M&A減税も効果なし!日本のアパレル、中小企業が増え続ける必然の理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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M&A減税措置が、アパレル企業では機能しない理由

 とはいえ、理論と実際は違う。というのも、3番目のうちM&A戦略は中小企業が多いアパレル業界ではあまり大きな成果を挙げられないと私は考えている。

 折しも、日本の生産性の低さの原因を「数多くの中小企業が非効率ながらも経済を支えている」ことに見いだした政府は、企業のM&Aに減税措置を設置する方針を打ち出した。

 しかし、数多くのM&Aの現場に立ち会った経験から言うと、アパレル企業は人材の流動化が激しく、事業競争力の多くは属人的である上、企業ごとに驚くほど企業文化が異なる。そんなアパレル企業が、簡単にレゴブロックのようにくっついたり離れたりしても、その成果を生み出すまでに大幅な時間がかかってしまう。

 アパレル企業、それも新興アパレルのライフサイクルをリアルな例としてお話ししよう。

1)サークル活動のノリでつくった事業がうまく行き、決して大企業が真似できないような魅力を持つブランドを次々に出す
2)次第にトレンドが過ぎていき、ここで経営破綻の危機を迎えるか、改革に成功するなどしてそのまま成功するかというコースを辿る
3)危機を迎えた企業は、金融機関が救済策として大企業による資本参加を受け入れる
4)ところが、新興アパレルの主要メンバーの多くは大企業のやり方に辟易し、出ていってしまう(そして彼らの多くは海外企業にスカウトされることが多い)

 以上が、実はアパレルのM&Aでは典型的なパターンなのである。

なぜ、空前のスタートアップブームなのか?

 加えて、大企業の方が生産性が高いというのは、生産性の計算のやり方と産業構造の仕組みの双方を理解せず、単に、売上や利益を人数で割り返しているだけだからだ。

 日本企業は、大企業になればなるほど大きな利権事業を保有し、黙っていても仕事が降ってくる仕組みができあがっている。だから、計算上は生産性が高くなるわけだが、実際に大企業では、外向きの仕事だけでなく、社内政治に労力を費やし、少なくとも価値創造という意味では余剰人員のたまり場となっていることも少なくない。大企業のほうが生産性が高いというのは、少なくとも「個人の価値活動」という観点からいえば間違っていると私は言いたい。

 なぜ、今空前のスタートアップブームなのかというと、その理由の1つとして、こうした現実に嫌気がさした若手が次々と大企業を去り、ベンチャー企業に転職したり、起業したりしているからだ。したがって、政府がM&Aを促進させたとしても、これまで説明したように、次々と子供や孫が産まれる猫のように、中小企業が枝分かれしてゆく。根本的な問題解決にはならないのである。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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