セブン&アイの”混迷”からあらためて考えたい「ホールディングスのあり方」

佐々木 泰行(佐々木泰行事務所代表・研究主幹)

セブン&アイの事例にみる「HDの弊害」

 しかし、同時に「ホールディングス化」による弊害も現れ始めた。「新設分割型」「株式移転型」「会社分割・株式交換併用型」「カーブアウト事業集約型」などのいずれのパターンにせよ、旧来の「各社の株式」は株式交換などで「ホールディングスの株式」に変わる。当然ながら、ホールディングスにより新たな法人格となるが、これがしばしば問題を起こすようになってきた。問題発生のきっかけとして多いのが、各事業の収益性、成長性などに格差がついてきた場合だ。

 セブン&アイの事例でいえば、その時点でアクティビストの関与があったわけではないが、13年頃に米国コンビニ事業の強化を求める声が強まり、それにセブン&アイが従ったことで同事業が強化された。一方で、国内の百貨店事業や総合スーパー(GMS)事業の相対的な収益性、成長性の低さが目立つようになり始めた。

 そして16年には、最初に登場するアクティビストが「ガバナンス欠如」を理由に、コンビニ事業を立ち上げた中興の祖である鈴木敏文氏の退任を迫り、実際にそうなった。この出来事が、コンビニ事業とそれ以外の事業との収益格差をより目立たせることとなり、構造改革の加速を求める声が増えていった。

 20年には「第2のアクティビスト」が百貨店、GMS事業からの撤退と米国コンビニ事業の強化を求め、百貨店の売却検討に着手せざるを得なくなった。さらに22年には「第3のアクティビスト」がその主張をさらに強め、セブン&アイは百貨店事業を売却、GMSも採算が悪い店舗の閉鎖を進めた。

 最終的には、24年10月、イトーヨーカ堂やヨークベニマル(福島県/大髙耕一路社長)などSST事業グループ対象会社29社を統括する中間持株会社のヨーク・ホールディングス(東京都/石橋誠一郎社長:以下、ヨークHD)を設立。ヨークHDの戦略的パートナーとして、セブン&アイは米投資ファンドのベインキャピタルに8147億円で譲渡するかたちで分離(カーブアウト・スピンオフ)することとなった。

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