もはや日本は亜熱帯!? 温暖化でもアパレル小売が儲けるための3つの秘訣
消化歩留まり追求の副作用
近年のアパレル業界では、消化歩留まりを高めるべく「売り切り」消化が志向されているが、アルゴリズムやAIを駆使して消化管理し、在庫を抑制すればするほど、POSでは見えない「売り逃し」が肥大していく。売上を最大化するには、多少の売れ残りや値引きロスには目を瞑って必要な在庫を揃え、「売り逃し」を最小化して顧客充足率を高めるべきで、それを欠いてはライバルに顧客が流れて占拠率を落としてしまう。
ユニクロは「売り切り」より「売り逃し」防止を優先して膨大なSKU在庫を多段階に積み上げているが、その結果として少なからぬ売価変更ロス(推計22%強)や売れ残り在庫(推計8%強)が生じても、国民的支持を得て国内衣料消費の11%近いシェア(9322億円)を確保し、対売上収益比16.1%もの営業利益を計上している(24年8月期)。1店平均10億円近くを売り上げ、平米当たり年間販売効率も95.2万円、1人当たり年間売上も3844万円と突出している。
「売り切り」消化を優先すればシーズンピーク〜末期の在庫を抑制することになり、8〜9月、1〜2月の端境期の売上も抑制してしまう。結果として最低保証売上に届かなければ、固定費負担で月度損益の赤字が肥大することになる。多少(?)の売価変更ロスや売れ残りと端境月の売上を天秤に掛けて、どちらが損益的に重いか、欠品回避による顧客充足がもたらすLTV(長期顧客化)シェア拡大という戦略的効果も合わせて考えるべきだろう。
季節商品やトレンド商品は売価変更ロスがかさんでもシーズン中に売り切る必要があるが、季節を超えて継続展開する定番商品は多少在庫を持ち越しても翌シーズンに販売できる。端境月の売上を下支えするには、継続展開商品の比重を高めるという選択もあるのではないか。
季節商品と継続展開商品のバランスを変える
暖冬と亜熱帯の夏が長引く温暖化、老若男女総労働力化による家庭内分担とライフスタイルの変化、アスレジャー革命以降の衣服に対する機能性の追求が相まって衣料消費は不可逆的に変化しているから、シーズンマーチャンダイジング(MD)のテクニカルな修正だけでは対応できない。
ライフスタイル、ウェアリング、素材までもが大きく変化しているのだから、商品の基本的なスペック(機能性/素材/パターン/縫製仕様)から再構築する必要がある。バイヤー/マーチャンダイザーの借り物MD(既存取引先スペックの転用)で対応できる次元ではないことを経営陣が自覚するべきだろう。そうなれば商品調達組織の陣容は一変し、サプライヤーとの関係性も新たな段階に突入していく。
商品スペックのアップデートが相応に進むという前提で、MDのテクニカルな対応に移ろう。四季の流れが変わり、短期化する春・秋は在庫を揃えて季節内に売り切るのは無理がある。長期化する夏には新たな区切りとして「亜熱帯夏期」(東京では最高気温が30度を超える真夏日が6下旬〜9月中旬の3ヶ月間に及ぶ)を加えないと対応できない。
また、温暖化して寒冷期が後ズレする冬では合繊中綿アウターを中心とした「春」感覚(春色・春トレンド)の防寒アウターや発色の良い合繊混(アクリルやナイロン、フイルム糸)のニットが主役とならざるを得ない。
今風のスペック開発に加えて季節商品を一新するとなれば、サプライヤーの協力を得ても適応には時間を要してしまう。そのため、開発体制の整ったSPAならともかく、仕入れ依存のアパレル小売は後手に回らざるを得ない。後手に回った分、確実にマーケットシェアは失われていく。ならば、季節商品を抑制し、季節をまたいで販売を継続する商品の比重を高めていくという選択もあるのではないか。

ユニクロが典型的だが、13W展開商品、26W展開商品が大半を占め、季節ごとに切り替わる商品は1割もないように見える。さらに、13W展開商品であっても素材替えや色替えをすることによって、実質的に26W展開する商品もある。インバウンド客の多い店舗ではライトダウンやTシャツを通年展開するケースもあるようだ。
季節をまたいで販売を継続する商品は顧客を限定しない定番商品であり、値下げすれば相応に消化が進む。仮に売れ残って持ち越しても翌シーズンに販売できる。さすがに定価での販売は難しいようで、ユニクロのECサイトでは今シーズン品の隣に同じアイテムの前シーズン品がほぼ半額で並んでいる。
これらの定番商品は年々、スペックを磨いてアップデートし、色やサイズを揃えて幅広い顧客をとらえ、欠品を回避して顧客充足率を維持すべく、在庫を抱えて補給する必要があるが、小売業だけでは手に余る。そこで活用されるのがサプライヤーとの協業だ。
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