日本でCPFRもオムニチャネルもうまくいかないのは“アメリカ礼賛”で形式だけ真似ているから
日本でCPFRが進まないのは、英語力と本質を掴む力と努力が足りないから
日本人がCPFRのみならず、オムニチャネルなど米国発のさまざまな戦略コンセプトを誤解している根本理由は、形式論ばかりが横行する流通業界の「米国礼賛主義」にある。さらに深掘りすると、日本人の語学力と画一的なフレームワークにはめようと勝手な解釈をすることに行き着く。
私がこの事実に至ったのは、カート・サーモンのパートナー(最高経営責任者)として、グローバルネットワークに参加し、米国の猛者達と連日のようにオムニチャネル、CPFR、ユニクロの米国人の見え方からAmazonのアパレル戦略まで、徹底して討議してきた体験による。
何しろ多くの日本人はすぐに「I see」といって、議論を終わらそうとする。そして、彼らの話を難解な日本語に翻訳してそれを鵜呑みし、画一的なモデルを作り上げるのだ。
一方、私はそうではない。私は理解できるまで徹底して、愚直に質問を投げかけた。いわゆる「質問力」の差で本質を掴んできたのだ。その経験から言えることは、米国のコンセプトはもっと柔軟で本質的なものであるということだ。画一的なものでもなければ、デジタルベンダーのパッケージモジュールでもないのだ。
例えば、オムニチャネルという言葉が流行りだしたとき、私は、メイシーズ、Amazon.comの中核にいた人間と直接、議論をしたことがある。彼らは、私が繰り返す質問に、「Taku (私の名前)、オムニチャネルを一言でいえば、いつでも (when)、どこでも (where)、どのようにでも (How) ものが買える状態をつくることだ。それ以上でもそれ以下でもない」という言葉を引き出した。こうした骨太で、輪郭がしっかりしたコンセプトを掴めば、あとは、ローカルで応用すればよい、ということである。
私は、その後、契約前のアパレル企業にゆき、その企業の「消費者からみた価値」から、強みとデジタル化領域を分析し、「チャネルの垣根を取り払い、いつでも、どこでも、どの方法でも消費者が買える状況をつくりましょう」と提案した。その企業に特化したやりかたで導入されたオムニチャネル戦略はとてもよいものであったと自負している。
一方、米国で導入されているからといって、そもそも来店客もいないアパレル衣料品フロアで、クリックアンドコレクトを導入するという理解しがたいケースもみて驚いたこともある。聞けば、米国の指示だという。その担当の日本人は、TOEICの点数は私より遙かに高いのだが、本質を浮き彫りにする力が欠けていた。高い英語力を米国の指示を引き出すことにしか使っていなかったのだ。
少々余談とはなるが、いかに、TOEICなどで英語力を測ることが無意味なことであるかがわかるだろう。コンサルティング能力が低い人は、言語変換だけできても何も変わらない。よく企業の中に、海外担当者としてTOEICによる選抜をしているケースを見ているが、私の商社マン時代の経験から言っても、「そんなことはキャンノットや!!!」と、外国人に対しても臆せず日本語英語で怒鳴りつけている強者は絶対に納期遅れなどしなかった。ビジネスに国境はないのである。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)