破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#3 コスト削減だけでブレークイーブンに持ち込む手法

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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細分化された組織の罠と一筋縄でいかないアパレルの組織改革 

 最後に、一枚目のコスト削減で忘れがちな大事な視点についてお話ししたい。

 企業は成長するにしたがい分業が増え、「部分をみて全体を見ていない人」により、「業務」が自己増殖することは常識だ。こうした企業にいくと、①利益を生まない企画部署がやたらと多い ②組織が異常なほど細分化され、重複業務が発生してシナジーが出ない関係にある、ということに遭遇する。アルフレッド・チャンドラーのいう、戦略との相関性で組織設計をするのでなく、人にあわせて組織(椅子)を用意するから、このような不可解な組織体ができるのだ。私が知っているある商社では、なんと似たような営業組織が20も存在し、課員は課長と課長代理しかいないという、あからさまに「人に合わせて組織をつくった」状況に遭遇したこともある。私が尊敬するある経営者は、徹底してコストセンターを廃止し、バックオフィスまでもプロフィットセンター化し、P/Lを持たせて外販をさせていた。

 私は、彼に「戦略企画部を作らせて欲しい」と幾度も進言したのだが、「外から金を取れない組織は我が社には不要」とばかりに、耳を貸してくれなかった。その後、その会社はNo Dept (借金ゼロ)の超優良会社となり、数十億円の投資を行って見事にアパレルビジネスからイグジットし、最高の株価を計上するに至っている。幹部会でも、本来コストセンターであるバックオフィスが赤字に陥ると劣化の如く怒鳴りつけ、3期続けて赤字の場合リストラと経営者交代を大胆に行うなど、私が彼から学んだことは計り知れない。

 一方、業績不振の企業は利益を生まないコストセンターが山のように存在する。社長室、経営企画室、戦略企画室など、一体これらになんの違いがあるのか。誰もわからない。また、今時、横割りの機能別組織となっている企業もあるが、この手の組織は、細分化された組織が機能別に個別最適化を意図し、各組織が頑張れば頑張るほど、グループ全体の損益分岐点を上げてゆき歯止めがきかなくなり、恐ろしいほどのブレークイーブン(損益分岐点)となっている。本来、店頭を基準に企画、製造、販売が三位一体となり、顧客を起点に俊敏に組織のバリューチェーンのあちこちに発生するトレードオフを解決する垂直統合型が主流だ。変化の激しい競争環境の中で機能別組織に勝機は無い。

 アメーバ経営、セル型生産方式など、少人数グループに損益責任を持たせる考え方の有用性は語られてきたし、日本を代表するターンアラウンド・スペシャリストの三枝匡氏は「SMALL IS BEAUTIUL」といって、組織は小さければ小さいほどよいという持論をのべている。究極の一人事業主の集まりである商社出身の経営者が多いのは、こうした組織設計と無関係ではない。

 しかし、アパレル産業の再建はなかなか教科書通りにはいかない。というのは、無数の中小企業がバリューチェーンに群がり、個別企業の存在自体がバリューチェーン全体の一部分であるのがアパレル業界だからだ。例えば、伝統的なアパレル「メーカー」は、生産を商社に委託し、販売は百貨店などのリテーラーに委託する。こうした企業の再建は、いくら「SMALL IS BEAUTIFUL」を行っても、その存在がそもそもバリューチェーンの一部でしかないのだから、企画、生産、販売という一連の流れを一つの単位にすることは不可能なのである。だから、個別企業のことだけを考えて全体最適を意図する改革を行っても、構造的に世界企業に勝つだけの「ものづくりの流れ」をつくれないわけだ。

 アパレルの中で、製造小売業(SPA)や、D2Cといった、自社で製造と販売を同時に行う企業が躍進する理由はここにある。企業が良い意味で、弱り切っている今だからこそ、M&Aや垂直統合を軸とした産業再編を起こすラストチャンスであるとも言えるわけだ。現在の私が昨年に予測した「TOB元年」に突入したアパレル業界ではあるが、その実態は金融機関主導、金融業界の都合で動いているというのが実態で、その裏に指したる戦略性は見えない。日本は平穏を装っているが、もはや金があれば家具屋だろうが家電量販店だろうが、アパレル救済に名乗りを上げているように見えるのはそのためだ。

 一枚目を単なるコスト削減と捉えると、大やけどをすることになる。アパレル企業の再建はかくの如く難しく専門性が高いのである。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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