SDGsやESG経営などの重要性は、今でこそ多くの人が認識し始めているが、「無印良品」を運営する良品計画(東京都/松﨑曉社長)は創業当初から「社会の役に立つこと」を事業の中核に据えてさまざまな取り組みを実施している。4月23日からはこれまでペットボトルで展開していた飲料の素材をすべてアルミ缶に変更し発売。また、近年は食を中心に地域の生産者や地元の食品スーパー(SM)などと協業して関係を深めるなど、店舗を軸とした地域活性化にも注力し、サステナブルな取り組みを加速させている。
アルミ缶に変更する3つの理由
良品計画は4月22日、「飲料新商品発表会」で、ボトル飲料の素材をペットボトルからアルミ缶にすべて変更することを発表した。
同社は変更の理由を3つ挙げている。1つめは、回収ルートが整備されていることだ。アルミは自治体や学校などからの回収により廃棄がほとんどない。大半は国内でリサイクルされるほか、アルミは何度もリサイクル可能で使用後も価値が高いため、一部は輸出され海外で再生される。このような体制がすでに構築されているほか、ペットボトルのようにラベルや蓋を外して分別する手間もかからないというメリットもある。
2つめはリサイクル率の高さだ。アルミは約98%がリサイクルされているほか、缶から缶へリサイクルする「水平リサイクル率」も約67%と高い割合を占めている。
3つめは、フードロス削減につながることだ。アルミ缶は遮光性や透過性の面で優れており、光による酸化・退色を防ぐことができるほか、炭酸ガスも抜けにくいという利点がある。良品計画によると、ペットボトルと比較した賞味期限ではお茶は約40日、炭酸は約90日伸ばすことができるという。
アルミ缶はペットボトルに比べると中身が見えないため、シズル感がなく商品の魅力がわかりづらくなるという懸念もある。執行役員 食品部長の嶋崎朝子氏は、「パッケージデザインに配慮し、中身が見えなくても素材感を感じられるような手書きのスケッチなどを加えて新しく見直しをする」と話す。
今回のリニューアルに伴い、内容量は従来のものより減るほか、一部の商品を除いて価格は据え置かれるため、実質値上げとなる。これに対して嶋崎氏は「アルミ缶の規格が限られていた。価格設定はギリギリまで悩んだが、アルミ缶はプラスチックほど大量生産されていないことから、同等にできなかった。今後技術の進歩や販売量の増加などで、価格見直しができるよう努力したい」と説明した。
2021年末までに給水機を全店導入予定
この発表会では、良品計画が以前から取り組んでいる「水プロジェクト」の進捗状況も明らかになった。同社はペットボトル水の販売を取りやめ、2020年7月からスタートした店舗への給水機設置を皮切りに、飲料水を通じて環境や健康について顧客に考える機会を提供するさまざまな取り組みを実施している。
給水機は現時点で270店舗への設置が完了。21年5月末には300店舗、21年末には国内全店への導入を計画している。給水機導入とともに、マイボトルの利用を促進する「自分で詰める水のボトル」(税込190円)も累計50万本売れているという。
給水機の設置店舗や無印良品以外の給水スポットがわかる「水アプリ」のダウンロード数は13万5000となった。東京都水道局などの自治体とも連携し、給水場所は約1200カ所にまで増えた。
また、同アプリでは、給水量や給水することで削減できるペットボトルの数・二酸化炭素量を可視化できる機能も搭載している。利用者合計のペットボトル削減量は約20万本(500㎖換算)、二酸化炭素削減量は約23トンとなった。
そのほかの取り組みとしては、三井不動産レジデンシャルとナイキが共同運営するスポーツ施設「TOKYO SPORTS PLAYGROUND SPORTS×ART」で給水機の設置やサステナブル活動の発信を行う。また、熊本市と連携して22年4月に開催予定の「アジア・太平洋 水サミット」に向けた活動や市民イベント、小中学校での「水育」なども実施する考えだ。
駿河屋にツルヤ…SMとの協業も加速
そのほかサステナブルな取り組みとして、良品計画は近年、過疎化や人口減少が課題となっている地域の活性化を図り、店舗を軸とした地域との協業に力を入れている。ここ最近は地方での新規出店や改装をさらに加速させており、21年3月には福島県浪江町の道の駅に「無印良品 道の駅なみえ」を開業。4月には北海道函館市の「無印良品シエスタハコダテ」を増床リニューアルし、地元の野菜を販売するなど地域との協業に取り組んでいる。
そのほか、SM店内やSM敷地内への出店にも積極的だ。21年4月には岐阜県高山市にあるローカルSM「駿河屋」内に「無印良品アスモ高山」を開業したほか、長野県塩尻市には地場食品を活用した独自のプライベートブランドで有名なSM「ツルヤ」の敷地内に「無印良品ツルヤ塩尻広丘」をオープンする。
5月14日には「無印良品港南台バーズ」をグランドオープンする予定だ。地下1階の800坪の食品売場は「クイーンズ伊勢丹」を展開するエムアイフードスタイル(東京都/雨宮隆一社長)が運営する。同店には初の試みとして地産地消をテーマにした「キッチンカウンター」を設けた。「管理栄養士や食育アドバイザー、農家などと地域の人がお互いの知恵を交換しながら楽しく学べる場にしたい」(執行役員 オープンコミュニケーション部長 大西克史氏)
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「こういう時代に物販だけではなく世の中の役に立つことをするのは自然なことだ」と嶋崎氏は話す。大西氏は、「店長やお客さまの顔がわかり、会話の飛び交う環境をつくるのが当社のめざすところ。物販以外でも人に会うなどの目的で来店してもらえる『交易の場所』をつくりたい」と語る。こうした考え方は、まさに創業当初から一貫して社会貢献に取り組んでいる良品計画ならではのものだといえるだろう。ESGのトップランナーとして、今後も同社の動向から目が離せない。