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業績回復の鍵はテイクアウト – トリドール「丸亀製麺」がコロナ禍を乗り切るために変えたこと、変えないこととは?

新型コロナウイルス(コロナ)による外食控えなどの影響を受け、業界全体が冷え込んでいる外食産業。その中にあって、トリドールホールディングス(東京都/粟田貴也社長:以下トリドールHD)は、主力業態「丸亀製麺」を中心として復調傾向にある。コロナ禍での取り組みや戦略について、同社執行役員経営戦略本部本部長兼CHROの鳶本真章氏と、丸亀製麺代表取締役社長の山口寛氏に話を聞いた。

トリドールホールディングス執行役員経営戦略本部本部長兼CHROの鳶本真章氏(左)と丸亀製麺代表取締役社長の山口寛氏(右)。

 トリドールHDは、1985年に焼鳥居酒屋「トリドール三番館」(兵庫県加古川市)として創業。その後06年のマザーズ上場、08年の東証第一部上場を経て、16年に持株会社体制に移行した。

 主力業態は、手づくり・出来立ての讃岐うどんをセルフ方式で提供する「丸亀製麺」で、00年に兵庫県加古川市に1号店を出店して以降、20年10月末時点で国内859店舗まで成長を遂げた。ほか、パンケーキを中心にハワイアンメニューを提供する「コナズ珈琲」、とんかつやトンテキなどを提供する「豚屋とん一」など、グループ全体で国内1103店舗・海外633店舗(2020年10月12日現在)を展開する。

 20年3月期通期決算では、売上高1564億7800万円(対前年同期比7.9%増)、営業利益43億6700万円(同89.7%増)、純利益19億5600万円(同633.2%増)と好調だった同社。しかし、コロナの影響で21年3月期第1四半期には売上高272億9400万円(同30.4%減)、35億5000万円の営業赤字となっていた。ただ、11月13日に発表された同第2四半期決算では、売上高634億7300万円(同20.7%減)と復調傾向にある。

手づくり、出来立てへのこだわりが生んだ成功

 讃岐うどんを提供する外食チェーンとして、現在では知らない人はいないほどにまで成長を遂げた丸亀製麺。その成功を支えたのは「手づくり、出来立てへの信念を曲げず、こだわり続けた」ことだと鳶本真章氏は語る。

 丸亀製麺では、讃岐うどんの本場に倣いセルフサービスでの提供方式を採用している。これによってオペレーションコストを削減する一方で、コストのかかる店内での製麺と、茹でたてのうどんを提供することに関しては創業当時から一度も変えることなく貫いている。「提供するのはうどんではなく、“手づくり・出来立てのおいしさを食べてもらう体験”。ここを曲げてしまっては丸亀製麺ではない」と鳶本氏は力を込める。

コロナ禍で需要の高まったテイクアウトが復調の鍵

 コロナ禍での外食控えにより丸亀製麺も大きな打撃を受けたが、窮地を脱する手がかりとなったのはテイクアウトの導入だった。テイクアウト導入の準備は以前から進めていたが、コロナの流行を受けて予定を前倒して導入したところ、月によってばらつきはあるものの平均で店舗売上の14~15%、中には30~40%をテイクアウトの売上が占める店舗も出現した。また、テイクアウトの導入は客層にも変化をもたらした。コロナ以前からもともと一人客が多く、複数人での利用は減少傾向だったイートイン(店内飲食)と異なり、テイクアウトでは3~4人単位での利用が目立つという。テイクアウトの比率をより引き上げるため、現在約20店舗で導入している「Uber EATS」などのフードデリバリーサービスを、さらに拡大することも計画している。

 テイクアウトの導入に際しては、イートインと遜色のない品質での提供にもこだわる。ほかの飲食店ではテイクアウト用に、時間が経っても麺が伸びないよう、麺そのものを変更しているところも少なくないが、丸亀製麺では店舗と同じ麺をテイクアウトでも提供する。これは、現在店舗で提供している麺がベストなものだという考えからだ。「麺に手を加えるのではなく、そのままのおいしさを保てる容器の方を新たに開発しようと考え、2年程前から取り組んでいた」と鳶本氏。

 このことからも分かる通り、テイクアウトはコロナ禍での一過性の取り組みではなく、新たな売上の柱として今後も力を入れる考えだ。「準備を進めていたテイクアウトを、コロナがきっかけで予定を早めて導入することになったが、コロナで下がった売上の穴埋めという風にはあまり考えていない。(テイクアウト分が)売上の上積みとなるようにしていきたい」と山口社長は話した。

コロナ禍での出店戦略は「ハイブリッド型」

 コロナは出店戦略にも大きな影響を与えた。コロナ以降同社は、都心近郊で駅至近の立地にある狭小型店舗に成長の可能性を見出しているという。その理由は、コロナ禍でイートインは座席数を減らすなどの対応を迫られているのに比べ、前述の通りテイクアウトは好調だ。テイクアウト比率をより高め、イートインとテイクアウトを両軸とする「ハイブリッド型」の店舗づくりに丸亀製麺は注目している。

 というのも、うどんのテイクアウトは「駅から自宅やオフィスまでの間で購入し、持って帰って(行って)食べる」使われ方が多く、この利用スタイルを後押しする駅近の店舗は大きな可能性を秘めているためだ。駅近の立地でネックになりがちな店舗の狭さについても、テイクアウトを重視するハイブリッド型店舗であれば支障ない。さらに、テレワークなどによってオフィス街人口が減少していることを踏まえ、「住宅街を多く抱える駅周辺への出店にチャンスを感じている。ハイブリッド型なら30坪あれば出店できるため、立地の選択肢がぐっと広がった」と山口社長は話した。

今後の飛躍に向けた整理と土台作りのフェーズに

 今後の事業戦略について、「コロナとは関係なく、もともと事業全体を見直す時期だと考えていた。今まで拡大路線での成長を続けてきたが、今後さらなる成長をめざすために、各事業の在り方を再考するフェーズにしたい」と鳶本氏。丸亀製麺以外にもさまざまな業態を展開するトリドールHDだが、当面は各事業の採算性の見直しや、それぞれの業態が提供するバリューの明確化に注力する方針だ。丸亀製麺単体では、「今後さらに大きく飛躍するための土台作りの時期。成功モデルと呼べるものは掴めているので、その展開のためのテストをさまざまな立地で進めていく」と山口社長は話した。

 しかし、丸亀製麺が創業から貫いてきたこだわりは譲らない。「コロナで改めて感じたのは“あるべき姿”を簡単に曲げてしまわないこと」とも鳶本氏は話し、コロナで環境が変化する中でも、丸亀製麺のこだわる“手づくり・出来立てを味わってもらう体験”の提供には、今後も全力で取り組む方針だ。