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ドンキ運営のPPIHが農産物の輸出促進組織立ち上げ 安田隆夫会長が語った海外展開の野望とは

 パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都:以下、PPIH)は10月23日、日本の農畜水産物の輸出拡大に向けた生産者とのパートナーシップ組織「Pan Pacific International Club (PPIC:ピック)」を発足した。産地や行政との連携強化を図ることで2030年までに農畜水産物の輸出額3000億円の達成をめざす。

発足同日に都内ホテル開催されたPPIC発足式には、生産者約100人や農林水産省関係者らが集結した

「ハーモニープライス」を壊し
日本産食品の輸出拡大に貢献する

 PPICは、PPIH創業会長 兼 最高顧問である安田隆夫氏の“肝煎り”の施策だ。同日開かれたPPIC発足式には、近年はメディアの前にほとんど顔を出していなかった安田会長も登壇し今後の海外事業の展望について言及した。

 PPIC発足に至ったきっかけは、安田会長が2015年にグループの会長 兼 CEOを退き、シンガポールに移住した際、現地で日本産食品が2~4倍ほどの高値で売れられているのに驚いたことだ。その背景には、輸出に多くの手続きや手間が生じるなかでも利益を担保するべく、業界ぐるみで「ハーモニープライス」と呼ぶ高値での販売を慣例化してことがあるという。

 「これでは日本産食品の魅力を一部の富裕層にしかわかってもらえない。日本の“安売り王”の名にかけて、シンプルな流通ルートの確立によりこのハーモニープライスを壊す。そうすることで、日本産食品の輸出拡大を推進し『ドン・キホーテ』をこれまで育てて下さった日本の皆さまへの恩返しがしたい」と安田会長は語った。

発足式で登壇する安田会長

開店日に国産いちご
3000パックが完売

 そこでPPIHは17年12月、安田会長の開発による新業態1号店で、アジア初出店店舗の「DON DON DONKI オーチャードセントラル店」をシンガポールで開業する。

 「DON DON DONKI」は「ジャパンブランド・スペシャリティストア」をコンセプトに掲げ、日本産食品の販売に力を注ぐ店舗だ。PPIHが調達から手掛けることで日本産食品を、それまでの現地小売店価格の半値ほどで販売し、大きな支持を得ている。

 なかでもよく売れるのが日本産の農畜水産物だ。たとえばオーチャードセントラル店では、開店初日だけで日本産いちごが3000パック、日本円にして約300万円分が売れたという。日本の「ドン・キホーテ」店舗では全体に占める食品の売上高構成比は30%ほどだが、海外の店舗では80%にも上る。

 こうしたなか「今後さらなる成長を図るには日本の生産者と手を組み、生産から販売まで一気通貫した仕組みづくりが必要」(安田会長)として約1年前からPPIC設立に向けて動きだし発足に至った。

海外の店舗では食品の売上高構成比は約8割に上る。PPIHは日本産の農畜水産物の潜在需要は高いとみている

産地と提携し効率的な
輸出ルートの開拓へ

 会員制組織PPICは、PPIHの海外の店舗への農畜水産物の輸出を希望する法人・個人事業主であれば、無料で入会できる。

 入会者には提供メニューとして、PPIHとの取引契約の締結のほか、定期的な輸出商談の機会や、海外店舗のトレンド情報などが与えられる。

 生産者にとっては、生産物の販路拡大や、長期的な取引契約を結ぶことで計画的な生産が、PPIHにとっては、海外店舗で販売する日本産食品の確保が可能になる。

 また、これまで日本産食品は必ず東京を経由し輸出していたが、今後は産地と協力することでより効率的な輸出ルートを開拓し、浮いたコストで現地販売価格の低価格化を図る。

PPIC発足式当日にはメディア向けの記者会見も開催された

 農林水産省では2030年までの目標に、農畜水産物の年間輸出額5兆円への拡大を掲げる。これに対しPPIHでは同年までに海外事業の年間売上高1兆円(20年は1000億円)、PPICでは日本産農畜水産物の年間輸出額3000億円の達成をめざす。

 現在PPIHは、米国、香港、タイ、シンガポールで計51店を展開する。30年までの目標を達成させるべく海外店舗数は500店規模まで広げたい考えだ。

安田会長は海外事業のなかでもASEANエリアの多店舗化に力を注ぐ考えだ

 19年にPPIHの非常勤取締役に復帰した安田会長は、PPIHグループの環太平洋エリアでの成長の総指揮を執る。「なかでもASEANエリアでの『DON DON DONKI』の多店舗化を最後のライフワークとしたい。気力ではまだ若い者には負けず、体力的にもあと10年は使いものになると自己診断している」(安田会長)。

 生産者や行政を巻き込んで日本産農畜水産物の本格的な販売に乗り出したPPIH。安田会長の野望とともに、海外事業がいっそう加速していきそうだ。