食品スーパー(SM)やドラッグストア(DgS)、ホームセンター(HC)、スポーツクラブなど多様な業態を展開するバローホールディングス(岐阜県/田代正美会長兼社長:以下、バローHD)の2021年3月期決算は増収増益だった。とくにコロナ禍の特需を受けたSM事業やHC事業が好決算に寄与した格好だ。
SM・HCが好業績に大きく貢献
バローHDの21年3月期決算は、営業収益が対前期比7.7%増の7301億円、営業利益が同65.3%増の256億円、経常利益が同68.2%増の283億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同94.4%増の125億円だった。営業収益は26期連続の増収、営業利益・経常利益は3期連続の増益、親会社株主に帰属する当期純利益は2期ぶりの増益で、いずれも過去最高を更新している。
経営効率も向上しており、総資産経常利益率(ROA)は同2.3ポイント(pt)増の7.2%、自己資本当期純利益率(ROE)は同4.1pt増の9.2%となった。これにより、21年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画の定量目標として掲げた「営業収益6800億円、経常利益210億円、ROA5.6%以上、ROE7.7%以上」をすべて達成した。
セグメント別の経営成績を見ると、SM事業の営業収益は同6.3%増の3962億円、セグメント利益は同77.9%増の161億円、DgS事業の営業収益は同8.0%増の1505億円、セグメント利益は同7.9%減の39億円だった。HC事業の営業収益は同13.9%増の1301億円、セグメント利益は同111.5%増の73億円、スポーツクラブ事業の営業収益は同32.7%減の91億円、セグメント損失は19億円だった(前期は5億円の黒字)。
売上・利益ともに、コロナ禍の特需を受けたSM事業とHC事業が好決算に大きく寄与した。とくにSM事業の中核企業であるバロー(岐阜県/田代正美社長)では、近年注力している、既存店を生鮮中心に目的来店性を高めた新フォーマット「デスティネーション・ストア」(以下、D・S)へ転換する施策が奏功したことも、大幅な業績伸長の要因の1つとなっている。この施策はほかの事業にもよい影響を与えており、社内では「DgSやHCのD・Sはどういったものか」と考える社員も増えているという。
経営資源を地域の課題解決に生かす
バローHDは、30年までの中長期経営方針「バローグループ・ビジョン2030」「サステナビリティ・ビジョン2030」を発表した。その骨子を説明すると、グループの商品やサービス、決済機能などを通じて地域を便利に、豊かにつなぐ「バロー経済圏」の構築、商品力で選ばれる「デスティネーション・カンパニー」の実現、持続可能な社会に向けて地域社会の発展・社会文化の向上をめざすというものだ。
これらの実現に向け、基本方針として「商品で繋ぐ」「顧客と繋がる」「社会との繋がりを意識した経営」を掲げる。30年3月期までに営業収益1兆円超、営業利益480億円超、経常利益500億円超、投下資本利益率(ROIC)9%を達成する計画だ。
業態を越えた競争が加速するなか、「生き残れるSM、生き残れる企業とはどういうものかということを追求してきた」と田代会長兼社長はコメントした。「これまでめざしてきた平均的なSMでは、なんでも揃っているが買うものがない状況で、総合スーパーと同じく衰退してしまうのではないか」(田代会長兼社長)と危機感を持って現在取り組んでいるのがD・Sへの転換だ。生鮮3品の売上高構成比は50%を超えるようになってきているという。「近い」という優位性をDgSやコンビニエンスストアに奪われつつあるなか、「競合店を越えて」来店してもらうための店舗づくりを続けていく考えだ。
また、地域社会の発展についても、地域市場の再生など、田代会長兼社長は行政が対応しきれていない地域の課題解決に取り組みたい意思を示した。健康課題の解決も重要だと認識し、以前から請け負っているデンソー(愛知県/有馬浩二社長)社員の健康管理のような取り組みを拡大させるほか、SM事業やスポーツクラブ「アクトス」でのノウハウを生かした介護支援や食品の提供などに、行政と協業しながら取り組んでいく。「グループのさまざまな経営資源が地域の役に立つ時期が来ている。これらを生かし、地域の経済圏をつくっていきたい」(田代会長兼社長)
商品力の向上や顧客との接点強化に注力
この中長期経営方針を踏まえ、24年3月期を最終年度とする3カ年の新たな中期経営計画では、次の3つの施策に注力する。
1つめは、「商品力の向上」だ。SM事業ではD・Sへの転換を推進し、年間30店舗超の既存店を改装する計画で、従業員の商品知識・販売技術習得のための研修を拡充させるなど教育にも力を入れる。そのほか、製造機能の強化やサプライチェーンの情報連携も推進する考えだ。
2つめの「顧客との接点強化」では、EC戦略を推進し、事業所向け配送サービス「ainoma(アイノマ)」やドライブスルーでの商品受け取り「アイノマピックアップ」を自社店舗のドミナント地域で強化するほか、アマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)との協業で21年夏より開始予定のネットスーパーで広域での顧客との接点確保に取り組む。
また、会員基盤である「ルビットカード」やそのアプリを活用し、購買履歴に基づいた販促やマーケティング、予約販売や業態間連携、決済手段の拡充などに対応し、アプリ機能を強化する。
3つめの「生産性の改善」ではローコスト経営への基盤を形成するため、店舗のスマート・デバイス環境整備や、RPA・AI活用による業務の自動化に取り組む。また、店舗資産の有効活用やグループ企業間の機能統合にも着手する。
このような取り組みにより、24年3月期までに営業収益7800億円、営業利益290億円、経常利益310億円、ROE9.3%、ROIC6.3%、D/Eレシオ(負債資本倍率)0.6倍をめざす。中期経営計画の初年度である22年3月期では、コロナ禍の反動減を加味して減益を予想。営業収益7320億円(「収益認識に関する会計基準」<企業会計基準29号>等を適用するため、前期との比較なし)、営業利益230億円(同10.3%減)、経常利益250億円(同12.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益120億円(同4.7%減)を見込んでいる。