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百貨店を中心に永続性ある企業集団をめざす=天満屋 伊原木 一郎 社長

岡山県を本拠とし中国地方で事業展開する百貨店の天満屋。「お客様が求めるものを提供し、地域に貢献する」ことを重視する営業政策により、各地域の支持を得ている。しかし、人口減少や競争激化により経営環境は厳しさを増している。同社では今年5月、伊原木省五氏が会長に就き、省五氏の甥、伊原木一朗氏が社長に就いた。伊原木一朗新社長にどのような経営をめざすのか聞いた。

業態の垣根を越えた競争の激化が続く

いばらぎ・いちろう●1972年4月10日生まれ。1995年3月早稲田大学政治経済学部卒業、4月三菱商事入社。2016年2月同社退社、3月天満屋入社、5月天満屋代表取締役社長(現任)、天満屋ストア代表取締役会長(現任)

──5月に社長に就任されました。経緯を教えてください。

伊原木 天満屋に来る前は、総合商社の三菱商事(東京都/垣内威彦社長)に勤務していました。天満屋創業家の親族であったものの、社長就任については、まったく考えてもいなかった話でしたので、打診を受けた当初は戸惑いも感じましたが、最終的には引き受けることにしました。

 日本の現状に目を向けると、2000年初頭から人口減少が始まり、国内のマーケットは縮小しています。そのようななか、GDP(国内総生産)の約6割を占めるのが、百貨店を含むサービス産業ですが、その大半は全国各地にある中小事業者です。つまり、日本経済を支えているのは、地域に根を張って事業に取り組む企業群と言っていいでしょう。そんな企業の1つである天満屋で仕事をすることに大きな意義とやりがいを見いだし、決断にいたった次第です。

───商社時代に小売業に関わったことはあったのですか。

伊原木 前職では、おもに不動産開発やREIT(不動産投資信託)をはじめとした不動産金融の分野に携わっていましたので、直接的には小売業に関わったことはありません。ただ、投資対象として、主に小売店舗の入る商業施設を中心に全国の不動産物件を見て回った経験もかなりありますから、その意味では小売業にはなじみがありました。まったくの門外漢というわけではありません。

──さて、百貨店を取り巻く経営環境について、どのように認識していますか。

伊原木 消費市場の成熟化が進んでいて、単にモノを置いておくだけでは売れない時代になっています。一方で、小売業には百貨店のほか総合スーパー、食品スーパー(SM)、コンビニエンスストア(CVS)、ネットショップなど多様な業態があり、消費者は目的や用途に応じて、業態を使い分けています。また小売以外の要素を考えると、モノの消費だけでなく、携帯電話代に毎月1万円を支払ったりするなど、かつてなかった支出も増えています。こうした状況のなか、どのようにして百貨店という業態を選択してもらえるようにするかということを、今後の経営において意識していかなければならないと考えています。

──天満屋の業績はどのように推移していますか。

伊原木 総じて厳しい状況が続いています。14年2月期の連結決算では、消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあったため前期実績をクリアできましたが、その後2期連続の減収となりました。景気の不透明感が続くなかで今も消費が低迷するほか、業態の垣根を越えた競争の影響が続いているのが原因だと分析しています。

──厳しい状況のなかで、トップとしてどのように経営に臨みますか。

伊原木 まだ社長に就任して間がなく、具体的な戦略についてはこれから決定していきますが、大きな方向性としては、百貨店を中心に二十数社ある天満屋グループ全体で成長し、利益確保をめざしたいと考えています。天満屋というブランドを生かせる分野を見極め、ヒト、モノ、カネの経営資源を、メリハリをつけながら投入していきます。社長が交代したからといって、何か特別な打ち手があるわけではありません。地道な取り組みになると感じています。

 天満屋の創業者、伊原木茂兵衛は、19世紀前半に「正札販売」を掲げて誰にでも「公正適価」の販売政策を実施し、地域のお客さまから信頼を集めました。この「正札販売」に象徴される信頼・貢献の精神は今も天満屋のバックボーンとなっています。

