11月29日、業界を激震させるビッグニュースが飛び込んできた。小売大手イオン(千葉県/岡田元也社長)と英国ネットスーパー企業のオカド(Ocado)が戦略的パートナーシップを提携する。会見で語られたイオンのネットスーパー事業の構想をレポートする。
オカドは2000年に英国・ロンドンで設立された、オンライン専業の食品スーパー事業で世界最大手とされる企業だ。英国でのネットスーパー事業のほか、オンライン注文システムから、自動フルフィルメントセンター、配送システムまで、エンドツーエンドでオンライン食品・日用品販売におけるソリューションを提供する「オカド・スマート・プラットフォーム」(OSP)サービスを提供している。
このOSPの技術が高い評価を得ており、13年の英国モリソンズ(Morrisons)を発端に、フランスのカジノ・グループ(Groupe Casino)、カナダのソベイズ(Sobeys)、スウェーデンのイーカ(ICA)、そして18年5月には米国最大手のクローガー(Kroger)と、次々と世界各国の大手小売企業と提携している。
ネットスーパー売上高を
30年までに6000億円へ
今回の発表は、イオンがこのオカド子会社であるオカドソリューションズ(Ocado solutions)と、OSPの導入における独占パートナーシップ契約を締結するというものだ。
イオンは20年3月までに新会社を立ち上げ、場所は未定だが23年にAIやロボットなどの最新の設備を導入した大規模フルフィルメントセンター(中央集約型倉庫)を設立し「次世代ネットスーパー」をスタートさせる。
新サービスの事業エリアは、まず首都圏に始まり、将来的には全国に拡大させる。30年までに売上高6000億円を達成し、国内ナンバーワンのネットスーパーをめざす。
提携発表の記者会見にはオカドのティム・スタイナーCEOも来日し出席。「日本事業を成功させるために正しいパートナー企業を得ることができた」と述べた。
一方、イオンの岡田元也社長も「オカドと提携している世界の小売企業と切磋琢磨しそのなかでもナンバーワン企業になりたい」と語った。
オカドのノウハウで
3つの進化を実現
では、イオンがめざす「次世代ネットスーパー」とはどのようなものか。具体的には、オカドのOSPを導入することで、①「シームレスなデジタル体験」、➁「豊富な品揃えと新鮮な商品の提供」、③「利便性の高い配達」を可能にするという。
順に説明すると、①の「シームレスなデジタル体験」では、ユーザーインターフェース(UI)の優れた新スマホアプリを開発する。レコメンド機能も強化し既存のアプリよりも注文における利便性を高める。イオンの吉田昭夫副社長は「オカドのUIは非常に優れており注文から決済までにかかる時間が圧倒的に早くなる。これだけでも多くの利用を獲得できるようになる」と語る。
➁の「豊富な品揃えと新鮮な商品の提供」では、新たなフルフィルメントセンターの稼働により約5万5000品目の品揃えを可能にする。食品を中心にラインロビングし、食品スーパー同様の買物ができる品揃えを実現させるという。衣料品や住居関連品などを扱う予定はない。
新鮮な商品の提供については、日本の消費者はとくに生鮮食品に求める品質が高い。これに対し、フルフィルメントセンター内に厨房も完備して鮮度の高い状態で商品を出荷するとともに、倉庫内から配送時まで温度帯管理されたコールドチェーンを構築する。
③の「利便性の高い配達」では、オカドの配送システムを導入して、1時間単位で受け取り時間を指定できる配送体制を構築すると同時に、配送効率も高める。
実際に英国でトラックの助手席に乗車しオカドの配送サービスの現場を見学してきたという吉田副社長は「タブレット端末でドライバーに作業や配送ルートが細かく指示され、数分単位で配送時間が管理できるようになる」と語る。
物流網を独自で構築
“Oneイオン”をめざす
イオンの本気度が窺えるのが、「次世代ネットスーパー」の物流網の構築において、サービス開始直後は他の事業者の協力も仰ぐが、最終的には自前化をめざすという点だ。
「イオン傘下の200社近い事業会社が“Oneイオン”となりシナジーを発揮させることでこれを可能にする」と吉田副社長は説明する。
具体的には、フルフィルメントセンターだけでなく、グループ傘下の食品スーパーや総合スーパーの店舗も拠点に配送を行う。既存の各事業者会社が展開しているネットスーパーについては継続し、可能な部分は統合していく考えだ。
吉田副社長は「全国の事業会社のなかにはイオングループであることが消費者に理解されていない企業もある。次世代ネットスーパーという1つのサービスを全国で展開するに当たり、企業名の変更も検討している」とも言及した。
中期経営計画の1つに「デジタルシフト」を掲げ、全体売上高に占めるECの構成比を大きく引き上げる方針を打ち出していたイオン。今回のオカドとの提携はその具体的な施策を明らかにしたかたちだ。
OSP開発のもとになったオカドのネットスーパーとイオンの同事業モデルで異なる点は、イオンがリアル店舗を有する点だ。
例えば18年にオカドと資本提携を結び、米国においてOSP事業の独占使用権を持っているクローガーだが、「店舗を資産に持つ同社がフルフィルメントセンターを持つことに意味があるのか」という、提携効果に対して懐疑的な見方を示したアナリストのレポートを引き金に株価を落としたという過去がある。
その意味で“イオン流”でセンターと店舗の双方を拠点とした収益性の高い事業モデルを構築できるかがカギとなりそうだが、その成功モデルと言えるものは現時点ではまだない。また、多少うがった見方をすると、「国内有力他社にオカドを取られないため」(流通専門家)という防衛手段の側面も考えられなくはない。なぜなら、オカドのパートナーシップは1国1社が原則だからだ。
いずれにせよオカドはネットスーパー事業を巨大ビジネスにスケールさせる知見と技術と実績を持ち、そのノウハウをパートナー企業に提供する稀有な企業。「イオンに遅れを取った」とほぞを噛んでいる食品小売業は少なくのではないか?