された商品は翌朝、店に届けられることが多い。
第二に、変化する状況に合わせた対応がしにくいことがある。PCでは、生鮮食品が計画的に加工、製造される。需要予測が不正確である場合、廃棄や値引きロスが増える。そこに天候、地域需要、競争環境といった要因が複雑に絡み合うため予想が困難になり、結局は店内加工を続ける企業が少なくない。
第三に、PCを導入するにはまとまった投資が必要になることも大きい。展開する店舗が少ない場合、得られる効果とコスト負担を天秤にかけ、結局は導入を決断できない企業も目立つ。
SMにとり、店内加工こそ品質、味を追求するための最適解──。だが、年々、厳しさを増している人手不足の現状を考えると、そのスタイルはいずれ立ち行かなくなるのは間違いない。
では解決策としてPCを導入した場合、どのような効果が得られるのだろうか。代表的なものには、①コスト低減、②品質、味の標準化、③品揃えの充実、の3つがある。
①は各店で行っていた作業をPCで集中加工することで、店舗の人件費が低減、人時生産性も向上する。②は各店で技術水準が異なっても、同じ品質、味の商品を販売できる。③は、人手が不足していても、朝一番からベーシックな商品を揃えられ、売場のスタンダードレベルを向上できる。
いずれの効果も企業にとり検討する価値は十分あるだろう。
補って余りあるメリット
PCを導入するにしても「品質、味の面では『そこそこ』のレベルにしかならないのではないか。やはり店内加工こそ最上であるのは変わらない」と考える人もいるかもしれない。だが最近は、店内加工では難しかったことをPCで実現するケースも増えている。ここではそんな事例をいくつか紹介する。
加工技術面で取り上げたいのはライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)。近畿圏の精肉向けPCでは「パーシャルフリージング」ができる設備を導入した。これにより肉を完全に凍らせるのではなく、マイナス3度で凍結させ美しくカットできるようになった。
ラム肉の加工でも威力を発揮する。健康志向の高まりで需要が拡大する反面、肉質が柔らかくうまく切るのはベテラン技術者でも難しい。だがこの設備を使えば、簡単に薄切りも可能で、近畿圏全店で販売したところ好調に売れている。
独自商品の開発でもPCをうまく活用しているケースとして、さとう(京都府/佐藤総二郎社長)を紹介する。同社では最近、精肉部門において自社PCで製造した冷凍牛肉を「大地のこくみ牛」というオリジナルブランドで展開。もちろん賞味期限が長く保存性は抜群。主通路沿いの冷蔵什器で販売するなど積極的に打ち出し、来店客からも好評を得る。
この1~2年、仕入れ品を実験的に販売、好調を受けて内製化に踏み切った。同社では近年、PCや食品工場など店舗を支えるインフラを整備。それらを活用し差別化を図ることができる独自商品を増やしている。
ほかにも某企業の魚総菜を担当するバイヤーから、PC活用のメリットを聞いた。「あじの南蛮漬けなどは前日から長時間、調味料に漬け込むため、店内加工よりも味が浸透する」と話していた。加工後、商品によっては急速冷凍すれば、味の劣化も防げるとのエピソードも教えてくれた。
PCには弱点がある反面、店内加工を補って余りあるメリットがある。技術の進歩はめざましく、PCでできることはさらに広がるだろう。
衛生的な商品への需要が拡大
PC導入のメリットを紹介したが、何より大きいのは、コスト低減効果である。前述の通り、各店でばらばらに行っていた作業をPCで集中的に加工、店舗にかかっていた人件費、また人時を減らすことができる。
低減したコストの使い方次第では、ビジネスは大きく広がる。今回、企業の最新事例を取材したが、その取り組みは多様だった。
ある企業は付加価値を生む商品、作業に人時を集中した結果、売上高、利益の拡大に成功していた。またある企業は、低減したコストを、売価に反映、さらに価格訴求を強めることで集客していた。またPC導入の目的を「店内加工を強化するため」とする企業もあった。本来、店の人員を減らすためのPCだが、これまで重視してきた店内加工を今以上に強めるという発想は斬新だった。
同じPCでも、めざす方向が違えばどのようにも使うことができる。まさに「各社各様」だと感じた。逆に考えると、企業が将来展望をしっかりと持ったうえで活用すれば、思いのままのビジネスを展開できる可能性をPCは持っているのかもしれない。
PCで加工した商品へのイメージは変化しつつある。ほんの1年半前までは、店内で加工、調理する風景をあえてお客に見せることで鮮度、にぎわいをアピールするSM企業は多かった。しかしコロナ禍では、衛生的な環境で製造される商品への需要は確実に増している。
人手不足問題への対策として、PCはさらに導入が進むと見られる。しかしそのような消極的な理由からだけではなく、自社の強みを最大化する戦略を持ち、あるべき姿を明確にしたうえで活用するなら、PCはまったく違った道具になる。つまり従来のビジネスモデルを強化、再構築、変革するための「魔法の杖」にもなりえるはずだ。
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