 創業から187年、経営環境は大きく変化しています。経済だけでなく、政治、社会、文化のあらゆるものが地球規模で変わりつつあります。当社はつねに創業者精神に立ち返り、お客さま、地域が求めているものは何かということに耳を傾け、それに応えていくつもりです。

1店1店が地域に応じた店づくりに取り組む

天満屋の「岡山本店」。世界のトップブランドを集積させ、よりクオリティの高い商品の提供と、時代の最先端をいくトレンド、ライフスタイルを提案する

──グループで中核の百貨店の方向性についてどのように考えていますか。

伊原木 当社の営業戦略においては、マーチャンダイジング(MD)と店舗開発という、2つの大きな柱があります。いずれも基軸とするのは、「地域社会への貢献」です。この基軸のもと、地域のお客さまに喜んでいただける百貨店になれるような店づくりに取り組んでいます。当社の百貨店は、地域に根ざした店づくり、MDが特徴です。人間も一人ひとり個性があるように、店舗も異なる個性を創造したいという点から、店舗のある各地域のお客さまのニーズに応じたMDを実践しています。

 現在、当社は中国地方に7店の百貨店を展開していますが、1つとして同じ店舗はありません。1店1店が地域に応じた店づくりに取り組んでいます。「岡山本店」(岡山県/売場面積3万2904㎡)では、世界のトップブランドを集積させ、よりクオリティの高い商品の提供と、時代の最先端をいくトレンド、ライフスタイルを提案しています。「広島アルパーク店」(広島県/同2万6511㎡)や「米子しんまち天満屋」(鳥取県/同1万8398㎡)は、本格的郊外型の百貨店として全国でも先駆的な店舗で、日常生活の色合いが濃い地域へにぎわいを提供し続けています。「広島緑井店」(広島県/同1万6425㎡)は、日常生活に密着したデイリーユースの品揃えや店づくりに力を入れています。

 ほかの店舗も同様にそれぞれ“表情”が異なります。どの地域の店舗でも、お客さまの声に耳を傾けながら、マーケット特性を入念に分析します。その結果を店舗開発、売場構成、さらに自社開発商品などのかたちで具現化しているのです。

──百貨店としての天満屋の強みはどこにあると考えていますか。

伊原木 高質な商品、サービスはもちろんですが、多様な文化の発進拠点としても機能してきたところだと自負しています。とくに、文化の発信拠点としては、創業の地である岡山県にまだ市民会館がなかった時代から、店舗内に演芸場をつくったり、地元の焼き物、備前焼を紹介し陶芸品として全国的に知名度を上げたりといった活動を続けてきました。こうした活動によって地域の文化レベルの向上に貢献してきた企業として評価をしていただいています。

 スポーツ支援にも積極的に取り組んできました。地域での数々のスポーツイベントへ協賛するだけでなく、1992年に設立した本格的実業団チーム、「天満屋女子陸上競技部」は、数多くの国際大会や世界選手権、オリンピックへの出場を果たすなど、国内有数のチームへと育ちました。さらに地元のアスリートを支援する方針のもと、地元大学と協力してNPO法人「桃太郎夢クラブ」を設立し、日本トップレベルのコーチが指導するランニング教室も開いています。

 これらはほかの業態、あるいは企業にはないわれわれの魅力であり、強みであると思います。今後も同様の活動を継続していく考えです。

多様な業種・業態権限委譲し成長へ

百貨店は、グループ会社の天満屋ストアの店内に「店外ショップ」として出している店もある。写真は、「天満屋ハピータウン鴨方店」(岡山県)の1階に入る「鴨方ショップ」

──天満屋グループとしての成長をめざすうえでのポイントは何ですか。

伊原木 グループの中で今後も百貨店が事業の核であることに変わりはありませんが、現在二十数社あるグループ企業のネットワークを積極的に活用することで、永続性のある企業集団をめざしていこうと考えています。

