生き残るために「ハイブリッド型チェーンストア」を志向=バローHD 田代 正美 会長兼社長
売場の強さが製造小売を成功させる
── シェアアップに向けて、商品政策も見直されています。
田代 これまでは安さにこだわりすぎたかもしれません。安さは集客の重要な要素ですが、それがすべてではなくなっています。都市部のようにマーケットの厚いところであれば、安さを最重視するお客さまをターゲットにしても成り立ちますが、ローカルではそうはいきません。商品を絞り込んで低価格で販売するだけでは、お客さまに飽きられてしまい、見放されてしまいます。ですから、前述どおり、品揃えの幅を少しずつ広げているところです。
プライベートブランド(PB)については一時アイテムを増やしましたが、現在見直しをしています。価格訴求型の「Vセレクト」、製法や素材にこだわった「Vクオリティ」、そして希少価値の高い素材を使用した「Vプレミアム」の3つのラインを展開しており、高品質を求めるお客さまが増えたことに伴い「Vプレミアム」の売上が伸びています。
── PBの競争力を高めるため、製造小売化を重要な戦略として掲げています。進捗の状況はいかがでしょうか。
田代 われわれは自前でPB開発する際、原材料の調達から手がけることで、付加価値を生み出すようにしています。中期3ヵ年計画では「経営効率の改善」を最大の目標に掲げているのですが、商品を仕入れて販売するという売買差益だけでは利益率が上がらないので、SMの周辺事業、つまり自社製造の商品や自前のプロセスセンター(PC)で加工した商品を供給することに力を入れています。店舗で付加価値をつけるよりも、それ以前の段階で利益を確保しようという考えです。
私はよく「戦略をマネするバカと、戦術をマネないバカがいる」と社員に話しています。
当社は小売業から流通業への脱皮を図っています。そのために製造小売化を進めるというのが当社の基本戦略です。しかし、実際にこれを実現するには時間がかかります。川上にさかのぼるには、製造に関する専門的な知識や経験を持つ人材が必要だからです。
当社は人材獲得や自社物流網の構築、PCの整備、生鮮食品や総菜などの製造小売化を実現するために多くの投資をしてきました。合わせて、さまざまな仮説を立てては実践し、検証し、失敗を繰り返しながらノウハウを積み上げてきました。こうして組み立ててきた戦略は簡単にマネできるものではありません。
一方で、品揃えや売場づくりといった戦術に関しては、同業他社でうまくいっている成功事例があれば、それを大いに参考にして取り入れるべきだと思っています。
このほか、製造小売化の進捗に伴い、見えてきたことがあります。それは、よい商品を開発しても販売する前線、つまり売場に競争力がないと売上に結びつかないということです。既存店改装に力を入れるのは、こうした理由もあるのです。
── 製造小売化の結果として、収益性の改善は進んでいますか。
田代 やや遅れています。それは、われわれが扱っている商品が食品だからです。衣料品や家具は原価率が低く、粗利益率が高いため、それを販売したときの儲けは大きい。それに対して、食品は原価率が高く、販売するまでメーカー、卸売業、小売業と多段階の流通経路を通さなくてはならない。食品を製造する機能を当社が持っても、すぐに収益性の改善に結びつくわけではありません。ですから、製造小売業化を深化させ、食品の長い経路を短縮し、川上から原材料を安く調達する努力を続けているのです。