働きがいのある職場をつくり沿線地域との「共存共栄」をめざす=東急ストア 須田 清 社長
東急ストア(東京都)の既存店売上高が好調だ。消費増税の影響を受けた2014年4月を除くと、3年以上前年同月実績をクリア。12年に須田清社長が就任して以降、不採算・老朽化店舗の閉鎖や既存店の改装などに取り組んできた成果が現れている。今年は同社の創業60周年という節目となる。次なる成長戦略をどのように描いているのか須田社長に聞いた。
売上高2000億円を突破
──2015年度(16年2月期)の営業状況はいかがでしたか。
須田 15年度の業績については、11年度以降達成できていなかった売上高2000億円を久々に突破することができました。11年度と比較して大きく違うのは店舗数です。当社はこの3年ほど不採算・老朽化店舗の閉鎖を進めてきました。11年度末は93店だった店舗数が、15年度末では80店になっています。店舗の総営業面積は11年度の約70%にまで減少しています。それでも同じ業績を達成することができたのは、既存店が力をつけてきた証しです。実際、既存店売上高は13年3月から3年以上、消費増税の影響を受けた14年4月を除けばすべて前年同月実績を上回っています。
最近の既存店の来店客数は、対前年同月比2~3%増をキープしています。東急グループのポイントカードには、1日約500人が入会されており、新規のお客さまが増え、既存のお客さまの来店頻度も高くなっているのではないかと考えています。
11年3月、複合施設「二子玉川ライズ」(東京都世田谷区)内にオープンした「東急ストア二子玉川ライズ店」の売上も好調です。施設の再開発が進んでいるという影響もありますが、開店直後は約700万円だった日商が、いまでは1000万円を超えています。客数も「二子玉川ライズ」全体を上回る伸長率で推移しています。
いままでは、駅やバスなどの集客装置がありながら当店を利用していただけていないお客さまが多かったのですが、当社の強みである立地の優位性が生かされるようになってきたと感じています。
──12年に社長に就任して以降、経営基盤の立て直しに取り組んできました。
須田 当社は、東急グループの中核である東京急行電鉄(東京都/野本弘文社長:以下、東急電鉄)の100%子会社です。売上よりもグループ連結の利益にどれだけ貢献できるかを考え、東急電鉄のトップと相談しながら不採算・老朽化店舗の閉鎖を進めてきました。
閉鎖する店舗をご利用いただいていたお客さまのなかには閉店時に涙を流される人もいて、まさに断腸の思いでした。しかし、営業を継続するとなると改装やメンテナンスのための設備投資が必要になります。その分のリターンを見込めるのか見極めたうえで判断を下しました。
その一方で、既存店に投資をして営業力を強化してきました。13年3月から3年間で全80店舗のうち、全面改装を29店、部分改装を42店で実施しました。
社内では「店舗年齢を3年以内にしよう」と話しています。お客さまの需要はつねに変化するため、3年に1回はすべての店舗に営業力強化のための投資をしていきたいと考えています。
改装するに当たっては、全店でお客さまの声を聞くアンケートを行いました。アンケートは専門家に委託するという選択肢もありましたが、お客さまに声をかけることに意義があると考え、店長や副店長が直接聞き取り調査をしました。これまでに4回実施した結果、各回約2万件ほどの意見や要望が集まり、その内容に可能な限り対応して各店舗の商品構成やレイアウトを変えてきました。
また、お客さまだけでなく、パート社員やアルバイトを含め全従業員にもアンケートを実施しました。「お手洗いが汚い」や「休憩室の分煙化ができていない」などさまざまな要望が上がったため、数億円単位のコストをかけて職場環境を改善しました。
さらに、店舗に人員を補充して、きちんとした接客や売場づくりが実行できるようにしました。それにより従業員や売場に活気が出たことも、既存店が好調である大きな要因だと思います。
──商品政策(MD)についてはどのように考えていますか。
須田 MDについては、東急沿線のマーケットに合った商品とはどのようなものなのかを再定義しているところです。東急沿線は、日本で有数の肥沃なマーケットであり、そのお客さまのニーズに対応し、豊かな食生活を提案できる商品を提供する必要があります。他社と差別化できる「ちょっといいもの」を積極的に取り入れて、売上動向を見ながら継続的にMDを進化させています。
プライベートブランド(PB)商品については、私鉄系8社で構成する八社会(東京都)の価格訴求型PB「Vマークバリュープラス」と、当社の価値訴求型PB「TokyuStore PLUS」の2種類を販売しています。八社会は5月から私が社長を兼務することになったため、よりスケールメリットを生かした商品開発の体制をつくりたいです。
「Tokyu Store PLUS」については、商品の魅力がお客さまにうまく伝わっていないのが現状です。今年度中には全500SKUのパッケージやロゴを全面リニューアルして訴求力を高めたいと考えています。
総菜については、当社の店舗は駅前に立地しているということもあり売上が伸長しています。改装店舗では、ほかの部門の売上高が対改装前比5~10%増という伸びに対して、総菜は同約20~50%増と高く、まだ伸びしろがあると感じています。
しかし、総菜の販売を強化することで、生鮮食品や関連する調味料の売場を縮小したくはありません。食品スーパー(SM)の本来の役割は、生鮮食品をはじめ家庭料理の材料をお客さまに提供することではないでしょうか。かつては街の青果店や鮮魚店などがその役割を果たしていましたが、そのような店は減少しています。大袈裟かもしれませんが、日本の食文化を守るという使命もSMにはあると思うのです。