 当社の傘下には、多様な業種・業態の企業があります。クレジット業の天満屋カードサービス(岡山県/長原幸嗣社長)、ソフトウェア開発事業の岡山情報処理センター(同/齋藤忠幸社長)、人材派遣業のキャリアプランニング(同/友光弘社長)、運輸業のせとうちデリバリーサービス(同/大西弘昭社長)、警備業の山陽セフティ(同/中居正志社長)、旅行代理業の天満屋トラベル(同/黒川卓哉社長)、ホテル業の天満屋ホテルズ アンド リゾーツ(同/伊原木一朗社長)、各種スポーツ施設を運営する天満屋スポーツアンドジョイ(同/伊原木一朗社長)など、バラエティあふれる顔ぶれが揃っています。

 まずは今後、これらの企業の経営幹部と徹底的に議論を交わし、各社の位置づけとミッションを明確にしていきたいと考えています。それを通じて、百貨店を含めた各社の役割や方向性を決めていきたいところです。


天満屋は、傘下に二十数社のグループ企業を抱える。食品スーパー、旅行代理業、ホテル業、レストラン業など多様な業種・業態が揃っている

──グループ経営では何がポイントになりますか。

伊原木 グループ全体で成長するには、権限委譲が必要だと考えています。経営トップに入ってくる情報には限りがありますし、誤った判断をしないためにも権限委譲を進めていきたいと思います。そのうえで各社が現場で多様性を取り入れ、活発な議論をしたうえでスピード感のある、意思決定の高い質を伴った経営を実践していきたいと考えています。その意味では、私のような外部にいた人間が経営に加わったのも、多様性の1つと言っていいかもしれません。

──SMを展開する天満屋ストアでは会長に就任されました。

伊原木 天満屋ストアは、上場企業であるため、ほかのグループ企業とは位置づけが異なります。基本的には社長としっかりと連携しながら、会長としての役割を果たしていきたいと考えています。企業や店舗が実際にどのような状況にあるかについて今後、あらためて確認していきます。

 現段階で言えるのは、地域に根差した店づくりに力を入れていくということです。大手のSM店舗が増えていますが、日本全国、同じ食材ではお客さまに満足していただくことはできません。岡山県に本拠を置く企業として特色を出し、ひいきにしていただけるようなSMをめざしたいと思っています。

──天満屋ストアは、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)傘下のイトーヨーカ堂(東京都/亀井淳社長)と14年1月に資本提携し、同時にセブン&アイ、天満屋、天満屋ストアの3社で業務提携を締結しています。これをいかに発展させていきますか。

伊原木 提携関係のもと、天満屋がフランチャイジーとなってCVSの「セブン-イレブン」を展開しています。病院の中に売店としてCVSを出店したり、天満屋の小型店も併設するといった取り組みも進めています。病院内CVSでおもに扱うのは食品ですが、当社の小型店はバッグや衣料など入院に必要な商品や身の回りの品も揃えています。今後、提携関係のなかで、何ができるかを議論しながら、取り組みを強化し、また進化させていきたいと思っています。

「魅力ある街」をどのように実現するか

──岡山市中心部で競争が激しさを増しています。14年12月にはJR岡山駅近くに大規模ショッピングセンター(SC)、「イオンモール岡山」が開業しました。天満屋の「岡山本店」から見れば、直線距離で西1㎞の至近にあります。

伊原木 新しいSCの登場により、お客さまの流れが変わったとか、周辺の商業施設が影響を受けていると言われています。確かに、店舗の規模や売上高は重要な指標ですが、事業を測る物差しはそれだけではないと考えています。

 どういうことかというと、われわれが最上位に位置づけているのは、当社が店舗展開するエリア全体が「魅力ある街」になることであり、エリア内の競争に勝つことに必ずしもこだわっているわけではないということです。「岡山本店」で言えば隣接する商店街と連携し、いかに魅力的な街づくりをするかが重要になります。さらに、駅前のSCから、当社本店を含む表町商店街周辺、そして観光地としても知られている日本庭園の後楽園までの回遊性などが生まれて、初めて岡山市中心部が「魅力ある街」になるのだと考えています。結果的に、当社の百貨店としての特徴が生きるでしょうし、差別化にもつながるはずです。