若い年齢層を獲得する新たな商品を投入し日本酒市場の活性化を進める=菊正宗酒造 嘉納治郎右衞門 社長
酒樽づくりを一般に公開
──新開発の特許酵母を使用した、新しいタイプの製品にもチャレンジし、着実に成果を出しています。貴社の動きからは、伝統とは革新の連続という表現が想起されます。
嘉納 新たな挑戦をしつつも、生酛造りをはじめ、守るべき伝統は伝承していきます。テーマに掲げているのは「伝統と革新による価値創造」。そのなかで主力商品である「樽酒」は伝統を引き継いでいかねばならない分野だと考えています。
樽酒とは、木製の樽に貯蔵することで、木の香りがついた清酒のことです。生酛造りによる酒の旨味に、当社がこだわっている奈良県吉野杉の芳潤な木香が加わることで、濃密ながら、さわやかな香りとなります。まさに樽酒にしか出せない味わいです。
──樽酒は菊正宗に欠かせない存在と言えそうですね。
嘉納 ただ近年「酒樽」の生産業者が年々、減少しているという問題があります。これに対処すべく、当社では6年前から酒樽づくりを内製化しています。具体的には、3人の酒樽職人さんを受け入れ、自前で酒樽づくりを行っています。
16年には、樽酒を瓶詰めした「瓶詰樽酒(樽びん)」が発売から50年を迎えたのを機に、工房「樽酒マイスターファクトリー」を設立、酒樽づくりの様子を一般のお客さまに公開しています。酒樽づくりに使用する道具を展示するほか、当社が吉野杉にこだわる理由を紹介する動画など、コンテンツの充実も図り、多くの方に興味を持ってもらえるよう工夫しています。
テーマは「食とのマリアージュ」
──今後、日本酒がさらに消費者に飲用されるためには、何が必要だと考えますか。
嘉納 日本酒は日本料理によく合いますが、そこだけに固執していては限りがあると思うのです。16年4月に立ち上げた新ブランド「百黙」は、食の多様化する時代にあり「料理と共に高め合う個性をもったお酒」をコンセプトとしています。このブランドは当初、兵庫県で限定販売していましたが、徐々にエリアを拡大し、百貨店やレストランでも飲んでもらうための営業活動にも力をいれています。
テーマは「食とのマリアージュ」。ワインのように、料理の垣根を越え、日本酒も広く飲まれるようになればと思っています。国内だけでなく海外市場も視野に入れており、昨年はフランスのパリ、19年6月には米国のニューヨークでお披露目会を開催しました。
──食品スーパー(SM)へのメッセージをお願いします。
嘉納 日本酒は非常に多様性のある商材です。蔵元は、北は北海道、南は九州、沖縄まであり、月見酒、雪見酒など季節感も打ち出せます。飲む温度帯にしても、冷酒、常温、さらに燗と幅広く、生活シーンに寄り添った提案が可能です。ぜひ売場を特徴づける商材として活用していただきたいと思いますし、当社がその提案をさせていただきます。
──最後にこれからの展望を教えてください。
嘉納 当社は19年、創業360周年を迎えました。1年を1度とすると、360度一周し、新たな一歩を踏み出す節目に、地元神戸のJリーグチーム、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手と出会いました。先日、当社のアンバサダーに就任していただき、その記者発表会でも大きな反響がありました。すでに若い年齢層からの注目度も高まっています。
これからもより多くの方に日本酒を飲んでいただくため、さまざまな取り組みに挑戦してまいります。
菊正宗酒造企業概要
創業 | 万治2年(1659年) | |
設立 | 大正8年(1919年) | |
社長 | 嘉納治郎右衞門 | |
本社 | 兵庫県神戸市東灘区 |