国内アパレルの悲劇 差別化できないのは、「ブランド」と「分類」を混同しているから
デジタル化の先にあるのは、ブランドを基軸とした付加価値戦
ブランドビジネスは恐ろしい。「縦の線」と「横の線」を理解している企業(多くが欧米企業だが)が、理解していない消費者から根こそぎ金を奪い取る。明らかに日本人はブランドづくりが下手で、ブランドにお金は落とすが、自分で育みビジネスとして拡大するのは(ごく一部の例外を除いて)下手だ。
人は、同じものなら、本物か安い方を買う。日本のアパレル業界の差別化のポイントが、現在のように「価格のみ」となってしまったのは、こうした背景があったからだ。だから、ブランドをつかってビジネスを成長させたいのであれば、きちんと「ブランド間の価値、優劣の差」を定義し、また、競合に対しても、しっかり差別化するための戦略を考えなければならない。価格競争から抜け出すためにはそれしかないだろう。
そして、値段が高くとも、消費者がそれ以上の満足を得られる「ブランド」こそ構築すべき最重要課題であると考えている。もちろん、これは「言うは易く行うは難し」だ。それが簡単にできれば苦労しないというのは十二分に理解しているし、かくいう私自身も、多くのブランドを立ち上げ、また失敗もした。
しかし、世の中をみてみよう。勝っている企業は、例外なく「他とは違うビジネス」を展開し、きっちりと自社のブランドポジションを確立している。決して、あっちに、こっちにふらついたりしていない。守るべきこと、そして、絶対にしないことを頑なに堅持し守り抜いている。
デジタル化の本質は、Optimization (最適化)である。つまり、重複した業務、不要な時間の削除、無駄な在庫、無駄な資産、そして、悲しいことだが無駄な人員までも浮かび上がらせ、企業に提示する。そして、これも悲しいことではあるが、労働者の40%が不要人材で、80%以上が、コストに見合った付加価値を生み出していないという事実を浮かび上がらせる。私は、過去、OVA (Overhead Analysisというホワイトカラーの付加価値分析をなんどもやり、こうした組織のムダを浮かび上がらせてきた経験からいっている。デジタル化とは、こうしたオペレーション上のムリ、ムダ、ムチャを浮かび上がらせ、我々の仕事の生産性を上げるだけでなく、我々の仕事上の必要性さえも問いかけるのだ。
誰かが書いた本に、このようなものがあった。「金持ちがポルシェを買うのは、リセールバリューが高いからだ」と。確かに、数千万円もするポルシェを買っても、きれいにつかっていれば、買ったときとほとんど同じ値段で売ることができる。下手をしたら、それ以上かもしれない。しかし、本当に、ポルシェが売れるのはリセールバリューが高いからなのだろうか? 私はそうは思わない。少なくとも、私が乗っているBMWは、リセールのことなど考えていない。私が、BMWを買ったのは、「駆け抜ける喜び」を感じるからだ。ポルシェのオーナーの多くも、リセールが高いからでなく、ポルシェに乗ることに喜びを感じ、ワクワク感を感じるからだ。でなければ、ベンツ、BMW、AUDIのジャーマン御三家が高収益を生み乱す理由が説明できない。
この「ワクワク感」こそが、ブランドの本質である。このワクワク感を、定量的なROI(投資回収率)で説明しようとするから、世の中の車のボディカラーの多くは、(リセールを気にして)白か黒色かになってしまう。また、二時流通が発展していない衣料品の世界では、リセールで最も売れているのはユニクロになるし、新品の衣料品で売れているのも、何年も使えるワークマンということになる。
目に見えないもの。Intangible asset (無形固定資産)の価値を正しく評価できない市場は、価格と品質のバランスが唯一の購買要因となり、やがて発展する途上国に抜かされ衰退してゆくことになる。我々は、そもそもファッションが持つ楽しさ、心の豊かさをもう一度ビジネスとして利用するための施策を真面目に検討する時期がきているといえる。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)