コロナ禍によって売上が低迷している。営業時間の時短要請や在宅ワークの広がりなどが原因であるがそれだけだろうか。ショッピングセンター(SC)はコロナ襲来前の2019年から減少に転じている。ではポストコロナ時代に、SC経営には何が求められるのかを今回は探っていきたい。
SC総数の減少に対する関東圏の状況
全国のSC数は、2018年をピークに2019年、2020年と減少を辿っている(図表1)。
これまで商業施設は、不動産用途の限定性から都市開発と共に増加傾向にあった。
不動産用途の限定性とは、不動産の利用形態がオフィス、住宅、ホテル、商業施設、病院、学校、公益施設などバラエティに乏しく、その中でもオフィス、住宅、ホテル、商業施設、この4つが中心である。
近年では首都圏を中心として都市再生特区や国家戦略特区による容積率の割り増しや高さ制限の緩和により大型物件の開発が増加、賃貸床も増加傾向にあり、全国のSC総数が減少していることに対し、関東圏では増加傾向にあった(図表2)。
容積率1000%を越える巨大な物件を単一の不動産用途で計画することは難しく、またリスクヘッジからも複合用途による開発は必然と言えば必然である。
オフィス用途のビル開発でも就業者へのサービス機能として飲食施設は不可欠であり、また、ビルの下層階に商業施設を造ることは物件の付加価値を高めることにもつながるため都市圏においては商業施設を併設することが多い。これが増加傾向の理由である。
しかし、2019年までは「オリパラの開催、インバウンド3千万人、観光立国へ」と喧伝され、その勢いに乗って不動産開発はホテル用途に傾倒し、相対的に商業施設の開発は全国的に減少した。
また、日本人口の減少や高齢化によって商業施設の開発モチベーションは低下し、人口減少が加速する地方圏から徐々にSCの閉鎖や減築は進み、その数は減少していく。
SCにも経済にも大影響!コロナがもたらした最悪の影響とは
しかし、終身雇用制度に守られた日本では、在宅ワークが進んだとしても雇用と年収は保障され、消費支出の低下(図表3)は、家計への資金滞留を引き起こす結果となり、その額は30兆円を越えるという試算もあり、コロナ明け、リベンジ消費が起こる可能性は高い。したがって今、SC運営では、空室を出さないことが優先される。なぜならワクチンが普及し、リベンジ消費に沸いたとき、空室ではその恩恵は絶対に享受することはできない。賃料減額と退店の引き留め、今はこの局面にあると言えるだろう。
このようにリベンジ消費が起こる可能性はある。しかし、それは一過性。人口減少、高齢化、ECの伸長、年金制度と老後不安、物欲(所有欲)の低下などファンダメンタルな部分は、新型コロナウイルスがあろうがなかろうが変わらないのである。
むしろ、コロナ禍によって昨年(2020年)、婚姻率と妊娠届が大きく低下し、今年生まれてくる子供の数は80万人を割ると予想されている(図表4)。2019年、出生数が86万5234人となり90万人を割ったことからわずか2年である。
実は新型コロナウイルスのもたらした災いは、一時の消費低迷などでは無く、人口の減少と生産年齢人口の減少につながる出生数の低下にある。2041年、20歳を迎える若者は80万人しかいないのである。
ポストコロナ時代のSCの収益
SCビジネスの収入は、不動産×テナント売上高である限り、SCの収入を増やすためには、①不動産の床を増やすか、②テナントの売上高を増やすか、③この両方を増やすか、この3つしか無い。
ところが日本の人口は減り、コロナ禍によって外客も消滅。外客はコロナ禍が収束すれば戻るとは思うが、日本人口に比べればその数には限界がある(フランスぐらいの観光立国になれば別だが)。
ということは、特区を活用して商業用不動産を増やしても現下のSCビジネスでは収入の増加は望めないなか、収益を伸ばすためには、収入のチャネルを増やすか、費用を低減させる、この2つにフォーカスされることになる。
収入チャネルの増加手法は、これまで本連載で解説してきたが、残された手段は費用の低減である。
業務の見直しとやめる勇気
収益を上げるためには収入を増やすか、費用を下げるか、この2つだが、SC運営に掛かるコストとは、「運営管理に掛かるスタッフの人件費、売上増加のための販売促進費、店舗スタッフのロープレなどの研修費、売上金賃料精算に掛かる日報チェックなどの費用、売上金管理と現金輸送などキャッシュに掛かる管理コストなど」だが、この中で非効率、もしくは不要なものは無いのか、今一度点検する必要がある。
元々、SCビジネスは、貸し手(オーナー)と借り手(テナント)が、リスクを負担し合うことで成立したビジネスであったことに立ち返り、その負担領域を越えて行っている業務は無いのか、デジタル化出来る分野は無いのか、FAXや紙の申請用紙を多用していないか、チェックが必要だろう。
一般的にコスト削減とは、業務フローの見直し、業務工程の省人化が行われるが、ポストコロナは、そのような悠長なことを言っていられない。
なぜなら今起こっている変化は、コロナの問題ではなく、一国の成熟社会への変化によるものであり、その前提に立てば、業務の効率化程度では対処できず、無駄な業務や過去からの慣例で行っている業務は、そっくり止めることが求められる。
場合によっては仕事を失う人も出るだろう。しかし、そこは工夫するしかない。これまでもレコード針や固定電話や電車の切符が無くなるように時代は変化する。これまで「変化対応業」と言ってきたSCはその真価を試されている。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。