ヤオコーが連結子会社化! 異色のローカルスーパー「クックマート」とは何者か?

聞き手:阿部 幸治 (株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア編集局 局次長)
構成:松岡 由希子 (フリーランスライター)

ローカルな人たちが輝き、好循環生む仕組みを醸成

──従業員が生き生きと働ける組織開発にも取り組んできました。

白井 ローカルスーパーでは、地元で生活する人が気持ちよく働き、それぞれの能力を十分に発揮できる場を提供することが重要です。

 ローカルの人たちは、都会のキャリア志向の人たちとはずいぶん異なります。キャリアアップよりも職場の雰囲気がよく、人間関係が良好で、安心して所属できることを重視する人たちも多い。彼らの望みをしっかりと把握し、これに合わせたローカルならではの組織をつくることが重要だと考えました。

 クックマートでは、それぞれの「向き・不向き」を重視しており、望まないのであれば無理に昇進をめざす必要はありません。「己を知り組織を知るための人事制度」と呼ぶ、それぞれ自身にフィットする場所で働けることをめざした独自の人事制度も整えてきました。

──若手の従業員も多く、離職率も高くありません。「若年層の組織への帰属意識が低下している」という一般論と真逆のことをなぜ実現できているのでしょうか。

白井 一つの要素に還元できないですが、明確な理念を核とした組織文化があり、それをベースにリアルとバーチャルを融合させ、会社をコミュニティ化していることが要因の1つかもしれません。

 たとえば社内SNSでは、業務連絡だけでなく、全従業員のプロフィールなども共有します。これにより互いの人となりを知ることができ、プライベートを含めたコミュニケーションが活発に行われています。「社内で今何が起こっているのか」を展望できるようにしており、店や部門ごとにバラバラではなく、常に「オールクックマート」な雰囲気がありますね。

 リアルの場としては、毎年夏に従業員とそのご家族を交えた「家族バーベキュー会」を開催し、ご家族にもクックマートの雰囲気を知ってもらっています。また、毎年3月に開催する経営方針発表会「デライト DEナイト」はエリア対抗の歌合戦やクイズなども実施して大いに盛り上がり、当社の経営理念である「楽しむ、楽しませる!」を体感できる場になっています。

──現場のモチベーションが高い組織文化は、どのように醸成されてきましたか。

白井 クックマートは業界でも後発だけに、創業者で私の父である白井正樹会長の時代から、既存のSMの「あたりまえ」に違和感を持つ文化がありました。「なんか変だな」「これ嫌だな」という素朴な思いから、クックマートの根幹には既存のチェーンストアへのアンチテーゼのような側面があり、本部からの指示・命令ありきではなく、現場で考えて行動する組織風土を強めてきました。

 ただし、これが度を越すと、個人がわがままになり過ぎるなど、まるで「個人商店」の集合体のようにカオスに陥るおそれがあります。そこで、各自が裁量を持ちつつも、全体としてはクックマートらしさを担保できるように、言葉、すなわちコンセプトを大事にし、「コンセプトのなかでの自由」「クックマートらしさ」の枠組みをつくりました。

 私の主な仕事は自社の理念やコンセプトを示すことであり、それを受けて、議論し、具現化していくのが営業の現場です。クックマートでは、店舗に商品の仕入れ権限があるなど、現場の裁量が大きく、それゆえ店長や部門長を中心に従業員が「自分の売場」ととらえて主体的に店づくりに取り組める楽しさがあり、これが好循環を生み出しています。

──現場に裁量を与える一方で、「クックマートらしさ」や「クックマートが売るもの」といった軸となる方針がしっかりと示されているのが特徴です。

白井 商売なので、やはり売れるものをしっかりと売るのが基本です。奇をてらわず、日常使いのSMとして「ど真ん中」の品揃えをきちんと提供していきたいと考えています。ローカルの「ふつう」を極めたいというのが当社の考えです。

 SMの「ど真ん中」をめざしながら、他社と同質化しないためには、やはりコンセプトに忠実になることが重要です。クックマートはコンセプトに「リアル×ローカル×ヒューマン=地域の活気が集まる場所」を掲げています。独自のコンセプトがあれば「何をやらないか」がはっきりします。当社では戦略上、チラシ販促やポイントサービス、ネットスーパーをやっていません。「何でもやる」は「ベター」の発想です。コンセプトが明確だからこそ、本当にやるべきことに注力でき、「ディファレント」な存在になっていくのだと思います。

──22年には、さらなる成長をめざし、持株会社デライトホールディングスを発足。ファンド運営会社と戦略的資本業務提携も締結し、ローカルスーパーとして新たな成長モデルの構築をめざしています。10 年後をどのように構想していますか。

白井 われわれのやり方をより煮詰めて体系化し、持続可能性のある「ローカルスーパー」というジャンルを確立できないかと「妄想」しています。メーンストリームとしての大手SMの存在があるのは変わらない一方、「それだけ」になってしまってはつまらない。対する「ディファレント」な存在として、特徴のあるローカルスーパーはこれからより必要とされるのではないかと思います。

 SMは会社規模が大きければいいかといえば、そうでもないのが面白いところです。生物多様性と同じで、いろんな店があっていい。ローカルにはローカルのいいところがあってそれを生かすようなことがやりたいですね。人口減や少子高齢化に伴って競争がますます激しくなるなか、画一的なチェーンストアは飽きられてしまうと思います。ローカルスーパーこそ、自分たちならではのことをとことんやるべきです。ローカルスーパーとして「大相撲」じゃなくて「わんぱく相撲」のようなことをやれたら面白いと考えています。

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聞き手

阿部 幸治 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局次長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長、19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。25年4月より編集局局次長に就任。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ。

構成

松岡 由希子 / フリーランスライター

米国MBA 取得後、スタートアップの支援や経営戦略の立案などの実務経験を経て、2008年、ジャーナリストに転身。食を取り巻く技術革新や次世代ビジネスの動向をグローバルな視点で追う。

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